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カテゴリ:三千鴉の恋歌 全30話
三千鸦杀 Love of Thousand Years 第24話「不穏な前触れ」 中秋節の夜、傅九雲(フキュウウン)は覃川(タンセン)を連れ出し、空中散歩を楽しんでいた。 一方、香取(コウシュ)山主の身体を乗っ取った靂渊(レキエン)はひとり、中秋を祝う驪(ラ)国人たちを冷ややかに眺めている。 するとふいに少女がやって来た。 皆の輪に入れない男を見つけた小花(ショウカ)は一緒に天灯を上げないかと誘ったが…。 左紫辰(サシシン)は先に帰った玄珠(ゲンシュ)を心配して訪ねると、ちょうど父がいた。 驪国の習わしでは皇帝が毎年、自ら先祖代々の魂を祭り、皇后が補佐を務めていたが、この重要な儀式を玄珠に任せたいという。 しかし玄珠は紫辰への当てつけで、形ばかりの公主である自分になど務まらないと卑下した。 左相国(サショウコク)は儀式の本当の目的は民を鼓舞することだと明かし、唯一の驪国公主である玄珠こそが驪国人の心をつかむ力を持っていると説得する。 「適任の皇族がいない場合、代理が認められるのです、公主大人に1つだけ不都合があるとすれば… ぁ~未婚であることです」 すると秋華(シュウカ)夫人が思わず良い相手が目の前にいると笑った。 紫辰も喜んで公主に付き添うと承知したが、玄珠は紫辰の本心が分からず困惑してしまう。 夜空に浮かぶ天灯の間を行きながら、覃川はいつの間にか鬱々とした気分が吹き飛んでいた。 「この空で一番きれいな光はその瞳だ…」 覃川は九雲の甘い言葉にも素直に感激し、思わず首に手を回して抱きつく。 ようやく苦労が報われた九雲、しかしその時、白(ハク)公子から連絡が来た。 『九雲大人、大変だ!村の子供が襲われた!』 その知らせは紫辰たちのもとにも届いた。 「公主!大変です!村で妖魔が暴れています!多くの民が怪我を!」 九雲と覃川は小白の案内で林の中で倒れた小花を発見した。 「精気を奪われたな…」 そこで九雲は小花に仙気を注ぎ、覃川に世話を任せて小白と村の様子を見に行ってみる。 すると妖魔が暴れたのか、民家が燃やされ、民たちが逃げ惑っていた。 九雲は小白に村人たちを守るよう頼み、ひとり妖魔を探しに向かう。 やがてがれきの中で不満を爆発させている山主を発見した。 「平民の分際で仙人の山を汚すとは!家を奪われた私の気持ちをお前たちも味わえ!」 「…力を全て失ったはずでは?怪しげな炎まで放つとは」 九雲は善良な蛇だった山主の変わり様を嘆き、民を害する者は殺すと宣告して剣を招喚した。 驚いた山主は命乞いし、咄嗟に清瑩石(セイエイセキ)の在りかを知っていると訴える。 「どこだ?」 「北の果てにある火山の噴火口だ、今まで隠していたのはお前と霊灯を失いたくなくて…」 山主は北の果てにある火山こそ九雲が探していた答えだと言ったが、帰れる保証はないと心配した。 しかし妖王がいずれ九雲の居場所を見つければ、その時は覃川や驪国人も道連れになるだろう。 九雲は山主の正体が靂渊だと見抜けず、結局、見逃した。 出雲(シュツウン)閣に戻った九雲は亡き師匠と最後に交わした言葉を思い出していた。 『灯心よ、泣かなくてよい…それともまさか、このわしがお前を燃やすとでも思ったか?』 『師父が授けてくれたこの命、いつでも喜んで差し出します』 師匠の敵討ちと愛する覃川への深い愛、九雲の心は揺れていたが、清瑩石があればすべて解決できる。 すると回廊で先に戻った覃川が待っていた。 「何か悩み事があるのね?…何よ?私に言えないこと?」 「そなたに隠すようなことはない」 九雲は笑顔を見せると、眉山(ビザン)君に酒に誘われていると言って出かけてしまう。 