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日記はこれから書かれるところです。

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2007.11.26
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今回は、阿部和重『グランド・フィナーレ』について書きます。かなり長いです。

少しく作品あるいは作家を論じようというのに、いきなり長い引用をするなんてしょうもない話なんですが、大澤真幸がかつて語ったところをこの稿の書き出しにしようと思います。まあ、面白い箇所なので。


■大澤真幸から引用

いずれにせよ、「おたく」というのは、マンガやアニメ、TVゲームといった虚構や仮想現実の領域に没頭する若者たちのことです。でも、こういう特徴づけだけだったら、「おたく」という語まで生み出したような過剰性や異様性、人々が「おたく」に接したときに覚えた驚きを、とうてい表現し尽くせてはいない。「おたく」は、以前からある「趣味人」とどこが違うのか。

まず直感的にいっておけば、たかが趣味なのに、ふざけてると思えるほど大袈裟に関わっているという印象ですね。所詮は趣味。ほぼ生死に関係しないし、人生の他のもろもろのことにも関係ない。にもかかわらず、異様なほど大袈裟なんです。

実際、おたくが書いたおたく論は現在たくさんありますが、どうしてそんなに大袈裟なのかと驚くことがよくあります。たとえば、二年くらい前、東浩紀氏が編集した『網状言論F改』(青土社、二〇〇三年)という本の書評を書いたことがある。これは、まさにおたくによるおたく論集です。東さんの論文は、彼の『動物化するポストモダン』(講談社現代新書、二〇〇一年)という本のエッセンスを凝縮したような論文で、なかなかおもしろいのですが、この本の中に入っているいくつかの論文は、特に若い人の論文は、――内容の水準とは関係なしに――ときどき、読んでいると笑いをこらえきれないところがある。たとえば「エヴァンゲリオン以前/以降」とか凄く大事件としてかかれていて、まるで、第二次世界大戦とエヴァンゲリオンの登場が同じくらい重要であるかのような印象が漂うわけです。いくらなんでも、それはどうかなあ、と思ってしまうわけです(笑)。おたくに対してもつこうした印象を、もう少し理論的な言葉でいうと、こうなります。「おたく」の定義は、「意味の持っている重要性と情報の密度のあいだに逆立があること」。

ここでいう「意味」なんですが、普通、ある対象に関して「それにどういう意味があるの?」と問われたときには、その対象をより広いコンテキストに持っていったときに、どういう価値を持っているかを説明しなくてはいけないのです。たとえば、カール・マルクスの初期の『経済学・哲学草稿』と、後期の、たとえば『資本論』の間では、「疎外」という語の使用頻度は、大きく異なっている。なぜ、そんなことに注目するのか、その意味は何かと問われれば、そのことがマルクスの思想全体の大きな転換の印であり、さらには、近代社会思想史全体を転覆させうるような大きな価値すらもつような転換の印だからです。このように、あるものに情報が蓄積されるのは、普通は、有意味だからです。意味の重みと情報の密度は比例関係にある。

しかし「おたく」の場合、意味的には全然大したことがない。つまり、より広いコンテキストに参照して価値があるようなものではない。しかし情報の密度は高い。それが「おたく」の特徴だと思うのです。意味的には希薄で、情報的には濃密という、逆比例の関係が生じている。

僕も仕事柄、学生の卒業論文を山ほど読まなくてはいけない。いまではおたくっぽい論文は普通になったので別に驚かなくなりましたが、九〇年代初頭は、「へえー」と思ったものです。そういう論文を書く学生はある特定の事柄の「おたく」だから、論文を読みおわったときには、僕もそれについてめちゃくちゃ詳しくなってしまう。で、ふと思うんですよ。「どうして俺が、こんなことに詳しくならなくちゃならないんだ!」(笑)

それで学生に「どうして君は、こんなことを一生懸命書いているの」と訊くと、ほとんど説明できない。というか、本人がはまっている狭いコンテキストのなかでしか説明できない。だから、なぜこんなに熱が入っているのか、そのコンテキストの外にいる人に説明できない。有意味性へのレファレンスを欠いたまま、どんどん情報が細部にまでおよんでいく。「おたく」にはそういう特徴がある。

