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フライブルク日記

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2008/08/03
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テーマ:海外生活(7782)
カテゴリ:人物
ゲーリッツのヴェラ(4)の続き、今回で完結させます。
前回、ヴェラは仕事をやめて、と書きましたが、これはまちがい。まだ例のスポーツクラブの秘書として勤め、お偉方の集まる会議のホステスもしていました。ただ、インフレがひどくて、給料と貯金だけでは生活がひどくなる一方だったのです。

それでもある会議では、踵がとても高いハイヒール、金色のブラウス、ブラなしという目立つ姿で、わざと遅めに会場に着きました。すでに来ているおおぜいのVIPたちが自分に目を留めるようにしたのです。「ワーオ、あの女性はどなた」という言葉を聞いてニンマリする彼女です。そう、彼女はこういう計算にも長けていたのです。

ある日、ヴェラが帰宅すると、たくさんの手紙が待っていました。西欧の未知の男性からの手紙です。ヴェラが「これはどういうこと?」と息子に詰問すると、「お母さんはまだ若くてきれいだ。こんな惨めなポーランドにとどまって、毎日ベッドで泣いている必要はない。お母さんに新しいパートナーを見つけようと思って、東欧女性と西欧男性を知り合わせるドイツの結婚相手紹介サービスにお母さんの写真を送ったんだ」と息子は告白しました。

「私を売るつもり?」と最初はムッとしたヴェラでしたが、気持ちをとりなおして、「さあて、どんな男性がいるかな」と男性たちの手紙に添えられた写真をあれこれ眺めます。その中に一枚、写真をゼロックスコピーしただけの物がありました。画像は黒ずんでいて、見えるのは二つの目だけ。この目にヴェラは惹かれました。「寂しそうで、愛を必死に求めている目」と彼女は感じました

「この人に決めた!」
手紙を見ると、この男性ロバートはハワイの大学で歴史を教えているそうでした。ヴェラは翻訳者を通じて、ロバートに手紙を書きました。うまく行かなかった場合にそなえて、ほかにもフランスとスイスの男性にも手紙を書きました(!)。ヴェラが42歳のときです。

この男性、ロバートは彼女よりも10歳近く年上です。かつて一度、結婚をして息子をもうけましたが、夫婦の間の情熱は冷えていました。一時は、若いドイツ人女性と親密な関係になり、「情熱的な愛」を知ったのですが、離婚に踏み切る決心ができないまま、この女性とも別れました。その後、やっと離婚し、「人生の女性」に出会いたいと渇望しながら、一人身の生活を送っていたのです。

ついにロバートは結婚相手紹介所に申し込みました。そして、送られてきた「女性のカタログ」の中から、「この女性以外には人生の女性はいない」と思うほどの、とびきり魅力的な女性を見つけました。それがヴェラだったというわけです。

ヴェラからの返事をもらって、ロバートが有頂天になったのはもちろんです。ロバートはヴェラに今度はちゃんとした写真や手紙を送り、ヴェラは彼の写真を枕の下に入れて眠るまでに!数ヶ月間、二人は文通で愛を語り合いました。

こんなエピソードがあります。ヴェラは文通中にロバートに自分の誕生日を教えてありました。誕生日当日、彼が自分を愛しているのなら(まだ会ったこともないのに!)、当然、彼から国際電話があるものと決めて、電話の前で息子と二人で待ち受けていました。ところが電話はありませんでした。落胆した彼女は、アメリカ人はロマンチックな愛を理解できないのだろうかと疑ったりします。

ところが翌日、彼女の留守中に電話があり、息子が電話を取ります。なんとロバートはその時期、東京の某私立大学で客員教授をしていて、東京とポーランドの時差を知らず、一日早く電話をかけてしまい、誰も受話器を取らないので、ヴェラたちがどこかに出かけてしまったと誤解したのだそうです。ヴェラと息子がほっとし、喜んだのはもちろんです。

