テーマ:海外生活(7782)
カテゴリ:人物
フライブルクのご近所に住むFさん(ドイツ人女性)は、一人暮らしのシルバー世代。
財産もあり、娘たちも独立したので、離婚後も何不自由なく、ダンス会に出かけたり、スピリチュアルなことに凝ったり、ヴォランティア活動をしたりと悠々自適の生活をおくっています。 ある日のこと、Fさんは買い物に出かけようとして、自分の車(BMWだかアウディだかの高級スポーツカー)を探しました。 フライブルクのたいていの住宅地では、住民は駐車の届出をし、年に数千円の料金を払えば、自宅近くの、一定の道路のわきに駐車することができます。 市の中心から離れた地域では、路上駐車が無料な場合もあります。 といっても、時間帯や日によっては、なかなか空いた場所が見つからず、家からかなり離れたところに駐車しなければならないこともあり、次の日に自分が昨日どこに駐車したかを忘れて、探し回る人も少なくありません。 「あら、クルマ、どこに置いたんだったっけ?」と、Fさんはあたりを一巡しましたが、車は見つかりませんでした。庭付きの家に住んでいるのだから、敷地内に乗り入れればよいものを、面倒なので、つい路上に駐車してしまうのです。 「まさか、盗まれたんじゃないよね」Fさんはだんだん心配になってきました。 それでも見つからないので、車探しは後回しにして、自転車でドラッグストアに出かけました。 ドラッグストアの駐車場に自転車をとめようとしたとき、見慣れた車が目に入りました。 「あれ、これあたしのクルマにそっくりじゃない!エ、エ、エ、これ私のじゃん!ということは、誰かが盗んで、ここにとめているってことー?げー、どうしよう! 盗んだヤツがやってくるまで待っていようか。でも、そいつが来たときになんて言おう。ピストルなんかで脅かされたら、もっと恐いー」 もともと臆病なFさんは、心臓がドキドキ、耐えられない不安を覚えたのです。 「あ、そうだ、近くに悪友が住んでいるんだっけ。あいつに助っ人に来てもらおう」 こう思いついたFさんはすぐに、友だちの家にかけこんで、事情を話しました。 話を聞いたその男性は、Fさんといっしょにドラッグストアまでやって来ました。車はまだ駐車場にあります。 「ねえ。あたしといっしょに盗み主が来るまで待ってて、そいつが来たら談判してよ。それとも警察呼んだ方がいいかしら」 友だちは思案ぶかげに「いまだにクルマがあるっていうのはヘンじゃないかい? 君、最近、クルマでここに来たってことはないの?」と遠まわしに聞きました。 「エーッ、そんなはずはー・・・。まてよ、そういえばー・・・。 アーーーー、そうだった、おとといクルマでここに来たんだった。だけど、クルマに戻るの忘れて、そのまま歩いて帰ったのよー!」 車で来たのを忘れて、徒歩やバスで帰ってしまうという例は結構あるみたいですね。でも、ふつうならその後に車のことを思い出すはずなのですが、再び自分の車を見つけても、まだ思い出さずに泥棒だと思い込んだ点が、いかにもFさんらしいところ。 悪友からは「健忘症なんじゃないか?」と言われ、彼女自身もあまりに恥ずかしくて「このことは絶対にほかの人には内密」と口を封じました。 でも、口止めというのは、排水管のふたのようなもの。いつしか水はしたたり落ちます。というわけで、この「笑い話」は私の耳にも入ってしまいました。 この話を聞いて、最初は笑いころげてしまったのですが、よく考えれば人事ではありません。一瞬前に鍵をバッグに入れたのを、次の瞬間には忘れて、家中を探し回るなんてこともしょっちゅうの私ですから。 しばらくして、またもFさんがかの悪友に電話をかけてきました。 「ビオ・ケラー(私の家の近くにあるエコ商品の店)で財布を盗まれた」というのです。お店の人は、Fさんが財布をとられたという時間帯には、店内に客がほとんどおらず、そんな可能性はほとんどない、といぶかったそうです。 この店は小さいし、そもそも商品が高いので、財布を盗む必要のある人が来るような場所ではありません。ただし、Fさんのクルマはこの店の小さな駐車場でとても目立ちます。客の大半は自転車か徒歩で訪れるし、高級スポーツカーの対極にあるような人、いわばロハス志向の人が顧客だからです。 Fさんはおっちょこちょいの面があって、銀行のキャッシュカードを取り忘れて機械に飲み込まれてしまったり、鍵をなくしたりっといったことがしょちゅうあるのですが、そのたびに「盗まれたー」を連発するので、周囲が本気にしなくなってきました。 いつしかFさんは財布のことを話さなくなりました。 ところが、またまた悪友に「大事件!」と緊急電話をかけてきました。 Fさんは家の一階と二階を使い、半地下のフラットを女子学生に貸しています。 Fさんが数日、家を留守にしていた間のある晩、10時ごろに女子学生が戻ってみると、家の玄関のドアがこじ開けられていました。これは明白な空き巣。 まだ泥棒が中に屋内のどこかに隠れているのではないかと、女学生は恐くて家に入れず、そのまま警察を呼びました。 警官とともに部屋に入ると、室内は荒らされ、彼女の持ち物では一番高価だといえるノートパソコンが盗まれていました。 知らせを聞いてすぐに帰宅したFさんは、自分の住まいの状況を見て、まさに逆上しました。彼女のフラットもすっかり荒らされてしました。 Fさんのパソコンは型が古すぎたからか、盗まれなかったのですが、高価なゴールドのアクセサリーがごっそりとなくなっていました。 そう、「ピーターとオオカミ」のお話のように、Fさんは今度こそ本当に泥棒にやられてしまったのです。 「ひどい被害なんだから、どうしよう!」と、電話の受話器に向かってわめくFさん。 警察の現場検証などの面倒な手続きをやっと終え、損害補償保険の会社に保険金を申請したFさんは、唖然としました。 盗まれたアクセサリーについては、それらが空き巣が入る前に存在したことを証明する写真がなければ、保険金はおりないと言われたのです。さらに、現金も金庫に入っていたのでなければ、おりないとのこと。 これでは何のために保険をかけているのかわからなくなります。 このところの金融危機で、銀行から現金を下ろす人が増えたのをねらって、空き巣が増えているようです。これも笑い事ではありません。 ま、拙宅にはゴールドのアクセサリーもないし、現金も持ち歩いているし(こっちの方が危ないと言われましたが)、金目のものはないのですが、パソコンというのが心配になって、高そうに見えるマックを本箱の下に隠そうかと思案中。 そんなことしたって、プロのドロボーさんは見つけちゃうよね。 クワバラ、クワバラ お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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