九雲は眉山に山主の話を伝え、清瑩石を探しに行くと言った。 驚いた眉山はその身体で行けば死んでしまうと反対したが、九雲は自分には覃川の運命を変えてしまった責任があるという。 「妖王を倒す最後の機会だ、あきらめたくない、まあいい、明るく送り出してくれ」 すると眉山は自分も一緒に行くと決め、ただ出発までに準備することがあるという。 そんな2人の話を偶然、小白が聞いていた。 九雲はすっかり元気を取り戻した覃川に旅に出ることを伝えられずにいた。 すると小白が現れ、自分も一緒に行きたいと懇願する。 いつの間にか自分を気遣えるほど成長した小白に感慨深い九雲、そこでならば覃川を見守って欲しいと頼んだ。 「それが最大の助けになる」 一方、村の建て直しを手伝っていた玄珠はうっかり足を怪我した。 紫辰は慌てて駆けつけたが、玄珠はどこかよそよそしく、以前のように強がっている。 そこで紫辰は玄珠を背負い、自分の前では本当の気持ちを見せて欲しいと話した。 玄珠は本当に自分と一緒に儀式を行うつもりか尋ね、誰かに強要されたのではと心配する。 しかし紫辰はあっさり違うと答え、玄珠の足の傷の手当を始めた。 「あの時のあなたの言葉は本心だったの?」 「…やっぱり医者に見せよう」 紫辰は玄珠を抱きかかえると、慌てて連れて行った。 覃川は時間ができると大工を手伝いながら木彫りを学んでいた。 そこへ玄珠が現れ、大工に儀式の準備はどうか尋ねる。 大工はまもなく完成すると報告し、あとは先祖の名を位牌に刻むだけだと言った。 すると玄珠は帝女の位牌の名入れを覃川にやってもらうという。 大工は大事な位牌は熟練の匠に頼むべきだと進言したが、玄珠は有無を言わせず位牌を渡した。 「亡き帝女のために心を込めて刻むのよ?」 覃川は九雲の帰りを待ちながら、聴風(チョウフウ)亭で位牌に自分の名を彫っていた。 するとようやく九雲が戻って来る。 「そう言えば何か話があるの?」 「別に…ただ鏡をなくしたからそなたに借りようと思ったんだ 小白は妖魔を映す鏡だろう?この端正な仙人の顔を映すには向かない」 覃川は失笑し、驪国の至宝である銅鏡を渡した。 「死んでも離さないさ」 「え?」 「なんてな…」 九雲はその夜、覃川を自分の寝台に引っ張り込み、腕の中に抱いて眠ることにした。 やがて安心して寝息を立てる覃川、そこで九雲はそっと寝台から抜け出し、名残惜しそうに覃川の寝顔を眺める。 しかしそこへ支度ができた眉山が迎えにやって来た。 翌朝、覃川が目を覚ますと九雲の姿がなかった。 そこで小白に九雲の居場所を聞いたが、ただ出かけたとしか教えてくれない。 「大事な用事があるらしい…」 小白はなぜか元気がなかった。 紫辰は朝から儀式の準備に追われて忙しかった。 身支度を整えた玄珠もいよいよ凝碧(ギョウヘキ)殿へ向かったが、その途中、偶然、紫辰と覃川の話を聞いてしまう。 実は紫辰は覃川が自分の位牌を仕上げている姿を目撃し、慌てて止めていた。 「なぜこんなことを?!玄珠がやらせたのか?!」 「新生驪国のためだもの、これくらい平気よ」 「本当に真実から逃げられると思うか?」 「真実は民が決めるの、みんなにとっての帝女はもういない」 「私はそうは思わない、帝女は今も私の目の前にいる、思い出してくれ そなたはどんなに辛い境遇でも高潔な志を持って自分と向き合って来た 分かっているだろう?驪国を復興に導けるのはそなたしかいないと…」 玄珠は紫辰の言葉を聞いて深く傷ついた。 …やはり私では駄目なのね… つづく (  ̄꒳ ̄)紫辰…なんなの? お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2021.05.06 12:58:19
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