認知療法
ヨーガでうつ症状を治そうと思ったのですが、実際にヨーガで治ったのではありません。 ヨーガと呼吸法と休息が、痛んだ神経を癒してはくれましたが、重要なのはうつ症状に至った"考え方”でした。苦しんでいた期間は、自分を見つめなおす期間でもあったのです。〈本は友達〉で紹介したような、様々な本に導かれ、凝り固まった心のしこりがほぐれていくにつれ、大切なのはこだわっていた"虚飾"や"見栄"ではなく、"幸せに生きる"というシンプルな姿でした。そして、たどり着いたのは、自分を苦しめるのは、自分自身の考え方なのだという真相です。この考え方の修正を精神医療で活用しているのが「認知療法(認知行動療法)」という治療法です。自分から認知療法をやろうと思ったわけではないのですが、結果的に認知療法を行っていました。 高田明和先生の本を借りて「認知療法」の解説をします。 【認知療法は三つの原則に基づいています。第一は、「あなたの気分はすべてあなたの考え方、ものの見方による」という考えです。見方と言うのは、「ある出来事をどのように解釈するか」ということです。「あなたの現在の感情は、あなたの考えていることで決まる」のです。第二の原則は、あなたがうつ気分に支配されている時は、否定的な考え方に支配されているということです。あなたは自分だけでなく、世の中全体が暗い気分に覆われていると感じているのです。過去を思い出しても、自分にとって良くなかったことだけを思い出します。また、未来を考える時には、未来は空虚で、解決できない問題と苦悩に満ちていると思っているのです。この考え方が絶望感を生むのです。第三の原則は、「あなたの気分をそこなっている考え方には、かならずゆがんだ考えが含まれている」ということです。あなたは自分の考えが正しいと思っているかもしれません。しかし、じつはそれは間違いです。そして、このゆがめられた考え方こそあなたの悩みの原因なのです。】 うつ症状に苦しんでいた時は、心に"悪魔"が棲みついているかのような感覚でした。こんなはずじゃないと立ち上がろうとしても、「何をやっても無駄さ。お前は運命に見捨てられたんだ」と悪魔がせせら笑います。もうすこし我慢すれば嵐は過ぎ去るだろうと思っても、「我慢して頑張っても、誰も認めてくれないんだぜ」死ぬ気で耐えれば道は開けると自分に言い聞かせても「死んだほうが、家族のためになるかもね」と死の誘惑をします。だんだん力が湧かなくなる自分を見て、情けなくなり、自分自身に失望して正しい判断が出来なくなります。 【うつ病をもたらす「ゆがめられた考え方」1)白黒の考え...あることで失敗すると、それですべてがだめになり、意味がなくなるという考え方。2)単純化...何かあるとすぐにその出来事がなぜ起きたか、理由を詮索し、実際それが理由かどうか分からないのに、それに基づいて結論をだしてしまう考え方。3)知的フィルター...自分の過去、今起きていることについて、自分に都合が悪そうなことのみ取り上げ、心配したり、自己批判をすること。4)肯定的な事を無視...他人のほめ言葉を「あれはお世辞だ。本当は別の事を考えている」と考えてしまい、何を言われてもうれしいと思わない。5)結論を急ぐ...自分がちょっと失敗すると、周囲の人はみな自分に悪い感じをもっている、自分は好かれていないと結論付けてしまう。6)拡大化と矮小化...自分の能力、周囲の人の能力を正当に評価できず、自分はだめで、周囲の人は自分ができないことができる、などと思う考え方。7)感情の理由付け...私たちの感情は外界の出来事、過去の出来事をどのように考えるかできまります、ところがこれは、感情からそのものになる事実の是非を判断する考え方。8)MUSTの考え...自分はこうして生きるべきだ、しかしいつもそうできないから自分はだめだとする考え方、あるいは他人に対して、自分はこんなに一生懸命にやっているから、自分を認めるべきだと他人にmustを強制する考え方。9)ラベル化...これは決め付けです。自分が失敗した経験がある場合に、「自分はだめな人間だ」、「自分は何をやっても失敗する落伍者だ」と決め付ける考え方。10)自分の責任にする...自責の念をもつ人がなんと多いことでしょう。本来の自分でないことについて苦しむ、あるいは自分の責任でも、どうしようもないことについて苦しむ考え方。】 ゆがめられた考え方は、硬直化した思考回路が生み出します。「~しなければならない」という思い込みが、マイナスの部分ばかりを際立たせ、頭の中を“後悔”と“不安”でいっぱいにしてしまいます。