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らくてんオヤジの世相手帳

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スマイリー・ネット

2006.05.08
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3・特集:時代小説―江戸時代編―

―平岩弓枝「小判商人―御宿かわせみ―」(文芸春秋。1300円<税込>)―

●昨年(平成17年)4月に出た待望のシリーズ新作集です。
●平岩さんは文壇きっての時代小説の巨匠です。今度の連作短編集も7編すべて粒よりです。人情の勘所をしっかりとつかんでいます。私など、恥ずかしながらこの一冊を読み終える間に何度涙を流したことか。
●今回は離れ離れになっていた母と息子との再会を軸にしたお話が多いです。
と言うとベタベタの「お涙頂戴もの」を連想されると思いますが、そこはそれ、平岩さんの円熟の筆にかかると「現実とはこんなものだろう」と思わせるようなカラッとした仕上がりになります。
しかも、それにもかかわらず、というか、それゆえに、というか、思わずほろりとさせられます。安心して泣けるというか。
物語が、あまり不幸すぎたり悲惨すぎたりすると、読者はかえって泣けないものだと思います。そのへんのさじ加減が絶妙です。
●例えば「明石玉のかんざし」を見てみましょう。
ある日上方から出府してきた若い職人夫婦が「かわせみ」に宿を取ります。やがて夫のほうは、江戸の老舗の鼈甲細工屋の跡取り息子と判ります。「ガキの時分にぐれて」、行方不明になっていましたが、その後西のほうへ放浪した末、「明石玉」という廉価品の細工物職人として立ち直っていました。この度、妻を伴って出府した息子は、母を訪ね、わびようとします。

一方、母親の方は息子の出奔後、亭主に死なれ、その上親戚から出来の悪い放蕩者を養子として押し付けられていたことが、やがてわかります。

息子が江戸に戻ってきたことを知った母親は、息子の泊まっている「かわせみ」に籠を飛ばし、息せき切って駆けつけ、息子を抱きしめて感涙に咽びます。

ところが、息子が店に戻る話になると、母親は途端に「明石玉というような偽物に、一度でも手を染めた者を跡取りにしては、店の暖簾に傷が付く。お前を店に入れるわけには行かない」ときっぱり言い放ちます。
しかも母親はその時、息子の嫁が頭にさしている、息子が作った「安物の」明石玉の櫛を、「息子の嫁が偽者を頭にさしているのは世間体が悪い」と言って取り上げ、代わりに自分が頭にさしている高価な鼈甲細工の櫛を嫁に渡して去って行きます。

息子夫婦は、諦めがつき、翌日さばさばして西に戻ります。

その数ヵ月後、あの母親が切り盛りする老舗の鼈甲細工屋が突然倒産したことを「かわせみ」の衆は知ります。また、倒産した鼈甲細工屋の女主人であるくだんの母親は、息子が作った明石玉の櫛を懐に、尼寺に入ったという噂を同時に耳にします。

やがて「かわせみ」の衆は、鼈甲屋のぼろぼろの内情を熟知していた母親が、息子に苦労をかけまいと、あの日、一芝居打ったのだ、ということに思い至ったのでした。
●一度の場面しか出てこない鼈甲屋のこのおかみですが、母親の愛情に溢れながらも、気丈に振舞ってみせる姿がとても印象的です。(以上)

4.図書館の蔵書から
―松本清張「文豪」(文春文庫。562円+税)―

●この作品集には長編「行者神髄」、短編「葉花星宿」、中篇「正太夫の舌」の力作三篇が収められています。いずれもかなり特異な実名小説です。一見、まるで女性誌のゴシップ記事のようで、大変面白いです。但し、文献調査は徹底しており、資料の読み込みと洞察は深く、さすが「日本の黒い霧」の作者が書いただけのことはあります。
●この作品集は、初出は1974年10月だそうですから、出版されてからすでに30年が経過していますが、清張氏にこんな作品集があるなんて、寡聞にして私は知りませんでした。登場人物がすべて実在の人物なのに、実に忌憚のない書き方をしています。読んでいて、登場人物の子孫の方々の名誉問題が気になってくるほどです。
●力作長編「行者神髄」は、文芸評論「小説神髄」や言文一致小説「当世書生気質」で知られる明治の文学界の大御所坪内逍遥の、小説の形をとった評伝です。小説の形をとったのは、作者の遠慮のない解釈を表現するにはそのほうが都合がよいと、作者が考えたからでしょう。
●坪内は若い頃、若気の至りで岡場所の女、つまり、あまり上等ならざる売春婦を落籍(ひか)せ、妻に迎えます。しかも実際に一緒に暮らすようになると、無教養な上によくヒステリーを起こします。この妻の存在が、坪内の終生の悔恨の種になっていたに違いない、というのが作者の仮説です。この仮説を、いろいろな文献の記述から検証しつつ、記述にもとづいて想像の羽を伸ばし、坪内の、時々の心象風景を洞察してゆきます。事実上の評伝でありながら、まるでミステリーを読んでいるような面白さがあります。
●また、坪内は評論で言文一致の文体を主張し、実践にも手を染めました。しかし、実践では挫折します。当人が書き残した文献によれば、二葉亭四迷の出現によって、実践の筆を折る決心をしたことになっています。だが作者は、真の原因は若い二葉亭四迷の出現ではなく、同年輩のライバル山田美妙に小説作品の評判で完敗したことであると主張します。坪内は、そのため山田に敵意を持ち、後に、山田の妾を養ったり花柳界に入り浸る私生活を、坪内が自分のことを棚に上げて激しく攻撃します。これが結局、山田美妙の作家生命を奪うことになります。
●短編「葉花星宿」は、明治の文壇の大御所で「金色夜叉」の作者として知られる「尾崎紅葉」が主人公です。これに、紅葉の弟子で、師匠より才能に恵まれた「困った弟子」泉鏡花を配して、師匠と弟子の葛藤の様子と両者の心象風景を描く物語です。
●この作品の見所は、師匠である尾崎紅葉の「大物振り」(=威張りぶり?)と、才能があり、やがて師匠より高い原稿料を取るようになる泉鏡花の、尾崎に対する陰湿な面従腹背ぶりです。
●中篇「正太夫の舌」は夭折した斎藤緑雨の一代記です。才気煥発で歯に衣着せぬ文芸評論で世評を得る一方、作家たちからはにらまれます。ところが、本人の人柄はいたって誠実で、実直。飾り気がなく、しかも大変な勉強家です。従って、彼の素顔を知っている友人たちは皆、「憎めない」と口を揃えるエピソードを紹介します。ただ、本人は貧乏だったこともあって、友人との交際を極力避けていました。そして、評論では一見リベラルに見えながら、実は紅葉などと通ずる江戸風の文学趣味にとらわれていた面を、彼の才能の限界として指摘します。
●三作の中では「正太夫の舌」が、もっとも「どろどろした情念の要素」が少ない地味な仕上がりになっています。
●三作いずれも、人間臭い情念の葛藤を描いた、迫力ある小説です。







Last updated  2006.05.08 23:19:50
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