中国柑橘(資料)基礎知識としての「中国のみかん産業と黄岩のみかん」 1.中国のみかん産業 (1).中国における柑橘生産の概要 中国は、世界における柑橘の起源センタ-の一つとして、一次センタ-のインド東部に次ぐ、二次センタ-と位置付けられている。また、後生柑橘亜属の発祥の地域であり豊富な柑橘資源に恵まれ、栽培の歴史も四千年を上まわっている。1978年に国が農村に新しい農業政策を施行して以来、柑橘農業は全国の18省(区)において一段と速やかな発展をとげた。1978年から1984年の七年間の生産量の増加率は約4倍となった。さらに、その後爆発的に成長を遂げ、1989年にはその栽培面積は102万59㌶に達し、世界第一位となっている。現在、中国は柑橘栽培に適した未開発地域もまだ多く残されており、これらの面積を加えると、実にアメリカの現行の柑橘栽培面積の約9倍、日本全国土の7倍に相当する柑橘栽培適地がある。生産量は、1991年には633万㌧に達し、ブラジル、アメリカに次いで世界3位にあり、今後の見通しによれば、2000年には1000万㌧を越すことが予測されている。中国の果実生産の中で、この生産量は近年のりんごの生産量を上まわり第1位に進出し、この傾向は当分続くものと考えられる。 表1 中国全土の柑橘生産高 単位:万トン
(2).柑橘生産地域の分布 中国の柑橘生産の分布地域は、おおよそ北緯16度から37度までの間にあり、東は台湾から西はチベットの河谷に及んでおり、南は海南島から北は陜西省、甘粛省及び河南省のあたりまで達している。海抜分布では2600㍍にも至っている。しかし、この範囲で柑橘が広範に栽培され、産地が形成されているのは、おおよそ北緯20度から33度までの範囲に位置し、海抜は雲南~貴州高原以外は、一般に800m以下である。現在、柑橘が栽培されている省・区は、全国的には18省、県(市)では約1000県(市)の地域にわたっており、表2に示すように、広東省が一番多く、次いで浙江、四川、湖南と続いている。 表2 中国における柑橘栽培面積の省市別一覧(1991) 単位:千ヘクタール
(3).柑橘生産の特徴 (1) 栽培の歴史が古く、品種資源が豊富であること。 中国における柑橘の栽培歴史は非常に古く、二、三千年前には、湖北省、湖南省及び四川省あたりですでに生産が盛んに行われていた。 中国はまた、柑橘の原産地の一つで、柑橘の品種の遺伝資源も極めて豊富である。特に、カラタチは中国原産で、広範に分布している。現在日本で栽培されている温州みかんの先祖や寧波金柑等は数百年前、中国から伝来したものである。 現在、中国の柑橘遺伝資源には合わせて1000余りの品種と系統があり、その内広く栽培されている優良品種は100以上あり、さらに、20以上の品種が広範に広がり栽培されている。1989年第2回目の優良品種選抜運動が開催され、65の品種が選ばれている。 (2) 適地適作を目指していること。 それぞれ産地の自然条件にあった品種を選定している。傾向としては、早熟性柑橘の選定が増加している。 また、南アジアで最良の寛皮柑(果皮の剥離が容易である柑橘)とされるポン柑、国内外で人気の高いネ-ブルも増加している。 ビタミンCの含量の高い文旦類は積極的に奨励され、1990年には栽培面積は80万畝。1畝=6.15㌃)に増加している。 (3) 柑橘栽培に適した地域が広いこと。 南方亜高山にはまだ多くの未墾地が残されている。これらの地域の面積はほぼ3000~4000万畝と言われている。 1万畝(615㌶)以上の栽培面積を擁する県(市)は165カ所あり、5万畝の栽培面積を擁する県は浙江省の黄岩県、四川省の江津県、広西省の霊山県・興山県であり、生産高15000㌧以上の県は浙江省の黄岩県等全国で14県(市)となっている。 (4) 消費市場が大きいこと。 中国の人口は約12億人で、世界総人口の20%を占めている。1991年の統計では、国民一人当たりの年間消費量はわずか4㌔㌘に過ぎず、現在の柑橘生産量ではとても消費者の需要量を満足させる状況ではない。 (5) 国による柑橘生産振興対策が積極的に進められていること。 1978年、中国政府は、柑橘農業の振興を促進するため、103県に対して柑橘商品生産基地として多くの資金を投入し、同時に全国988カ所にある柑橘農業にかかわる県と市に専門の柑橘生産管理・指導の責任者を配置した。