セールの中のストッキング

2012/07/26(木)01:04

20代女性はなぜパンティストッキングをはき始めたのか?

パンティストッキング(152)

20代女性はなぜパンティストッキングをはき始めたのか? 2012年07月20日  90年代から続くナマ脚ブームの陰で減少の一途にあったパンスト需要に変化が起きている。カラータイツやレギンスに慣れ親しんだ20代前半の女性たちの間に、「ナマ脚よりもきれいに見える」と、“透けるタイツ”の感覚でストッキングをはき始めるパンストビギナーが増えているという。素肌っぽく見えるストッキングには、なんと“タトゥー柄”も登場した。 バブル時代「ボディコン」がけん引したパンスト市場は9分の1にまで縮小  今をさかのぼることおよそ四半世紀、おじさんたちには懐かしい響きのする「ボディコン」がブームだった。バブル時代、パッツパツに着飾るファッションはパンティストッキングの需要をけん引し、その生産量は1989年、過去最高を記録した。  日本靴下工業組合連合会の調査によると、同年のパンスト国内生産量は10億8378万足。その後、需要は年々減り続け、2011年の生産量は1億1936万足と最盛期の9分の1にまで落ち込んでしまった。なぜか。  「要因として一番大きいのは、1995年に決定的となったナマ脚ブームです。ストッキングをはかないほうがオシャレ、カッコいいという価値観が定着してしまったこと」。1968年日本で初めてパンストを製造販売した業界最大手、アツギの営業本部マーケティング部で商品広報を担当する山先薫さんはこう分析する。  バブル崩壊後はカジュアルな服へシフトし、パンツルックが増え、パンストは必要なとき以外ははかないという女性が増え、ナマ脚ブームは長引いた。「かつて女性なら誰もが欲しがるファッションアイテムだったストッキングが、マナーや制服として“仕方なくはくもの”という認識に変わっていったと思います」(山先さん) 若い女性は「透けるレッグウェア」に新鮮さを感じる  ところが2011年、市場に変化が訪れた。百貨店の靴下売り場でずっと売れなかったストッキングが上向き、主要メーカーの売上高は前年実績を上回りはじめた。アツギでも1足売り500円以上のプレーン(無地)パンティストッキングの売り上げが前年比2桁増で伸びている。  ナマ脚の台頭でめっきり存在感が薄れていた「ストッキング」を、特に20代前半の女性たちが「薄手のタイツ」の感覚ではき始めているのだという。  背景として山先さんが挙げるのが、「数年前からのレッグウェアの流行」だ。  「10代後半からカラータイツ、レギンス、トレンカなどの流行アイテムを経験し、脚に何かまとうことに慣れ親しんだ20代前半の女性たちが、“透け感のあるレッグウェア”としてストッキングに新鮮さを感じるのではないか。一度はいてみるとナマ脚よりきれいに見えることに気がつき、リピート買いにつながっているように思われます」(山先さん) やっぱり美脚への憧れか?  市場で「パンストの復権」をリードする商品と評価されているのが、2011年春、アツギが発売したプレーンストッキングの新ブランド「ASTIGU/アスティーグ」だ。「最先端のファッションとして日本のパンティストッキングの歴史を切り拓いてきたアツギが挑戦する、いわばプレーンストッキングの逆襲」(同社)とうたう。  「パンティストッキングは、ナマ脚よりも脚をきれいに見せられるファッションアイテム。その“本来の価値”への再評価が今の人気につながった」と前出の山先さんは指摘する。  脚は女性らしさを象徴する体のパーツの1つ。美脚が男女の憧れであることは、K-POP(韓国ポップス)の女性アイドル人気からもうかがえる。――女性のきれいな脚ってやっぱりステキだよね、脚はカバーするよりきれいに見せたほうが得なんじゃないの?――という再認識だ。  アイドルの美脚を手本に、“なりたい脚”に近づくためにストッキングをはく。20代向けファッション誌がストッキングを「薄手タイツ」と称し、“今の延長線上にある新たなアイテム”として紹介したことも流行を加速させた。 