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カテゴリ:読んだ本
2003年04月 新潮社より
「金沢藩士猪山家文書」という武家文書に、精巧な「家計簿」が 例を見ない完全な姿で遺されていた。 国史研究史上、初めての発見と言ってよい。 タイム・カプセルの蓋を開けてみれば、金融破綻、地価下落、リストラ、教育問題・・・ など、猪山家は現代の我々が直面する問題を全て経験済みだった! 活き活きと復元された武士の暮らしを通じて江戸時代に対する通年が覆され、 全く違った「日本の近代」が見えてくる。 (表紙裏 紹介文より) 2010年に公開された映画の原作なので、小説なんだと思っていたら違いました。 日本の近世・近代史・日本社会経済史を専門とする歴史学者である著者が書いた本で、 神田の古書店で発見された資料の解説となっています。 その資料とは、1842年(天保13年)から1879(明治12年)年の37年に渡って書き続けられた 猪山家の家計簿。 収入金額、買い物の内容、借金の金額と借りた先などが詳細に記されています。 これを書き残した猪山家は、加賀藩の「御算用者」。 つまり、加賀藩の会計処理の専門家であり、経理実務のプロ。 これのおかげで近世武士の暮らしぶりの詳細が明らかになった、と著者が喜んでいました。 そして、内容的にも小説に負けないくらい面白かったです。 江戸時代の武士の職業や身分は世襲制で、生まれで全てが決まる世界。 その中で、御算用者だけは実力があれば採用され、出世ができる職業。 猪山家は3世代(信之-直之-成之)に渡って優秀な御算用者を生み出した家系で、 会計だけでなく、藩主の書記官をも努める最高の出世頭。 しかし、信之の時代には裕福ではなかったようです。 というより、その時代の武士はそれほど裕福ではなかったらしい。 武士としての体裁を保つための『身分費用』が高額で、借金まみれ。 親子2代が同時に出仕して、よその2倍稼いでいた猪山家でさえ大変だったようで 一大決心をして家財を売り払い、借金整理などを行っています。 身分費用とは、冠婚葬祭とか家来・下女を雇う人件費とか。 冠婚葬祭も親戚づきあいのやりとりが濃厚で、他家からお使いが来たら 必ず使者にご祝儀を払わないといけなかったり。 武士の外出には家来が、武家の女が外出するには同道しなければいけないし。 個人的なお小遣いレベルで言えば、家来や下女の方が信之よりお金持っていたりして。 武士も大変だな、という感じでした。 成之の時代は、幕末から明治維新。 加賀藩は外様大名の中で最大の徳川慶喜派だったと初めて知りました。 時代は京都で作られる、と加賀藩も京都へ派兵。 その兵糧を賄う兵站業務を担ったのが成之。 しかし、王政復古の大号令があって、藩主は空しく加賀藩へ帰還。 成之は大村益次郎からのヘッドハンティングされ、明治政府のために兵站業務を 行うようになります。 猪山家の人々の特徴として、政治的思想がまったくない。 その時に仕えている主の要望に応じて、与えられた業務を優秀か忠実に実施するのです。 主からすると重宝な存在。 そのため順調に出世を重ねていくのですが、大村益次郎の暗殺により地位を失う。 しかし政府の行政内にはいて、そこから海軍掛りとなり再び昇進をしていきます。 明治維新後、藩は廃止され、多くの武士が収入の道を失いました。 国の役人として出仕できた武士とできなかった武士とでは、収入に大きな開きがあった。 成之は海軍に勤めていますから、高収入。 明治7年の年収が1235円(現在価値で3600万円くらい)。 一方、民間企業に勤めたある武士は150万円程度だったようです。 文中に 『これが士族にとつての明治維新の現実であった。 新政府を樹立した人々は、お手盛りで超高級をもらう仕組みをそくって、 さんざんに利を得たのである。 官僚が税金から自分の利益を得るため、好き勝手に制度をつくり、それに対して 国民がチェックできないというこの国の病理はすでに、この頃に始まっている』 という筆者の考察があり、むむむー、明治政府めっ!!と思いました。 その後、成之は子供達に厳しい教育を施し、長男・次男とも海軍に入れています。 後に本人は引退。 しかし、戦争で末子を亡くしたり、甥が収賄事件に巻き込まれたりもしたらしい。 それをして、筆者は『痛ましい晩年』と評していますが、多くの武士達が暮らしに困り、 場合によっては命も落としていたかもしれない時代を思うと、 家族の多くが裕福に暮らしていけたことを思うと、幸せな方だったんじゃないかと 思いました。 これ、映画化されているんですよね。 見てみたい気もするけど、見たら明治政府にむかつく気もする。 どうしたもんだか。 ![]() お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2016.03.09 12:43:35
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