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このところ、特に旧東ドイツ、中でも特にドレスデンでは、ペギダ(西洋のイスラム化に反対する愛国的ヨーロッパ人 )と名乗る集団が毎週月曜日に大きなデモ(デモではなくてお散歩だとしていますが)をしています。場合によっては1万人もの「ふつう」の市民が集まって、声高々に「我々は国民だ」(我々こそが国民だ、というようなニュアンスが感じられる)と叫んでいます。
このフレーズは、旧東ドイツと旧西ドイツが統合される前に、旧東ドイツ人の多くが毎週、月曜日に集まって、旧東ドイツの独裁政治に反対して唱えたシュプレヒコールと同じです。 ペギダをなす人々はイスラム教徒と過激なイスラム原理主義者の区別をせず、回教信者なら誰もがテロリストであるかのようにとらえたり、宗教を問わず難民・移民に反対し、果てはユダヤ人の排斥を唱えるナチがかった傾向の人も混じっているようです。 よりによってイスラム信者の割合がとても少ない(0、2%)ドレスデン、そもそも外国人が少ないドレスデンでどうして?と不思議がられてもいますが、その謎はまだ解けていないようです。 イスラムを理由なく怖がる人もいます。 パリでのテロによって、この恐怖は拍車をかけられたようです。 政治が自分たちのことを考えてくれない、という不安がこうした心情を生み出す、ということも考えられます。 たしかに、世界のどこでもと同じくドイツでも、ますます金持ちとそうでない人との差は大きくなるばかり。勤勉に働いても、生活がなりたたない人は増えています。自分の惨めな状況を移民などのせいにしたくなるのでしょうか。 人間って、疎外感や劣等感をもつと、自分よりももっと「下」とみなせる人を探して、ばかにしたり、差別したくなる傾向があるでしょう。 いじめという現象もその一つだと見ることもできます。 いずれにしても、ペギダに参加する人たちは色々な形の不安や不満をもつ人の混合で、ナチ的な人もいれば、単に外国人を嫌う人も、あるいは政治に置き去りにされた不満感をもつ人もいるようです。 ドイツは積極的な移民政策をとろうとしています。 少子化、高齢化が進んで(日本ほどではないですが近いです)、このままだと将来年金を払ってくれる若者や中年層が足りなくなるし、職業能力のある労働力も不足するので、若い移民を受け入れることが、経済的にも緊急に必要だからです(経済界からの言葉)。 それに対しても、ペギダは反対しているのです。ガイジンが多くなって、自分たちは損をすると。 国営放送の政治レポート番組で、ペギダに参加する人にマイクが向けられました。 ある男性の言葉にびっくり。 「外国人を入れれば、ドイツは得をするなんて嘘だ。こんなニガーやガイジンは読み書きだって出来るようになりゃしないよ。やめてくれよ。南チロルだったら、こんなやつらは滞在許可をもらえないよ。やつらは作業所で働くことなんてできないんだから。ネジの一つの回し方も知りやしない。こんな連中を連れてきて、それが社会的な産物だなんて、やめてくれよ」とまくしたからです。 この暴言には、別のデモ参加者もちょっとたじろいていました。 画面を見ていて気がつきました。こんな差別的で、嘘もまじった暴言を吐いた男性の声と姿に見覚えがあります。 あら、これはカールだ。 前にこのブログでもなんどか紹介した、BFの旧友です。 旧東ドイツの山にある、古いポストの建物を自分の手で改造して、すてきな家にしてしまった、元歯医者。 彼には昔からナチ的なところがあったそうですが、外国人を赤裸に見下すような失礼なことをカメラに向かって言うとはね。 自分だってトリックを使って、税金をまぬがれたりなどいろいろ怪しいことをしているくせに。 毎年、カールの家を訪ねているのですが、去年は行きませんでした。 なんだか、もう彼のところには行きたくなくなった。 こういう人々でペギダは成り立っているのかな。 ペギダのデモのニュースでマイクを向けられた、若いアジア人(中国人かベトナム人か)の女性は「私はドイツで育ち、今は大学で社会福祉を学んでいる。自分はドイツに同化したと思いたいけれど、こういう運動を見ると、いくら努力してもドイツ社会には入れてもらえないと感じる」と涙ながらに訴えていました。 幸い、私の住むフライブルクはとてもリベラルでオープンな町なので、ペギダを支援する人はいるにはいますが、少数です。 そして、昨日はペギダに反対する市民の自発的なデモ(一人の個人がフェースブックで呼びかけた)に2万人が集まったそうです(フライブルクの人口、約20万人)。 おかげで、この町でガイジンとして辛い思いをすることはありませんが、そもそもガイジンってなんだろうと思ってしまいます。 もう30年もこの地に住み、国籍もとり、税金も毎年まじめに払い、選挙にも行き、日本からの収入もこちらで支出し、こちらの言葉で考え、、表現し、ドイツ人の友の中にいても、ガイジン? まあ見た目はどう見てもガイジンだけどさ。 日常生活で差別されていると感じることはないし、道路上などで「ガイジン、出て行け」などと叱責されたことは一度だけだし、襲われたこともないけれど、もし自分が若くて、就職などを探したとしたら、やっぱり差別はあるのかもしれません。 それだからこそ、娘のことが心配になります。 五歳でこちらにきた彼女は母国語がドイツ語で、幼稚園から大学までドイツの教育を受けているので、頭の中はドイツ人のはずですが、見た目も名前も純粋日本人。 いやだね。こういう下らない心配をしなくてはならない、という状況がとても嫌です。 今もヨーロッパ社会のこうした傾向が、イスラム原理主義だののテロへの恐怖から来ていることも確かですが、恐怖というのは論理的ではないから困ります。 ドイツでこの十年にイスラム原理主義のテロで死んだ人は2人だとか。 一方、若いネオナチによって殺された人(ドイツに定着して店などをやっている堅実なトルコ人が主)は10人。 もっとすごいのは、 病院の細菌感染(マルチ耐性菌)で死ぬ人はドイツだけでも、一年になんとなんと、4万人だそうです。 その内の2万人の死は、病院が感染対策をきちっととっていれば、避けられたそうです。 七面鳥、ニワトリ、豚などの飼料に抗生物質が多量に使われていることから、抗生物質が効かない耐性菌が増えてしまったのだとか。 ペギダよりも、病院の細菌対策(オランダではスクリーニングによって防がれているのに、コストの点でドイツの病院は及び腰)を訴えるデモをした方が、命のためになりそうよ。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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