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2016.05.16
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カテゴリ:読んだ本
訳:山本 雅男、植月 恵一郎、久保 陽子
2015年11月 彩流社より

その悲劇は近代日本の上昇期、南海熊野の海で起こった。
多数の犠牲者、そして手厚い救助。
トルコ国民のなかに日本人の温情が刻まれた瞬間…。
トルコ人なら誰でも知っているこの海難事故。
日本人が歴史のかなたに忘れた悲劇を、トルコ人の著者が綿密な調査によって
現代に甦らせた歴史物語!

(BOOKデータベースより)


エルトゥールル号に関する本は過去にも読んでいるのですが、
これはトルコ人が書いたもの。
日本人が見るエルトゥールル号とは違うのではないかと思って読んでみました。

大きく違うのは、日本人のものは船が沈没するところから話がスタートするのに対し、
こちらは沈没するのは終盤。
内容も事実を淡々と、といった感じ。
描きたいのは、日本に到達するまでの問題点や苦労などなのだろうと思います。

1890年(和暦では明治23年)オスマン帝国は衰退し始めており、
イギリスやオランダといった西欧諸国相手に苦労をしています。
アブドウル・ハミッド皇帝は日本に外交特使を送ることを決める。
目的は平等な通使用条約の締結と両国間の軍事協定。
併せて、イスラム教盟主の巡洋艦が、英国領下にあるボンベイ、コロンボ、シンガポール
といったアジアの都市に立ち寄り、現地のイスラム教徒から熱烈な歓迎を受けることで
英国に影響を与えたい、という思惑もあります。

選ばれたのは帆とエンジンの両方を推進力として持つ美しい木造巡洋艦エルトゥールル号。
ちなみに、オスマン帝国の建国の父の名がエルトゥールル・カーンだそうで
由緒ある名前のようですね。
しかし、この船は老朽船。
前年に大改修が行われたのですが、多額な回収予算のうち少なからぬ金額が
海軍大臣らの私腹を肥やすために流れた、という噂もあります。
また、特使として選ばれたのは海軍大臣の娘婿。
反大臣派からは、航海の経験もろくにないのにコネで選ばれたと見なされています。
出発後には、英国のスパイが航海の妨害を図ります。
船内にもこのスパイに呼応する士官がいて、エンジン部分に不調をもたらしたりする。
またスエズ運河(イギリス領下)を航行する時には、イギリス人案内人がわざと座礁させて
船を損傷させたり、長く足止めしたり。
予算があまりないので、石炭をあまり使わずに帆走したいエルトゥールル号。
石炭が足りなくて予定外の寄港地に立ち寄ったり、悪天候だったり
それで帆走に適した風が吹くのを待たなくてはならなかったり困難の連続。
結局11ヶ月もかかって、やっと日本にたどり着くことになるのです。
ちなみに、難破後に助かったエルトゥールル号乗員をオスマン帝国へ送っていった
日本の軍艦・比叡と金剛は3ヶ月で到着しています。

そこまでして来た日本。
しかし、通商条約はイギリスやフランスに与えた特権を日本にも与えるならOKと言われ、
軍事協定は検討する、とだけ。
気の毒になってしまいます。
あげくに台風に巻き込まれて沈没。
後の検証で原因は、悪天候、エンジンの不調、乗員の未熟さとされたようです。

沈没後の民間人による手厚い救援はトルコ人と日本の間に強い絆をもたらしましたが、
当時の国同士のやりとりは案外冷たかったのだなと、ちょっと寂しい気持ち。
1985年のイラン・イラク戦争の際に救援の手を差し伸べてくれたトルコ人(トルコ政府)は
寛大だったなと思いました。

小説仕立てなので、乗員の家族も登場したりするのですが、海軍大臣の娘(特使の妻)が
わがままで特使と冷たい関係で離婚したがっているとかあって、え?この話いる?と
思いました。
訳について、大島村・樫野の住民のセリフが訛りが強すぎて、日本人にも読みにくい状態に
なっているのが、やり過ぎ感がありました。







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Last updated  2016.05.16 12:38:47
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