テーマ:海外生活(7787)
カテゴリ:opinion
ひさしぶりにベルリンの娘に電話をしたら、
「オカアチャン、ぼくちゃんの給料値上げしてくれるって!」というビッグニュースを教えてくれました。 彼女はベルリンの衣料メーカーで、いちおうデザイナーとして仕事をしています。 娘は、ケルン大学で「演劇・映画・テレビ学」とフランス語を六年学び、マギステル(ドイツに以前はあった称号。日本などの修士に相当する称号でしょうか。現在ではドイツも学士とかマスターが導入され、いろいろ批判も受けています)をかなりの成績で(親バカですんません)取得して、卒業しました。 これでもう彼女を養わないですむ、と思ったのもつかの間、彼女は「ボクちゃんは、頭で仕事をするのは合ってないみたい。手で仕事をしたい」と言って、今度はベルリンの職業学校のデザイナー科に三年間通いました。 デザイナー科といっても、型紙おこし、裁断、縫製までをみっちり鍛えられたようです。 ところで、彼女は学校では裁縫を習ったことがありません。 ドイツでは小学校五年生以後、または七年生以後は、学校の系統が三つにわかれます。 九年生(日本の中学三年)までの義務教育で終わって、その後は職人や農業などの修行をするコース(基幹学校)、十年生(日本の高校一年に相当)で卒業試験を終えて、そのあと看護婦さんとか技術系の専門学校などに進むコース(実業学校)、十三年生または十二年生(高校三年)までいって、アビトゥアという卒業試験(大学入学資格試験)を受けて、大学に進学したり、就職したり、あるいは専門学校に行くコース(ギムナジウム)。 娘はこのギムナジウムで学んでから大学進学したのですが、ギムナジウムでは家庭科という課目はありません。 ですから、料理も裁縫も習ったことがないのです。 基幹学校や実業学校では、「技術」とか「家庭科」に相当する課目があるようです(少なくとも、フライブルクが属する州の指導要領にはありました)。 私が教えることもなかったし(家庭科は小学校から高校まで3で通した)。 というわけで、この職業学校で娘は縫い物やミシンの使い方を、一から学ばなければならなかったのです。 同級生の大半は、実業学校を出てすぐにきた16歳ぐらいの娘さんや少年だったので、娘よりもずっと若い彼女たちの方がずっと能力があったわけ。 不器用な私の血を引いているのではないかと、私はとっても心配でしたが、彼女はなんとか、すべての難関をくぐりぬけ(時にはひどい代物ができあがった)、卒業制作は、ベルリンの大きな会場でのファッションショーで発表し、就職難の中でも、なんとか現在の会社に就職することができました。 就職の面談のときに、自信がない娘は「雇っていただけるなら」と、給料の交渉もしませんでした。 支給される額は、彼女の学歴に対応した額よりはずっと少ないということは、彼女のあとに入ってきた同僚の給料を聞いて、わかったようですが、あとの祭り。 でもね、ドイツの労働条件って、給料の額はともかく、とてもいいと思いますよ。 たとえば、年休は六週間ぐらい。 去年、彼女は原因不明の病気で4週間近く病欠したのですが、このために休暇をとる必要もなく、給料も全額支払われました。 超過勤務に対しても、お金で支払われることもあれば、一部は休暇を増やすという形で報いられるようですし。 去年、おそるおそる、人事課の人に「給料を値上げして」とお願いして、3パーセント上げてもらったとか。 今年は不況で、周囲に解雇される人もいたので、彼女は恐ろしくて昇給の話をもちだす勇気がなかったのですが、上司の方から彼女に、昇給の話をしてくれたのだそうです。 うー、うれしい(私の内心)。 娘は夫に経済的に頼るのを極端にきらっているくせに、私に頼るのは平気だからねー。頼られても、ないスネはかじれないのよ。 娘の仕事事情を聞いていると、いろいろ考えさせられます。 彼女の会社の得意先の一つは、フランスのブティックとか卸業者。 ファッションのパリがなんでドイツの衣料のメーカーから買わなければならないのかと思うのですが、 得意先は、「中年をすぎてバスト・ウエスト・ヒップの区別があまりなくなったご婦人用の服を売る」(パリの得意先の方の言葉)ので、彼女の会社が作る服がちょうと合っているのだとか(若い女性向けのブランドも作ってはいますが)。 というわけで、娘の「作品」(?オオゲサ)はパリで売られることもあるらしい。5000着売れた服があるとか、言ってました。 この会社の服はリーズナブルなお値段が売り物の一つ。 取引先のデパートやアパレル業者からは、価格をダンピングされます。 そのつけはどこに行くかというと、中国です。 デザインはベルリンでされても、縫製はポーランドや中国の下請け業者でされます。 コストを押さえるために、ここでも縫製料がダンピングされます。 中国のある下請け業者では、電気もないところで、ひどい労働条件で縫製されているのだとか。 暗いところで縫ったために、出来上がった服にシミがついていたということもあるのだそう。 ドイツの会社から現地に出かけた社員が、下請け会社に「労働条件を改善するように」と要求したら、「そんなことを言うのなら、工賃をもっと上げてくれ」と逆に要求され、黙らざるを得なかったそうです。 下請け業者に払う縫製代を上げれば、次にはデパートに卸す価格も上げなければならず、そうすれば、デパートが卸させてくれないかもしれず・・・・と、悪循環がはじまります。 有名デザイナーの服も中国で縫製されることが多いですが、ブランド物は価格が高くても売れるので、中国の縫製業者にも、かなり納得できる縫製代を払えます。 一方、彼女の会社のように、手ごろな価格が売り物のメーカーは、そうすることもできないのです。 一度、娘といっしょにデパートのバーゲン衣服を見ていたら、彼女は「布代とか縫製とかのコストを考えたら、一着一万円以下のジャケットなんか作れるわけない」と言っていました。 それは当然ですよね。 でも、実際にはディスカウンターではその半額にも満たない衣料も売っています。 そして、失業率が高いドイツでは、こういう安い衣料を必要とする人もたくさんいます。 そして、そのために、中国などで労働者は過酷な条件で働かなければならないのです。 現在では、ポーランドや中国の下請けも高くなってきたので、先進国の会社はもっと安い労働力をもとめて、ほかの国も探しているのだそう。まさに国々の労働条件の差を利用した「搾取」ですね。 どうしようもない状況で、悲しくなります。 ところで、不器用なわたくしですが、5ユーロ(600円ぐらい)で買ったビロードのハギレと型紙(10ユーロ)で、前にドレープの入ったトップを縫いました(恥ずかしくてお見せできません)。 ミシンは娘が職業学校時代に使ったお古。ものすごく性能のよいミシンらしいのに、私ができるのは直線縫いだけです。 ![]() お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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