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大明风华 Ming Dynasty 第33話「遺詔と公印」 朱高熾(シュコウシ)が新帝に即位、時代は″洪熙(コウキ)″となった。 漢(カン)王・朱高煦(シュコウク)と趙(チョウ)王・朱高燧(シュコウスイ)は父・永楽帝の葬儀に参列するため都へ戻ったが、新帝に拝謁しても不満を隠そうともしない。 「これからは私たち3人で力を合わせていこう、何かあれば3人でよく話し合うのだ 父上に心配をかけてはならぬ…」 「老大…」 朱高煦が″長兄″と呼んだことから、朱高燧は思わず咳払いして諌めた。 「ぁ…皇上、私たちは前線にいた、回りくどい話は無用だ、ひとつだけ聞く 先帝はなぜ崩御を?三千営はすぐ近くにいた、なぜ崩御したことを私の陣営に知らせなかった? …こっそり遺体を都に運んだのでは?私たちと本営の兵を争わせ、一体、何がしたい?」 しかし父のそばに控えていた皇太子・朱瞻基(シュセンキ)はうつむいたまま黙っている。 「2人とも、まあ~落ち着け…父上の葬儀が終わり、各国の使節や各省の藩王が帰途に就いたら、 家族だけで卓を囲み、じっくり話し合おう」 洪熙帝は先帝と誓いを立てた通り、兄弟反目せずに助け合おうとお茶を濁した。 朱高煦と朱高燧はひとまずおとなしく引き下がってくれたが…。 漢王妃は通夜へ向かう夫の着替えを手伝った。 王妃は皇后から衣と装飾品を賜ったと報告したが、避けられているのか会ってはくれないという。 しかし漢王は黙ったまま何も言わなかった。 「戦から戻って以来、別人のようね、一日中、無言で鏡に向かっている…不気味だわ」 「…考えていた、お前より不運な妻はいないと」 朱高煦と朱高燧の部隊は山東(サントウ)へ飛ばされた。 朱高燧の息のかかった北鎮撫司(チンブシ)は全員が入れ替わり、都はすでに朱瞻基の手先ばかり、漢王と趙王を監視している。 朱高煦は通夜が終われば朱瞻基が動き出すと踏み、逃げ出す方法を考えていた。 もはやまな板の上の鯉か、帰京を止めた朱高燧は朱瞻基に殺されたら二兄のせいだと不満を漏らす。 しかし朱高煦には帰京する理由があった。 「老三、今が一番の好機だ、道義的に足場を固めたい、公衆の面前で老大を問い詰めよう 朝廷に疑惑が渦巻けば、奸臣の粛清を掲げて挙兵できる」 一方、朱瞻基は楊士奇(ヨウシキ)、于謙(ウケン)と密談していた。 漢王と趙王をすぐにでも排除したい朱瞻基、それに対し于謙(ウケン)は猛反発する。 「人を殺せば裁きが下る、全国から藩王が来ています 霊前で凶行に及べば、三ヶ月以内に各地で反乱が起きますよっ!」 「では今、反乱を起こされたらどうする?奴らと互角に戦える者が朝廷にいるか?! 勝てると思うか?!苦労して積み上げた大明の業績が消えるんだぞ!」 朱瞻基は項羽(コウウ)が劉邦(リュウホウ)に情けをかけたせいで天下を失い、自害するはめになったと声を荒げた。 「いいか、叔父たちは決して自分には屈さぬ」 そこで于謙は黙っている楊士奇に意見を求めた。 「殺しても殺さなくても、それぞれに利点がある 今の漢王と趙王はもちろん最大の脅威です、始末して憂いを除くのはたやすい 問題は皇上が望まれるかどうか、天下の民心や軍心が動揺するやも…どうか慎重に」 朱瞻基は自分に味方しなかった楊士奇に憤慨し、帰ってしまう。 于謙は皇太子を諌められない楊士奇を非難した。 「あなたのような臣下が国を滅ぼす!」 「そなたこそ!朝廷というものを分かっておらぬ!″人はまず身の程を知ること″だ!」 「私はあなたのような朝臣になりたくない 是非を問わず、利害だけを考え、迎合するだけ…それは″妾婦(ショウフ)の道″だ」 于謙は楊士奇を蔑み、出て行った。 皇太子妃・胡善祥(コゼンショウ)は多忙な皇后から後宮を一任されていた。 