さらに、柑橘生産の可能な16省、市、自治区に柑橘の科学研究を行う機構と研究人員を配備し、高等学校・大学において、柑橘農業の振興に必要な新しい人材を育成している。 (4).中国の代表的な柑橘優良品種 (1) オレンジ類 1.錦橙(チンツェン) 錦橙は四川省で主に栽培され、その分布範囲は四川省を中心に、湖北、湖南、雲南、貴州及び江西等の各省に広がり、日本等の国にも提供され試作されている。1990年現在、全国の錦橙栽培面積は7.5万㌶、生産量は30余万㌧である。果形は楕円形で、果皮は薄い。平均果重は175㌘前後、100㌘当たりの果汁中に含まれる糖は8.8~9.8㌘、酸含量は0.88~0.94㌘である。一般に年平均気温が18℃以上の地域が適地とされている。 2.新会甜橙(シンホイタンツェン) 新会甜橙は広西省南部、福建、雲南、四川及び浙江各省で栽培され、暗柳橙の変異として選抜された。1990年の栽培面積は 1万㌶、生産量は約5万㌧である。果実は短楕円形でやや小さく、1果重110~120㌘程度、果汁100㌘当たりの糖含量は11~15㌘、酸含量は0.5~0.7㌘である。成熟期は11月下旬~12月で、貯蔵性が高い。 3.暗柳橙(アンリュ-ツェン) 広東省のオレンジの代表品種で、省内のオレンジ栽培面積の50%、柑橘栽培面積の34%を占め、約3.3万㌶、生産量は約16万㌧である。広西、福建、雲南、四川及び浙江各省等で栽培されている。果実は球形あるいは長円球形で、1果重110~150㌘程度、果汁100㌘当たりの糖含量は9~10㌘、酸含量0.5~0.7㌘である。成熟期は11月中旬~12月上旬である。 4.福州市郊雪柑 5.枴帰桃葉橙(チ-クェイタオイェツェン) 6.廉江紅江橙(レンチァンホンチァンツェン) 7.潭浦改良橙(ツァンプカイリャツェン) 8.永興氷糖橙(エイシンピンタァンツェン) (2) 寛皮柑橘類 1.椪柑(ポンカン) 中国寛皮柑橘類中重要な栽培良種であり、9世紀ころから栽培されていた。椪柑の分布範囲は極めて広く、全国柑橘生産区に均しく栽培されている。福建、広東、浙江広西及び台湾等の省(区)に最も多く栽培されている。1990年現在、全国のポンカンの栽培面積は6.66万㌶以上に達し、生産量は60万㌧を越えている。主な品種系統には、硬芦(インフ-)とポンフ-の大きな品種系統がある。硬芦は品質が優れ、面積は最大である。この果実は11月上・中旬から12月中・下旬に成熟する。果形は遍円形で、1果平均重は120~160㌘で、果汁100㌘当たりの糖含量は11~13㌘、酸含量は0.5~0.9㌘である。近年に至り少核あるいは無核、高桶系及び晩熟等の芽状変異系統が選抜され、すでに広く推奨されている。ポンフ-は貯蔵性が劣るので、栽培面積は徐々に減少の傾向を示している。 2.早熟温州みかん 温州みかんは、1916年浙江省温州市九山(現在の温州市西郊九山村)に日本の興津園芸試験場から宮川早生温州みかんを導入したのが最初である。次いで1937年に浙江省黄岩園芸改良場(現在浙江省科学院柑橘研究所)に和歌山県から5個の温州品種を導入した。その中に、宮川、亀井及び松木があった。その後、日本から12個の品種を導入し栽培に移されている。1989年における早生温州みかんの栽培面積は9.82万㌶で、その内、湖南、江西及び浙江各省で70%近く栽培されている。中国内で多くの品種・系統が選抜されている。また、中熟温州みかん(日本の中生、晩生)も多くの品種・系統が選抜され、各地で栽培されている。 3.蕉柑(タンカン) 蕉柑は別名桶柑、招柑とも言い、広東省での栽培面積が最大で、生産量も最も多い品種で、現在の栽培面積は10万㌶、生産量60万㌧で、広東省の面積、生産量共に50%を占めている。福建、広西、台湾、浙江、四川及び湖南等の各省にも栽培されている。タンカンは大変変異を生じやすいことから、多くの選抜された系統が栽培されており、熟期も11月から翌年の5月と幅広い。タンカンの産地は、年平均気温21~22℃、1月の平均気温が13℃の位置に分布している。果汁100㌘当たりの糖含量は10~11㌘、酸含量は0.5~0.6㌘である。 4.福州市郊福橘(フウツオ-シチャオフ-チ-) 5.南豊蜜橘(ナンフェンミチ-) 6.黄岩本地早(ファンイェンペンチ-ツァオ) 黄岩が原産地で、数百年の栽培の歴史がある。11月上旬に熟する。 (3) 柚(文旦)類 1.玉環柚(ユ-カンユ-) 浙江省の玉環柚は100余年の栽培の歴史がある。