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カテゴリ:メールマガジン「読書クラブ」
5.今月の心に残る言葉
「美しい、すてきな国に日本はなった。本当に本当に、うれしかった」 (<朝日新聞2006/5/5(金)>63年ぶりにウクライナから帰国した旧日本兵 上野石乃助さん(83歳)の談話) 6.スマイリーの日記「初めての『村上春樹』体験」 -村上春樹「海辺のカフカ」(新潮社。上下各1600円+税)- ●私はこの高名な作家の作品を、これまで一度も読んだことがありませんでした。数年前「ノルウェーの森」を一度読みかけましたが、書き出しのところでたちまち退屈して、読むのを止めてしまいました。 ●最近、氏が外国の文学賞を受けたことから、急に「ノーベル文学賞候補?!」という記事がマスコミに出始めました。私が何か読んでみようと本気で思い立ったのも、それがきっかけですから、われながらミーハーです。 ●私が選んだのは四年ほど前に出た「海辺のカフカ」。どうせ読むなら出来るだけ新しい、作家にとってホットな作品がいいと考えました。ゴールデンウィーク中でしたので、上下二巻、約800ページを三日ほどで読み通しました。だいぶん飛ばし読みしましたが。 ●第一章は17ページほどでしたが、主人公田村カフカ少年の内面描写ばかり。退屈だったので、ほとんど飛ばしました。このまま読むのを止めようかと思いましたが、第二章に入って「米国防省の極秘文書」なる報告書が出てきて物語がにわかにドラマチックな展開になり、描写もリアルでミステリアスになって急に面白くなってきました。それで、そのまま読み進むことにしました。 ●以後、カフカ少年の内面描写を中心とする退屈な章と、「極秘文書」の延長線上で展開する、奇妙だが物語性の強い面白い章とが交互に現われる複線構造になります。そして最後にその複線が一本に収斂します。 ●複線の前者は、母親に「捨てられた」、15歳の孤独で知的な田村カフカ少年の精神の成長物語。後者は、死の世界と生の世界という二つの異界の架け橋をめぐるファンタジーです。そして、この二本の線にまたがって展開されるのは、なんと、父を殺し、母と姉の両方と交わる息子の流離譚、というソフォクレスの「オイディプス王」を下敷きにしたギリシャ悲劇の世界です。 ●「カフカ」というのはチェコ語でカラスのことだそうです。そのせいか、主人公田村カフカ少年の前に、姿の見えない、少年の分身と思われる「カラスと呼ばれる少年」が登場し、田村少年と、時には哲学的な、時には心理学的な、時には人生論的な対話を重ねます。この場面が私にはまったく退屈でした。村上春樹ワールドに魅入られたファンには、逆にこういう場面が魅力的なのかもしれませんが。 ●それにしても、村上春樹さんの文体はバタ臭いですね。まるっきり米国あたりの翻訳小説を読んでいる感じです。というより、描写といい、台詞回しといい、まるでアメリカ映画を見ているような感じです。 ●また、頻りにメタファー(隠喩)ということばがでてきますが、なんだか違和感がありました。世の中の現象はすべて何か精神的なものの比喩になっている、というのが村上春樹さんの思想のようです。象徴主義者ですかねえ? でも、何だかアニミズムみたいな陳腐さも感じます。 ●結論を言いますと、主人公の内面描写や、主人公と、彼の世話を焼く「青年」(?)との対話の部分は、いたずらに衒学的で、私にはちっとも面白くなかった。しかし、ファンタジーの部分はなかなか面白かった。独創的なイメージとはいえないけれど、細部をリアルに描くことに寄ってファンタジーにリアリティを持たせる村上春樹ワールドの魅力はわかりました。 ●カフカ少年たちが交わす思弁には、ミラン・クンデラの「存在の耐えられない軽さ」の文体ほどの説得力はなかったし、一方、ファンタジーの方も、村上龍さんほど漫画的ではないけれど、かといって、「死の世界と生の世界の入り口」なんて「三途の川」そのもので、これを陳腐といわずして何を陳腐というのでしょう。 ●三途の川を一度渡って帰ってきた少年の話は、江戸時代から民間伝承が無数にあります。そんな古臭い御伽噺にギリシャ悲劇を繋いでストーリーを作り、古今東西の古典や流行物を一杯引用する衒学的な文体でくるんでなんだか高尚なものに見せかけるなんて、結構古い手を使いますね。わが国でも芥川や鴎外などが使った伝統的な手法です。しかも手際はあまり上手くない。芥川の王朝物には、格調高い完璧な文章の背後に、ひっそりと「笑い」が隠れていましたが、この作品の背後には、さて、なにが潜んでいるでしょう。 ●というのが率直な感想です。だから、当メルマガでも「敢えてお薦めはしない」という意味で、当欄でとりあげることにしました。でも、猫と話の出来る頭の弱いおじさんと、若くて気のいいトラックの運転手との珍道中という後半の設定は魅力的でした。村上春樹さん、小理屈はこねるのはやめて物語作りに徹してみたらいかがですか。 ●次は「ねじ巻き鳥クロニクル」を読んでみようと思います。面白くないところは飛ばしながら。 (以上) **************************************************** (編集後記) ◎道端の躑躅(つつじ)が美しい季節になってきましたね。公園の木々も輝くような黄緑色に彩られています。いよいよ新緑の季節です。 ◎ここ数年持っていたドコモのPHSを、今週、ウィルコムのWX310K、いわゆる「京ぽん2」に買い換えました。 通常の通話、メール、携帯用サイトの他、フルブラウザと言って普通のPC用のサイトも見られます。その上、エクセルやワード、パワーポイントなどの文書もみられます。 事実上、通話だけだった前のPHSと比べると、まるで、自動車から戦車に乗り換えたような感じです。ワクワクしています。 さあ、仕事に、私生活に、フル活用するぞ! ※ご感想を、下記メールアドレスや、紹介ホームページの掲示板にお寄せくださるとうれしいです。 (プロフィール)スマイリー。会社員。フリーライター志望。 連絡先:smilynet@gmail.com 紹介HP:http://plaza.rakuten.co.jp/smilynet/ お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2006.05.08 23:21:56
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