2021/05/26(水)07:47
鹿島VS名古屋 小泉慶
5月12日(水)に行われた、Jリーグ第21節「鹿島アントラーズ対名古屋グランパス」の話である。
得点は2対0で、鹿島アントラーズの完封勝ち。
しかも、Jリーグ史上2度目の「被シュート0」の完全試合。
相手にシュートを1本も打たせなかったのである。
DAZNでダイジェストを見ても、ほとんどが鹿島の攻めているシーンばかり。
今年の鹿島の前半におけるベストゲームだったといえよう。
ボール支配率は互角だったにもかかわらず、名古屋は攻めることができなかった。
ボールを持ってもすぐに囲まれて、効果的なパスを出すことができない。
苦し紛れのパスは鹿島に回収され、名古屋のディフェンスはラインをあげることができなかった。
鹿島の選手は、誰一人休まずサボらず、プレスをかけ続けた。
その中でも出色の働きをしたのは、トップ下で使われた小泉慶だった。
前々回このコラムで取り上げた小泉進次郎は、中身空っぽの張りぼて大臣だったが、同じ小泉でもこちらは中身ぎっしり、無尽蔵のエネルギーで最高のパフォーマンスを繰り広げた。
今年のJリーグのスケジュールはコロナの影響、ACLの変則スケジュールなどで、タイトなものとなり、週2試合の連戦が続いている。
それでも週末はリーグ戦、平日はルヴァンカップという具合に分かれていたが、今回はACLの関係で水曜なのにリーグ戦(第21節を前倒し)となった。
4月17日から指揮を受け継いだ相馬監督は、過密密偵をにらんでルヴァンカップ戦は、キーパーも含めてほとんどのポジションの選手をターンオーバーして使ってた。
控えとは言えど鹿島の選手は能力型が高く、ルヴァンカップは予選首位通過でいい結果を残していた。
しかし、今回はリーグ戦である。
前節(5月9日)のFC東京戦は快勝しているので、サッカーのセオリーから言えばメンバーは変えない。
しかし、今後も連戦が続くことも考えると、けがの心配もあり無理はさせられない。
どうするのかと思ったら、前節から6名を変えた。
連続出場は沖、町田、犬飼、常本、土居。
キーパーとDF3人、そして急造トップの土居。
鹿島は現在CFのエべラウドと染野が離脱中、上田のみベンチにいるが、怪我上がりで無理はさせられない。
ということで、本来トップ下の土居を前節からトップに起用しているている。
驚いたのはトップ下(OH)の人選である。
なんと鹿島入団以来ほぼRSBだった小泉が、いきなりトップ下という奇策であった。
トップ下は小学校以来と、本人も驚いたという。
ふたを開けるとこの起用が面白いように奏功した。
前半は裏に抜け出したり、間で受けようとしてたりトップ下の動きをしてたが、先制点が取れた時点からプレスに専念する決心をしたようで、激しくボールを追い始めた。
ボールのいくところいつも小泉がいるという、何人小泉がいるんだ状態が生まれる。
右サイドでボールを追ったかと思うと左サイドにも出現し、ボールめがけてプレスをかけまくり、自陣近くも猛然と襲い掛かってピンチを防ぐ。
名古屋の選手は小泉に追われると、苦し紛れのミスパスを連発、鹿島の選手の足元にボールがやって来る。
このまま走って走って90分。
小泉の走行距離は13.4キロ。
ちなみに2位の鹿島のディエゴピトゥカ(DH)と名古屋の稲垣(DH)が12.4キロ、これでも多い。
走行距離が多いのはDHとかSBで、普通トップ下と言われるOHは走らない。
しかも、スプリント回数が41回。
これも2位は鹿島の常本(SB)と名古屋の前田(FW)で25回。
どちらも2位を引き離しての断トツの走りだった。
バルセロナのメッシを見ればわかるように、OHは走らないでスペースでボールを待つことが多い。
しかし、小泉は走る走る、ボールのいくところどこへでも走る。
今後、小泉がどのように使われるかは監督次第だが、この試合に関しては、まったく新しい選手起用であった。
小泉慶のコメント
「自分があそこで、例えば太郎とか聖真君とかヤスさんとか、そこのポジションでやっていますけど、僕がそれをやるというのは厳しいなと思ったし、でも監督が求めているのはそこじゃないと思っていました」