しかし頼りになるはずの胡尚儀が相変わらず酒に溺れて使い物にならない。 様子を見に来た胡善祥だったが、胡尚儀は引退したいと申し出た。 胡善祥は仕方なく国葬が終わったら自分が面倒を見ると決めたが、胡尚儀は皇宮を出たいという。 「ここを出てどこへ行くの?6歳から宮廷で育ち、一度も出たことがないくせに!」 「宮仕えを引退した老人たちがお金を集めて都の郊外に土地を購入し、合葬墓を建てました 私のような跡継ぎのいない太監や女官のためです、道教の寺院まで建てて供養させています 誰かが死ねば埋葬する者がおり、助け合っている…宮廷を出て彼らと一緒に住みたい」 胡善祥は思わず姑姑につかみかかり、もう時代は変わったと言い聞かせた。 自分はいずれ皇后になり、姑姑を養って行ける。 「何が気に入らないの?!あなたに耳障りなことを言ったこともないのにっ!」 「毎朝、目覚めるたび不思議に思うの…なぜ生きねばならないのかと…」 「私を…恨んでいるの?」 すると胡尚儀の目から大粒の涙がこぼれた。 「申し訳なく思うわ…あなたを手放してしまった…守るべきだったのに… あなたが去り、私はすべてを失った…」 「私が死なない限り、どこへも行かせない!」 胡善祥は居たたまれなくなり寝殿を飛び出した。 新入りの女官は慌てて平伏し、胡尚儀の無礼な発言は自分たちの責任だと謝罪する。 「気が利くのね…名前は?」 「安歌(アンカ)です…″短い人生、安処はいずこ、九原の歌声、黄泉に託す″」 胡善祥は安歌を気に入り、これからは自分に仕えるよう命じた。 一方、皇太子嬪・孫若微(ソンジャクビ)は洪熙帝の代わりに祭文を代筆していた。 確認した朱高熾はもはや本物と区別がつかないと感心し、若微に玉璽を押印するよう命じる。 すると今日の最後の頼みを聞いて欲しいと切り出した。 「あれは先帝の遺詔だ…明日、霊前で私が読み上げる いろいろと考えたが、やはり靖難(セイナン)の遺児のことは書き加えたい …そなたの来歴のことは知っておる、遺児の赦免は先帝の意志であり、私の最大の願いだ 新政において最も優先すべき事柄だが、私は威厳が足らぬ 遺詔の内容に組み込めば多くの論争を避けられよう」 朱高熾は今から供養の席に戻ると話し、今夜中に先帝の筆跡を真似て書いておくよう指示した。 思わぬ申し出にしばし呆然としていた若微、しかし洪熙帝が書斎を出て行こうとした時、慌てて叩頭する。 「…お慈悲に感謝を!」 「朕は父上にも息子にも頭が上がらない…ふっ…慈悲心だけが取り柄でな…」 若微は悲願を叶えてくれた洪熙帝を見送りながら、その恩情にむせび泣いた。 朱高熾はあえて兄弟たちと並んで祭壇の前に座った。 それを見た朱瞻基は思わず父に全員が皇帝より後ろに座るべきだと諫言する。 しかし朱高熾は今日は家人の礼で良いと釘を刺し、叔父たちの面目を守った。 「永楽22年、甲辰の年 啓天弘道高明肇運聖武神功(ケイテンコウドウコウメイチョウウンセイブシンコウ) 純仁至孝(ジュンジンシコウ)太宗文皇帝の霊前にて祭文を読み上げる」 …巍々たる聖明は天下をあまねく照らし、大功でもって万邦に寄与した …5度にわたる北征で誠を尽くすも、楡木川にて天地が揺らぎ、国に殉じて春秋に遺産を残した …その歩みは輝かしくも波乱万丈である …南に運河を開き、北に5度の遠征、ここに儀式を行い、万民の弔辞を捧げる …戦と聞けば自ら戦地に赴き、屈強な身体に甲冑を身に着けた …大将が去り、三軍は喪に服す …帝が去り、万民が喪に服す 日も暮れる頃、通夜で疲労困憊した参列者たちは宦官たちに背負われ、運ばれて行った。 胡善祥はまだしっかり座って先帝を弔っていたが、その時、漢王妃が呼びに来る。 「太子妃?太子妃?…お話が」 しかし皇后・張妍(チョウケン)がその様子を見逃さなかった。 漢王妃は胡善祥を人気のない宮道に案内し、引き返した。 