「脚」をつまらなくするレギンス、トレンカはもうダサい  パンスト人気の一因には、かつてその王座を奪い、苦境に追いやったレギンスやトレンカの猫も杓子も状態への「飽き」もあるようだ。  女性が「脚を出す」スカートをはいたところで、出した部分を黒々と覆い、形が良かろうが悪かろうがみんながみんな“楽そうにはいてる”色気のないレギンスやトレンカは男ウケも悪い。  レギンスがおばさん世代にまで広がるほどヒットしたのは、「これをはけばコーディネートはなんとかなる、誰でもはける、それなのにオシャレ」と思われたからだ。  ナマ脚にはなれない、体型に自信がない場合にも、レギンスはなんとなく堂々と登板する。女性心理としては「下はレギンスをはけばいいから、かわいいワンピが着られる、ワンピならズボンじゃ露わになる腰や太ももを(一応)隠せるし」とか思う。  “今風コーデ”の名の下、なんとなく隠しながら、なんとなくオシャレっぽいという点で、レギンスは重宝された。  男性の目には、美脚のはずの女性までもが、脚を隠したい女性同様レギンスをはき、脚をつまらなくしているのが「残念」だったわけですよね。 美しさの奥に最先端機能を秘めたパンティストッキング  今、20代前半で初めてストッキング(=透けるレッグウェア)をはくビギナーの女性にとって、パンストは新たなアイテム。だがアツギでは「メーカーの訴求の仕方も消費者の受け止め方も、本来の価値への原点回帰」と位置づける。  とはいえ、商品機能は昔通りではない。長引くナマ脚ブームの間、国内メーカーが機能性向上に切磋琢磨したからこそ現在の復権があるという。  例えば、アスティーグ全11種類には光触媒加工の消臭機能が施されている。ストッキングに酸化チタンを固定し、太陽光や蛍光灯の光があたるとにおいの原因となる細菌などの有機物を水と二酸化炭素に分解する。光触媒の技術は外装材をはじめ、幅広い用途にすでに使われているが、技術的に非常に困難とされていた伸縮性の高い繊維への応用に2004年、アツギが世界で初めて成功し、特許を取得した。  アスティーグ「輝」には、新素材で「断面がハート型の糸」を使用している。正反射と拡散反射の光のミックスにより、ぎらつかない上品な光沢感を実現する。  最新技術を駆使するのは、アスティーグ「肌」の「自然な素肌感」。女性がストッキングに求める理想の1つ、「ナマ脚よりも肌を美しく見せながら、まるでストッキングをはいていないかのような素肌っぽさ」を実現するという。(この技術は現在特許出願中のため詳細は聞けなかった) 今年は巷で「タトゥー柄パンスト」も流行中  ところで今年、街で目を引くのがタトゥー柄のストッキングだ。  渋谷で若い女性向けの靴下屋を数軒のぞき、今年の“新モノ”を尋ねると、どの店のスタッフもタトゥー柄パンストを指す。「本当にタトゥーみたいに見えるんですよ」。原宿にはタトゥー柄に力を入れるレッグウェア専門店もある。販売員によると、昨年の終わり頃、雑誌に店が紹介されてタトゥー柄パンストがはやり始めたのだとか。「“二度見”されるのが楽しくてみんなはいてる(笑)。タトゥーを入れたいとかは全然関係ない」と言う。  柄をのせるための「地」として限りなくナマ脚に近いストッキングをはくことになる。美脚に見せつつ柄で驚かすわけだ……。  タトゥー柄パンストをはく際の上級テクも教えてくれた。柄をわざと一部隠すようにソックスをはいたり、ストッキングの上にアミアミのストッキングを重ねばきして「アミ目」からタトゥー柄をチラ見せする。「柄を全部見せないほうが、逆にインパクトがでるんですよ(笑)」(販売員)。  アツギでは、タトゥー柄は「局地的な流行」(同社)と見なし、生産していない。 著者 赤星千春(あかぼし ちはる) 「?」と「!」を武器に、トレンドのリアルな姿を取材するライター&エディター。

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