ある蕎麦屋の庭物語

空気が緩んだ閉店後の調理場。
まだ熱気が残る中で洗い物をしていたら、黒っぽい蜂が飛んできた。
何とはなしに見ていると、網戸に頭突きをし始めた。
痛いという感覚がないのか、何度も突撃しては立て直すを繰り返している。
こちらはちょうど洗いが終わり、濯ぎの段階に入ったところだった。
手についた泡を水で流し、手を伸ばして網戸を少し開ける。
タイミングが悪かったのか、開けた途端にびっくりして店の奥の方へ飛んでいってしまった。
仕方がない。
入ってきたところから出られるといいなとぼんやりと考えながら、洗い物を終えた。
一旦引き上げて着替えてから外へ出た。
蚊取り線香に火を付けて、準備万端整えてからパンジー、ビオラの種蒔き開始。
やっとだ。
買い出しや仕込み、雑用に追われてなかなか庭仕事に時間が取れずにいたが、やっと今日種を蒔くことができた。
育苗培土に培養土を混ぜようとして、はたと在庫がないことに気がついた。
あぁ。
育苗培土単体で使うのは少し躊躇われるけれど、買いに行く時間が惜しいので、培養土を混ぜるのは諦めた。
自家採種した種を蒔こうと封筒の中身を見たら、サヤに入ったままだった。
それはそうだ。
夏の間にサヤから出して種だけにしておけばよかった。
手のひらに出して種を出そうとすると、爪で弾いてしまって四方八方に飛んだ。
勿体ないので以降は封筒の中で取り出すことに。
どんどん蒔いて、四袋まで蒔いたところで五時の鐘が鳴ったので終わりにする。
最高気温が十月にしては高めの日が続いている。無事に発芽するといいなぁ。