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![]() クリスマスシュトレン posted by (C)solar08 ドイツのクリスマスケーキというと、やっぱりシュトレンです。 日本のクリスマスケーキとは、似ても似つかないごっついケーキ。 バターたっぷりのイースト生地に、ドライフルーツ、マジパンやアーモンドクリームをたっぷり巻き込んで焼いたケーキで、日持ちが良く、硬くなってからでも食べられるのが特徴。 クリスマス前に家庭でこのケーキを焼く習慣があることは、二十年以上前、リンさんという女性から教わりました。 リンさんは中国系のインドネシア人。知り合ったときには、ドイツ人のご主人と三人の可愛い子に囲まれて、典型的なドイツ主婦として、幸せな生活をおくっていました。 私は家族を日本に残して留学生としてフライブルクに来たばかりだったので、主婦業をしっかりこなしているリンさんがとてもまぶしく見えました。 ちょうどクリスマス前の時期だったので、リンさんは開口一番、「今、十個のクリスマスシュトレンを焼いているの。これをお世話になった人たちにプレゼントするのよ」と言いました。 彼女のシュトレンは一つが一キロ近くになるほど大きい物、これを十個も焼くって、それだけでもびっくりしました。 リンさんはシュトレンだけでなく、色々なドイツの伝統料理やお菓子作りがとてもお上手でした。 当時、ランチを彼女の家族たちと一緒にご馳走になったことがあります。 ご主人も昼休みに仕事先から帰宅して、家族みんなで、リンさんが作ったおいしい食事をいただくのが習慣のようでした。 食事が出るまで居間の観葉植物の手入れをしたり、子供たちと遊ぶやさしいご主人。礼儀正しくて、とてもやさしい子どもたち。 こういう「インタクト」な家族を見て、夫も幼い子供も置き去りにして、一人でフライブルクに来てしまった私は、チクチクと良心が痛みました。 リンさんは結婚したての頃の苦労を話してくれました。 「最初の日に、お姑さんから『あんたは外国人で、ドイツの主婦業のことなんかわからないだろうから、私の言う通りにしなさい』と、ドイツ主婦の心得みたいなリストを渡されたのよ。x時起床、x時にこれこれの朝食を用意。x時に買い物、x時に掃除、x時に昼食にこれこれを料理・・・・・と、日課がくわしく書かれていて、私は決まりをしっかり守って、何でもしたの。料理もお菓子もお姑様の指示通りに作ったの」 ヒエー、日本のお姑さんより厳しいのね。でも、そのおかげで、リンさんはドイツ料理やドイツ菓子の達人になったわけです。 こんな幸せな主婦だった彼女ですが、いつの日かこの幸せに影がさしてきました。 ご主人が男性を愛するようになったのです。 駅付近を夜中にウロウロする姿が噂になりました。 そして、ご主人が男性を家に連れ込むようになって、家族には耐え難い状況になりました。 でも、ご主人に生計を全面的に頼っている状況では、別れることも難しく、彼女は悩みました。 それまでにはティーンエージャーに成長していた子供たちは、もちろんお母さんの肩をもちました。 ついに、リリーは決心し、子供たちといっしょに、ご主人を「追い出す」ことに成功しました。 これまで主婦しかしたことのないまま中年となったリンさんですが、これを機に生き方を一変させました。 悲しんで家に引きこもる代わりに、外に出たのです。 ご主人から受け取る子供の養育費だけでは、生活していけなかったのも理由の一つです。 彼女は中国語ができることを利用して、中国と取引のある会社に事務員として入社しました。 元から働き者だったリンさん、会社でも実績が認められて、ついには会社の代表として中国などアジア各地にも出張するようになりました。 ときどき、街で偶然に彼女を見かけます。あるときは、ボーイフレンドらしき方と可愛らしく手をつないで歩いていたので、話しかけるのはやめときました。 そのしばらく後に、一度立ち話をしました。 「わたし、とっても元気よ。忙しくってね、キャッキャッキャッ・・・」と、リリーの声はあいかわらず甲高い声で、早口でしゃべります。 昔はいかにもお母さんという感じで、年齢よりも老けて見えましたが、今は髪型もすっきりさせて、若々しくなり、いかにもさっそうとしたビジネスウーマンです。 「息子は建築家になったわよ。長女は医者。次女はまだ大学。元夫から教育費を出させるために闘ってるのるのよ」 「今でもシュトレン、焼いてる?」と聞くと、 「シュトレン?そんなもの作る暇はないわよ。手のこんだ料理もしないわよ。昔とはぜんぜん違うのよ、生活が。 そうそう、今度、あこがれの日本にでかけるからね。楽しみー! ボーイフレンド?あー、あの人は色々うるさいから、やっぱりやめといた」 頑張ってね、リンさん。! シュトレンは私が焼くわ。 でも、十個ではなくて、一個だけよ。 リンさんのようにきれいにはできないけど。 ![]() クリスマスシュトレン posted by (C)solar08 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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