1果重1000~1400㌘、皮の厚さは1.88~2.2㍉、総糖含量9~9.5% 2.蒼南四季抛(ツァンナンス-チ-パオ) 3.長寿沙田柚(チェンソウサ-ティエンュ-) (4) 金柑類 1.遂川金柑(シ-ツァンチンカン) すでに900余年の栽培歴史がある。 1果重13.5㌘、1果当たり種子は4.37粒、糖含量は8.2%、酸含量は0.24%で、成熟期は一般に11月上旬~1月上旬である。全国金柑の第1位の栄誉を得ている。 2.融安金柑(ロ-アンチンカン) 2.黄岩のみかん 1.浙江省の概要 浙江省は中国の東南沿海にあり、東経118度~123度、北緯27度~31度21分の間に位置し、東西と南北に長く約450㎞で、全省の面積は約10.25平方㌔で、全国の土地面積の1%強に当たり、中国の中で最小面積の省である。上海は浙江省の北部に隣接している。 浙江省は中国における主要な柑橘生産省で、1991年の生産量は106万㌧である。同省の年平均温度は15~18℃の間にあり、温度は南から北に向かって漸減する。1月の平均気温は北部で3℃前後、東南沿海で7℃以上である。年降水量は1200~1800㍉で柑橘の生長に適しているが、5~6月と9月に曇りや雨の日が多い。年平均日照時間は1800~2100時間で、柑橘の生育にとって十分である。 当省の地形は複雑で、丘陵産地が非常に多く、「七山一水二分田」の称がある。 浙江省の柑橘栽培の歴史は古く、古書によると少なくとも2300年の歴史があるとされている。東部沿海適区は、同省の柑橘生産量の75%を占め、温州みかん、本地早、早橘、慢橘(マンチ-)、金柑等が栽培されている。 2.黄岩地区(視察地) 柑橘の主産地である黄岩地区は、東部沿海適区に分類されており、地形は海濱平原及び島嶋(タオユ-)で、地勢は海に向かって傾斜している。 自然条件は、年平均気温17.1℃、年降水量1547㍉、年日照時間数1961時間であり極端最高気温38.1℃、極端最低気温マイナス4.5℃(平均値)である。年によっては凍害の発生することもあるが影響はさほど大きくない。沿海の土壌は塩分が極めて高いが、土壌改良すればすぐ栽植できる。 黄岩地区は柑橘の銘柄産地で知名度が高く、さらに、同地区は果樹産地で、柑橘以外にビワ、ヤマモモ、ナシが栽培されている。柑橘の品種構成は、温州みかん40%、慢橘30%、本地早20%、その他10%(ポンカン、ネ-ブル)となっている。 一農家当たりの柑橘栽培面積は30㌃と少なく、価格が横ばい(小売り価格3元/㌔)規模拡大が難しい、若い労働者は他産業への関心が高い等の理由で、当地区の柑橘面積は増えないとのことであった。(湖南省、四川省、福建省の内陸産地で増えている。) すでに、柑橘経営で儲けた農家は、その金を家内工業(電気、機械、プラスチックス加工等)に投資し、安定した高収入へと変わっている。 年収は、専業農家ので30万円、兼業農家で10万円程度で、柑橘作業の日当は、200~250円である。 バスからの視察が中心であったが、柑橘園地は平坦地だけでなく、急傾斜地も多く、思っていたイメ-ジとかなり異なった。樹勢は、土が痩せている上に無肥料栽培に近いことから弱く、葉も小さい。結実の少ない樹でも夏秋梢の発生は非常に少ない。その上殆ど無せん定のため主枝、亜主枝の区別がまったくつかず、枝が叢状に発生している。 密植栽培で隔年結果しており、安定生産に欠けると思われた。無摘果のためか果実は小さい。試験場で試食したポンカンの味は、酸が少なく、やや淡泊な味であった。 3.缶詰工場 黄岩には従業員1200名規模の大きな缶詰工場、「罐頭食品廠第一分廠」がある。この工場では年間3万㌧(内温州みかん1万㌧)の製品を生産しており、その60%を日本へ輸出している。特にみかん缶詰は、三菱、日商岩井、東食、丸紅、伊藤忠が窓口となり主力商品である。 年間売上20億円、従業員の平均給料8000円で、筍、ビワ、ヤマモモ、桃、ブドウ、栗、キウイフル-ツを加工している。みかんの原料代は30円/㌔であった。日本の機械で製造され、水も最新の施設で浄化したものを使用するなど、品質管理には気をつかっている。ビワの缶詰を試食したが、品質は我国のものと変わりなかった。 中国の缶詰は、我国にとって大きな脅威と痛感した。 ジャンル別一覧
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