らくてんオヤジの世相手帳

2006/03/18(土)11:55

IT世界の知恵の宝庫!-梅田望夫「ウェブ進化論」(ちくま新書740円)

書籍(29)

久しぶりに寝食を忘れて読みふけりました。 著者、梅田望夫氏(1960年生まれ)は、シリコンバレーで長く働いてきたIT業界のコンサルタントです。 この本で氏は、IT業界の過去10年の歩みを解釈し意味づけ、その延長線上に氏の考えるIT業界の未来を描いて見せます。 実に刺激的でワクワクするような論考です。例えばこんな具合です。 次の10年の三大潮流として「チープ革命」、「インターネット」、「オープンソース」(=ある機能のプログラムを無償で公開すること)があると氏は言います。 まずは「チープ革命」。 氏は、 「『次の十年』は、ITに関する『必要十分』な機能のすべてを、誰もがほとんどコストを意識することなく手に入れる時代になる。」 と述べます。 具体例として、 (1)「ムーアの法則」によって下落し続けるハードウェア価格 ※「ムーアの法則」=あらゆるIT関連製品のコストは、年率30~40%で下落していく (2)リナックスに代表されるオープンソース・ソフトウェア登場によるソフトウェア無料化 (3)ブロードバンド普及による回線コストの大幅下落 (4)検索エンジンのような無償サービスの充実 をあげます。 次に「インターネット」。 氏は、 「インターネットの真の意味は、不特定多数無限大の人々とのつながりを持つためのコストがほぼゼロになったということである。」 と指摘します。 次いで「オープンソース」。 これについては、具体例として、先のリナックスのほか、ネット上で誰でも書き込める百科事典「ウィキペディア」を上げ、その意義を論じています。 これら三テーマについて論じた後、議論はさらに具体的になります。 1.従来、商売としては効率が悪いとされてきた多品種少量本、つまり「あまり売れない本」のことですが、アマゾンは、この種の本で売上を大きく伸ばしている、と推測されているそうです。 この現象に着目し、ITの世界では「『塵も積もれば山となる』効果」が期待できる、としたのが「ロングテール」問題です。これは、例の「売上の8割は、品揃えの2割からあがる」など「2割・8割」現象の指摘で知られる「パレートの法則」に修正を迫る画期的な現象です。 ※「ロングテール」とは、書籍の売上高を書籍一品ごとにグラフ化すると、恐竜の姿ような、右肩下がりの極端な双曲線を描き、売上が小部数の大部分の本は、長~い恐竜の尻尾のようなグラフになることから名ずけられています。 2.ブログの普及に代表される「総表現社会」というキーワードについては、「総表現社会=チープ革命×検索エンジン×自動秩序形成システム」という方程式をたてて説明しています。 つまり、誰かが何かを書いても、かっては誰も気づいてくれなかったが、「検索エンジン」の大幅な技術的向上と、今後ブレークスルーが期待される「自動秩序形成システム」の出現によって、今後は「誰かが何かを書けば、書いたものは、必ずどこかの誰かの目に触れるようになる、と氏は指摘します。 その影響として、たとえ著作権料問題などの解決で時間はかかるかもしれないが、メディアの世界は大きな変化を余儀なくされるだろう、と推測しています この項では、氏はブログの急激な普及に触れて、非常に興味深い指摘をしています。 ブログの数は、アメリカで2、000万件、日本でも500万件に達したそうです。これは、今まで社会的発言をしなかった、かっての「物言わぬ」膨大な数の普通の人間が、ブログという表現手段を得て、発言しだしたことだと指摘します。 このうち質の高いブログが、1000件に1件でもあれば、高レベルのブログが、現在の日本でさえ5千件もあることになります。これは何を意味するのか。 A.いままで、本を書いたりメディアに登場したりしていた人というのは、いかにごく一部の、少数の人たちにすぎなかったかということ。 B.しかも、その人たちも、格別に選ばれた人、というよりは「たまたまそういう役回りになった」という側面が強いこと。 C.そういう世界に、ある程度の教養や見識を持った、かっての「サイレント・マジョリティー」の一部が参入してきて、発言しだしたということ。 D.かって、ピラミッドのてっぺんの、ごく一部の人たちの意見で動いていた世論が、ピラミッドのもう少し下の方まで発言者の層が下がり、世論の動向が変わってきていること。そして、マスコミによる世論の誘導が不発に終わる例が表れて始めているということ。 E.具体例として、先の郵政民営化の是非が問われた衆議院選挙において、事前に小泉圧勝を予想した人はほとんどいなかった。だが、著者は、選挙のだいぶ前からこのテーマでブログをじっくり調べ、その結果、小泉支持のブログが非常に多いことに驚き、小泉圧勝を予想した、と慎重な言い回しながら述べています。ブログを分析すれば、近未来が予測できるというのです。 3.さらに、今後を占うキーワードとして、著者は「不特定多数無限大への信頼」と「自動秩序形成」をあげています。 著者はグーグルという会社に着目し、世界中の情報を自社検索エンジンに登録する、という壮大な目標を同社が掲げていることを紹介しています。 もし、世界政府なるものがあれば、その政府がきっと作るはずのシステムをグーグルは構築しつつあるのだ、とグーグル自らが宣言しているそうですが、その背景にある思想を著者は「不特定多数無限大への信頼」であるとしています。 そして、現在のIT世界、もしくはインターネット世界に足りないものは、検索エンジンからさらにもう一歩踏み出して、混沌とした情報の海を整理し、有意味な体系を作り上げる「自動秩序形成」システムである、と指摘しています。 この他にも、刺激的な指摘がいくつもちりばめられています。 私の、狭い興味の範囲内の意見で恐縮ですが、「武士の家計簿」(新潮新書)、「拒否できいない日本」(文春新書)、「西洋音楽史」(中公新書)に続く、近年まれに見る活字成果だと思います。 ウェブ進化論 西洋音楽史 拒否できない日本 武士の家計簿

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