ヨーロッパ人ってホントに誕生日が大切らしいので、あきれてしまいます。私なんて子どもの誕生日も忘れてしまうのに(冷たい母親)。

さて、いよいよロバートとの「ご対面」の日がやって来ました。ワルシャワ空港まで息子と出迎えに行ったヴラは、想像通りのロバートを目の前にします。ロバートも思ったとおり魅力的なヴェラを見ると、いきなり抱き上げてキスをします。二人はまさに一目ぼれをし、すぐさま親密な関係に入り、結婚を目指します。

ヴェラの別の一面を示すエピソードもあります。
結婚を約束してロンドン滞在に向けて去ったロバートは彼女に「手ごろな家がワルシャワにあったら買って上げる」と安易に約束します。ヴェラはすぐにぜいたくな家を見つけました。ロバートが家を見にやって来て、売買契約への運びとなりますが、心中おだやかではありません。
「まだ正式に結婚もしておらず、彼女がどんな人間だか知りもしないのに、こんな高額な買い物を彼女のためにしてよいのだろうか。この出費で自分には財産は一つもなくなる。でも約束してしまったのだから、破るわけにはいかない」と心が揺れ、契約サインをする手が震えてしまいます。
その震えをヴェラは見逃しませんでした。英語が話せない彼女は、無言でロバートの手を押さえ、首を振りました。「確信をもてないことはしてはダメよ」という彼女の意図は言葉にしなくてもロバートに通じました。これによってロバートはヴェラの誠実さを知ったのです。

いろいろすったもんだの後、二人は結婚し、ハワイに住むようになりました。ロバートが東京で開かれた国際会議に招かれたときには、二人で訪日しました。「滞在中、一銭も金を払わないですんだ。ホテルも食事もタクシーでの移動も、京都旅行も、すべてがしっかり準備・運営されていたからだ。日本人のオーガナイズ能力はすごい!」とロバートは私にしきりにほめていました。
ただし、一つだけうまくいかなかったことがあるそうです。ヴェラは東京からタクシーで富士山を見ようと出かけたのですが(近いと思ったらしい)、タクシーは道をまちがえたらしくて、とうとう富士山にはたどりつけなかったのです。ドライバーは彼女に「このことは会議の運営者にはご内密に」と懇願したそうです。

ヴェラはハワイでも勤勉でした。ロバートの給料では生活に余裕がないのを知ると、すぐにブティックの店員としての職を見つけて、働きはじめます。ただ、英語の勉強と料理だけは、あまり勤勉ではなかったようです。文法は嫌い、料理も嫌いで、せっかく息子がプレゼントした料理の本は一度も開かなかったとか。

こうして、ハワイで幸せな結婚生活を送っていた二人でしたが、大学を定年退職したロバートは「生涯に一度、ちゃんとした家を持ちたい」と思うようになりました。ハワイではこれは高すぎて無理。ほかに方法はないだろうか、と探していて、数年前に見つけたのが、ヴェラがかつて住んだことのあるポーランドの町と川をはさんで接する、ドイツ、ゲーリッツにある家だったのです。

廃墟のようなこの家を、体が弱ったロバートに代って、元気なヴェラ(59歳)がポーランドの職人を使って、自らも瓦礫を片付けたりとテキパキ働きながら、すてきなペンションに仕立て上げたのです。そこに私たちが泊らせていただいたことはゲーリッツのヴェラ(1)に書きました。

「ハワイの方が暖かくて快適。ここは冬は寒いし」とヴェラは私になげいて見せました。でもたぶん、ロバートは心臓の病がある自分が妻よりも先に死んだあとに、妻が兄弟姉妹のいるポーランドの近くに住めるようにと、この勇気ある企てに踏み切ったのでしょう。深い愛情から出た決断です(これは私の憶測ですが)。
白髪の混じったショートカットの髪、ジャージ姿でキビキビ働くヴェラの現在の姿からは、本に掲載されている写真の、あでやかで美貌に自信たっぷりといった感じの、40歳の頃の彼女がちょっと想像しにくいのですが、私は現在の彼女の方にシンパシーを感じます(美人に対してのヒガミかな?)。体を動かして働くことをいとわない彼女を魅力的に感じるのです。この底力は厳しい子ども時代に培われたのでしょう。

またいつかゲーリッツを訪れて、彼女たちからくわしい話を聞きたいと思っています。ヴェラの家


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Last updated  2008/08/12 11:08:33 PM
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