(大澤真幸『現実の向こう』春秋社、2005年、p.114-117)


■自身のおたく的情熱をシニカルに眺める稀有な作家

ここまで引用したら、疲れてどうでもよくなってきました(笑)。というか、文芸評論自体が、大澤が言うところの「おたく」的性質を逃れられていないんじゃないかという気がしてきました(笑)。

まあ、気を取り直していきましょうか。

ちなみに、というか、周知のことですが、阿部和重と引用に出てきた東浩紀とは仲の良い友人なわけで、この長い引用にも根拠が無いわけではないのです。

さて、阿部和重の『グランド・フィナーレ』という作品の凄さは、上の引用のような「おたく性」をたっぷりと湛えながら、それに自覚的であるということに尽きます。

阿部の作品を読んで、「おたく性が足りない」といった論じ方をする人がいますが、それはその人が「おたく性」を取り違えている結果です。中途半端におたくな人間は、自分のおたく性を誇りたい欲求のために、そのような言い方をするのですが、阿部はそんなことは百も承知です。

阿部こそ、大澤が論じたような意味における「おたく性」を純化した形で作品に取り込み、それと同時に、その自身の作品の持つおたく的情熱をシニカルに眺めるという離れ業をやってのけている稀有な作家なのです(おたく性に物足りなさを感じる人がいるとすれば、それはこうした洗練されたおたく性を受け入れられないからであるわけです)。


■おたくと資本主義

資本主義の始まりがどこなのかはわかりません(私は自分の僅少な知識からユダヤ世界が関係しているのではないかと思っているのですが、これは読むべき一冊を読んでから最終判断としたいと考えております)。

しかし、資本主義の現状到達点はわかっています。おたくです。

資本主義というものを定義付けるには相当な勇気が必要ですが、ここでは、ある種の生産様式として捉えるよりも、ひとつの運動の形式として、貨幣を欲望する体系として捉えたいと思います。

われわれは、本来貨幣を何かの手段として欲していたはずなのですが(つまり、生活のために必要だとか、何かの目的のために必要というように)、いつのまにか、貨幣自体を目的として求めるような時代に生きています。

この貨幣自体は不換紙幣であり、「信用」というものにおいて成立しています。他者が認めるから、この今手元にある貨幣は価値を持つわけです。

そうした紙切れをわれわれは熱烈に求めている。個人的には違ったとしても、そういう経済主体が溢れかえっている社会に生きている。

そして、他者が欲望するからこそ、さらに貨幣は欲望され、欲望が欲望を生むようなシステムとして、資本主義は運動しているように思います。

そして、こうした貨幣=資本という紙=神が、われわれの生活よりも重要な共同体的秩序=律法として機能している。私は(粗い定義であることは重々承知していますが)これを資本主義だと考えています。

これは、大澤が言うところの「おたく性」と似ていないでしょうか。

「何のため」が欠如した状態における情熱的行為であるわけです。


■出口が無い、というか外の世界があると知らない

高度資本化社会とも呼ばれる社会=時代に生きるわれわれには、二つのタイプがあるように思います。大変厭味な言い方になってしまうのですが、そうした社会を対象化して眺める側と、そこに内在してそうした価値観を踊る側の二つです。

たとえば、マルクスがそうであったように、資本主義を対象化し、その問題構造を打ち破ろうとする人たちがいる。その一方で、そうした社会にどっぷりと内在して、資本の神に信仰を抱きながら、その社会において信仰を成就しようとする人々がいる。

かつては、前者が多かったように思いますが、現状は、前者が存在するのが難しくなっているように思います。それは資本主義に対抗する言論、資本主義の問題点を暴くような言説が巷には少なくなっているからのように思います。

出口が無いわけです。いや、外の世界があることさえ信じられないわけです。

現代の資本主義の只中で踊る人たちは、希望ということすら認識できない閉塞間の中で、資本の神が与える試練を資本の神の栄光のために踊っているように思います。


つづく





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Last updated  2007.11.28 15:24:27
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