すると物陰から朱高煦が現れる。 「瞻基は私を殺すつもりだ、殺さねば安心できぬだろう 私と老三は常に見張られ、袋の鼠だ」 「私にどうしろと?」 「瞻基は先帝の犬に過ぎず、軍隊を掌握できぬ 私の部隊が山東へ移らされ、三営は動揺している、正義のために戦うつもりだ」 胡善祥は思わず息をのみ、慌てて帰ろうとした。 しかし朱高煦は胡善祥を死なせたくないと迫り、一緒に逃げようという。 「埋め合わせをしたい、皇帝の寝殿に都の公印がある、兵部の印章の箱の中だ 皆が通夜に出ている間に忍び込め」 「そんなこと無理です…」 「忘れたのか?そなたと私は一蓮托生だ 私が生きて戻れば、そなたを大明の皇后にしよう、受けた恩は決して忘れぬ」 胡善祥が逃げるように帰って行った。 すると朱高燧が姿を現し、思わず失笑する。 「遊び駒を今頃、使うとは…多くの悪党を見てきたが、二哥ほどの極悪人はいませんな」 「黙れ、お前の目は節穴だな」 朱瞻基は通夜に配下を紛れ込ませていた。 しかし父が2人の叔父から離れず、手が出せない。 朱高熾はそんな息子の思惑に気づき、休憩した折に朱瞻基を呼びつけた。 「今は軽率に動くでないぞ、二叔と三叔は武装しておらぬ」 朱瞻基は叔父たちが納得するはずないと反発したが、父の真意は他にあった。 「私たちが先に手を出すわけには行かぬ!はあ~… さもなくば新政における最初の仕事で太子を廃することになる」 「儿臣(アーチェン)、よく分かりました」 その夜、若微が密かに先帝の遺詔を書いていると、突然、誰かが入って来た。 若微は咄嗟に隠れたが、胡善祥だと気づいて姿を見せる。 「どうしたの?!なぜここに?!」 「はっ!うぉ(我)…その~」 すると胡善祥は若微が床に落とした遺詔に気づいて拾った。 「…これは遺詔では?正気なの?詔の改ざんは一族皆殺しよ!」 「一族なんていないもの…それより何の用?」 「聞かないで」 胡善祥はふと思い出し、兵部の印章の箱をあさって都の公印を見つけた。 驚いた若微は胡善祥を引き止めたが、胡善祥はお互い様だと訴える。 「あなたの秘密は話さなくていい、だから私のことも聞かないで! 今夜は会わなかったことに…」 翌日、いよいよ洪熙帝が先帝の遺詔を読み上げた。 …朕は皇位を受け継ぎ、22年間、大明を統治してきた …長く在位したゆえ、国に殉じても悔いはない …ただ辺境の戦では功を焦りすぎ、5度にわたる北への遠征で天下を疲弊させた …埋め合わせができず、その悔いは募る …太子・朱高熾は仁愛の心を持ち、祖訓を守り、民情に寄り添っておる …よって皇位を継がせる …朕の葬儀は伝統に従って行うこと、27日後に喪明けとするがよい …この間の婚礼や祝い事は禁ずる …葬儀において親王、郡王、藩王たちはくれぐれも働き過ぎぬよう …天下の民を煩わせることなく、簡素に行え …また前朝における靖難の役にて、流刑や死罪に処された者、全員に大赦を下す …生存者は雇用し、死者の子孫には補償を …獄につながれた者は釈放し、辺地に流された者は故郷に戻す …過ちを繰り返さず、朝臣は朕の胸中を理解した上で天下に布告し、知らしめよ …ちんつー 「吾皇万歳万歳万万歳!」 「待った!」 漢王が急に叫んだ。 朱高煦は突然、前に出ると、朱高熾から遺詔を奪った。 「皆の者、今日は先帝の霊前にて私から話がある… ″家人の礼でよい″と皇上が仰せゆえ、遠慮はしない この遺詔は…偽物だ!」 ざわざわ…>ʕ•̫͡•ʕ•̫͡•ʔ•̫͡•ʔ•̫͡•ʕ•̫͡•ʔ•̫͡•ʔ<マジか… つづく お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2020.09.04 17:11:06
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