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フライブルク日記

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2008/07/31
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テーマ:海外生活(7785)
カテゴリ:人物
ゲーリッツのヴェラ(1)ヴェラ(2)に続く第三話です。

ヴェラが八歳のとき、家族はついにソ連を出て、母ヘレナの故郷であるポーランドに移住する決心をします。ソ連に残っているポーランド人の出国が容易になったという新聞記事一つを手に、家族はモスクワの出国管理事務所に行きます。事務所は母と子どもたちの出国は許しますが、ソ連人でしかも収容所に捕らわれていたことのある父の出国は許しません。夫と離れることをいまだに拒むへレナは、もう一度子どもたちとともに、事務所の上司に直談判します。ヘレナから前もって言い含められていた子どもたちは、ここぞという瞬間にワーと泣き出し、上司にすがりついて「お父さんから引き離さないで」と訴えます。上司はしかたなく出国許可証にサインをして「さっさと出て行ってくれ」と言います。事務所を出るときにヴェラが上司に「ありがとう」と言うと、上司は「どういたしまして、元気でな」とニコッとしてくれます。
ポーランドに着いたヴェラは、ソ連とくらべて豊かなポーランドに目をみはります。家族には、戦前にドイツ領だった地域にある、かつてドイツ人が所有していた農家と土地(大量のドイツ人が戦中・戦後、家や土地を捨てて、西つまり現在のドイツへと逃避しました)が与えられ、牧畜業を始めます。けれども、農業に慣れない父イワンは失敗ばかり、おまけに元貴族の出身をかさに偉そうな態度を取るので、近所の人からも嫌われます。時々やってきては娘に離婚をすすめる姑(へレナの母)との仲もますます嫌悪になります。そして、イワンは妻や長女が姑と結託して自分を追い出そうとしていると疑い、母や姉をなぐります。自分よりもずっと若くて美しい妻の貞淑も疑います。こうして父母は争いと仲直りを繰り返し、長女がしょっちゅうベルトで鞭打たれるという日々が続きます。それでも母はまたも妊娠して、子どもたちは合計7人になります。
あるとき、あまりの暴力に長女ルダは「もう生きていたくない」と父に訴え、ヴェラも「家族みんながあんたを嫌いなのよ」と父に叫びます。父はヴェラと一人の妹をつれて、別の土地で養鶏所に住みつきます。しばらく後にはヴェラの二人の姉以外の家族はすべて、またもいっしょに暮らし始めますが、家には電気もなくロウソクだけ、食べ物は卵と引き換えに得たジャガイモだけという苦しい生活が続きます。それなのに、父母は働きに出ません。父は、母が外に出れば若い男性を見つけるのではないかと疑って働くことを禁じ、自分も母を見張るために家を出たがらないのです。
ここで中学二年になったヴェラははじめて起業家としての能力を発揮します。広い土地にイチゴの苗を植えて、育てるのです。収穫したイチゴを売って、馬、牛、豚を買うことができ、食料状況はややよくなります。
けれども、父は精神の状態が悪いときには、家族をナイフで脅すようになり、家族はそんな兆候を見つけるとすぐに窓やドアから外に逃げ出さなければならなくなります。あるとき、たまりかねたヴェラは父親を押さえつけ、殴ります。そして父親のことを「哀れで老いぼれたバカな男」と思うのです。
中学を終えたヴェラはついに家を出る決心をします。今では働いている長姉ルダの元に身を寄せて高校に通います。節約のために昼食も食べず、失神しそうになりながら通学し出したのもつかの間、すぐ上の姉や妹の授業料を親が払えないのを知り、高校に通うことを断念して、働きに出て、姉妹の学費を援助します。
父イワンの精神状態や暴力はますますひどくなるばかりでした。ついに母ヘレナは父の元を去り、一時ルダとヴェラの元に身を寄せた後、チェコに移住してそこで働き始めます。18歳のときに最初の子どもを生んでからずっと家族のために生きてきたヘレナでしたが、ついに自分の自由を獲得し、それを謳歌し始めたのです。一方で、ヴェラやルダは、仕事のほかに、母が残していった幼い妹や弟の世話もしなければならず、青春時代を楽しむこともありませんでした。
父を批判しながらも心配するヴェラは、家族に見捨てられて一人で暮らす父の元に食料品をもって訪ね、世話をし、家に電気を取り付けたり、父親の気を紛らわすためにテレビを買ってあげたりします。父親は年老いてからはかなり穏やかになって、90歳近くで死去します。
父がなぜこのようなトラブルを持つようになったのかを、後にヴェラは父方の従姉から聞きます。それによると、イワンは上流階級の出でありながら、革命に同調してボルシェヴィキのためにトルコ語通訳として活動しました。それなのに、ボルシェヴィキは彼が意図的に通訳を誤ったとして、彼を収容所に十年以上も入れました。収容所を出てからも、ボルシェヴィキは彼を助けてくれませんでした。他方では、かつての有産者階級から裏切り者として報復を受ける身となったのです。

こうして、ヴェラは幼児時代も子ども時代も青春時代も、物質的にも精神的にも辛い生活を送りました。けれども考えて見れば、日本でも戦中・戦後には同様の過酷な生活を強いられた人がたくさんいたはずなのですね。母はよく、私が生まれた頃にはミルクがなくて、ヤギのミルクを飲ませたとか、近所の空き地(東京の真ん中、現在の東大構内)で野菜を作ったという話をしていましたが、そんなのはまだよい方だったはずです。豊かではぜーんぜんありませんでしたが、住むところや食べる物の心配もしないでノホホンと育った私はただ運が良かったとしか言いようがありません。

でも、しんどい人生をたくみに克服し、姉妹たちのために自分を犠牲にして生きてきたヴェラは、この経験を後に十分に生かし、才能を発揮することになります。それは次の回でお話します。





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Last updated  2008/08/01 10:20:56 PM
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