「あそこの位置で何ができるのかっていうよりかは、やっぱりきついことだったり、後ろに戻ってチームを助けるとかそういうのに徹しようとは思っていました」
「僕は本当に鹿島が勝つために、きついときにどれだけ助けるっていう部分だったり、攻撃でも守備でもアグレッシブにプレーできればいいなとは思います」
『スポーツ報知』の採点&寸評で、MOM(マン・オブ・ザ・マッチ)はバースデイゴールした犬飼でも、ディフェンスを切り崩してゴールした杉岡でもなく、選んだのは小泉だ。
MF小泉慶【7・5】独壇場。走行距離13・5キロ、スプリント41回のトップ下なんて聞いたことがない。NYタイムズに取り上げられ、情熱大陸に特集され、紅白歌合戦の審査員席に座れるレベル。MOM
まさに絶賛だ。
小泉慶が鹿島アントラーズに加入したのは2019年の7月、シーズン途中だった。
この年の鹿島は大岩剛監督時代で、前年はACL優勝という輝かしい歴史を持つ。
ところがRSBは、内田、伊東が故障気味で、左右両方できる安西が海外移籍、DHの永木がコンバートされて急場をしのいでいる状態だった。
そこに柏レイソルから小泉が呼び寄せられた。
連れてきたのは現在ヘッドコーチをしている熊谷浩二、当時はスカウト部長。
熊谷も僕好みの渋い選手で、無尽蔵の働きをするDHだった。
自分と同じ匂いのする小泉の才能を見抜いたのだろう。
柏ではベンチにも入れなかったのだが、実際に鹿島でのプレーを見て驚いた。
実に真面目に、上下動を厭わず90分平然と続ける。
体はそんなに大きくはないが、体感は強そうで対人は負けない。
こんな選手がベンチ外だったとは、柏はどんだけ選手層が厚いのかと驚いたが、単にチームカラーが合わなかっただけかもしれない。
鹿島のレジェンドSB奈良橋との対談で、鹿島向きだと評されている。
奈良橋いわく「自分が言うのもなんだけど、顔が鹿島向き」ということなのだが。
鹿島アントラーズの背番号『2』は、わずか3人しかいない。
そのレジェンドは、ジョルジーニョ、奈良橋、内田。
2018年に鹿島に復帰した内田篤人は昨年引退した。
その引退会見で引退理由を次のように語った。
「練習中もけがをしないように少し抑えながら、ゲームでも少し抑えながらというのが続いていた。たとえば永木、小泉慶、土居くんとかが100%やるなかで、その隣に立つのは失礼だなと思うようになった。鹿島の選手としてけじめをつけないといけないと感じました」
鹿島の選手は、練習からバチバチやり合うというのは有名だ。
その中でもこの3人はすごかったということだろう。
そこに移籍2年目の小泉の名が入っていた。
名指しされた小泉は次のように感想を述べた。
「チームのミーティングで、篤人さんが自分の名前を出してくれました。経験のある選手から名前を出されるのはうれしく思いましたけど、あの人自身も100%でやっていたし、僕もなかなかベンチに入れなくて、一緒にトレーニングする機会も多かったので、すごく励まされるというか、常にプラスになる言葉を僕に言ってくれていましたし、頑張れました。だからこそ淋しいし、そんなことは言ってられないんですけど。本当に、そういう人の思いも背負って今後、サッカーをやっていかなければいけないと思います」
真面目ごちごちの人柄がにじみ出ている。
相馬監督に代わって、RSBは大卒ルーキーの常本がほぼ固定されて使われ、試合を重ねるごとに能力を開花させつづけている。
ザーゴ監督が使っていた広瀬も控えている。
本来のポジションであるボランチ(DH)は、レオシルバ、三竿、永木がいる上に、ディエゴ・ピトカがブラジルから加わり渋滞している。
トップ下も才能ある選手がそろっているから、特別な事情がなければ難しいのが現状である。
鹿島にいる限り、激しいポジション争いは続くだろう。
しかし、小泉慶はこれからの鹿島に必要な選手である。
どんな時、どんなポジションでも彼はやってくれるだろう。
鹿島のサポーターは、みんなそれが判ってるから、信じてるから。