この状態が長く続くと、交感神経が過労になり、身体に異変を生じることになります。自動車のエンジンがオーバーヒートして動かなってしまう状態です。この場合は、エンジンを止めて冷やすことで回復します。うつ症状になったら、まず休むことが重要です。ただ、エンジンが焼けきれて、壊れてしまった場合は厄介なことになります。もう一度エンジンを作り直さなくてはなりません。そのために考え方を改めることが必要になります。同じ考えのままだと同じ失敗を繰り返すだけだからです。 【ある出来事が起きた時に、自動的にゆがめられた考え方をしてしまうことを自動思考と呼びます。このような考え方をする理由は、子供のころからの育てられ方、周囲の人の考え方、その時の社会に見られる思考パターンなどの影響を受けているからです。だからこそ、ある時代、ある文化、ある人間関係により、うつ病になる人が多かったり、少なかったりするのです。まずセラピストといっしょに自分がなぜうつ状態になっていたかの病歴を作成します。自分がなぜうつ病になっていったのかの病歴を作成します。うつ病につながったと考えられるストレス、対人間関係の困難、子供のころの体験、現在の職場の環境など、さまざまです。セラピストは、ここでゆがめられた考え方、反応の異常がないかどうかを読み取ります。それにより患者は自分がなぜある出来事に間違った反応、間違った考え方をしてしまうのかを理解するようになります。次に自分の考えを点検し、なんとか別の考えができないかを自分で調べさせます。それには自動的と思っていた考え方に反論してみるといいのです。当然、その反論にも反論があります。最終的に自分の心が苦しいと思わないような考え方に到達できれば、治療効果があがったとするのです。とにかく気分を変えることができる考え方は何でも取り上げるのです。人によればそれはごまかしだと言うかも知れません。自分の心の奥にも、これは自分を騙す考えだというささやきが聞こえるかも知れません。それでよいのです。このように反論を繰り返してゆけば、次第に気分が良くなり、良くなると、いろいろなことで自分を肯定的に考えることができるようになるのです。】 僕のたどり着いた避難所は、「まっいっかぁ」の精神です。失敗しても「まっいっかぁ」、ことが順調に運ばなくても「まっいっかぁ」、大事なことを忘れても「まっいっかぁ」。いつかはどうにかなるだろう、なるようにしかならんのだぁ、わかっちゃいるけどやめられないホイ♪、と無責任を決め込むのです。何とかなるだろうと思うと、何とかなるんです。 【自分には価値がないという感覚は、あなたの心の中の批判者との対話で生み出されます。「自分はだめだ」「自分は他人より劣っている」「自分は失敗者だ」という自己破壊的な批判。これらの批判が自信の喪失といった感情を作り出します。このような心の習慣を打ち破るためには、次の三つの段階が必要です。イ)自己批判の思いが心をよぎるとき、それに注意を向け、書き出すこと。ロ)なぜ、これらの考えがゆがめられているかを理解する。ハ)もっと現実的な自己評価ができるように反論する練習をする。】 問題が発生した時はとりあえず「だいじょうぶ!」といってしまいましょう。なんで大丈夫なのかは、あとから考えればいいのです。心の悪魔が何とささやこうと、「だいじょうぶ!」と撃退しましょう。結果にこだわらなければ、本当に大丈夫ですから。想定外のことが起きたとしても、「人生って、いろいろあって面白い」と思ってしまえば、なにも恐くない。 【認知療法はペンシルバニア大学のアーロン・ベック博士によりはじめられたものです。彼の所属するペンシルバニア大学医学部の認知療法センターでは、三環系の抗うつ剤、トフラニル(イミブラミン)と認知療法の効果を比較しました。結果は驚くべきものでした。認知療法だけで治ったうつ病患者は19人中15人で、2人はある程度効果を示しました。一方、薬だけを与えられた患者は25人で、そのうちで完全に回復した人は5人、ある程度回復した人は7人でした。回復しなかった人は5人。そのために、この治療を止めた人は8人にものぼりました。さらに注目すべきことは、認知治療を受けた患者は薬を投与された患者より回復が早かったということです。認知療法を受けた患者は治療開始後1,2週間で自殺願望がなくなったのです。とくに薬に頼らず気分を変えようとする人たち、自分を苦しめている原因を知り、それに適応したいと思っている人には認知療法は有効でした。】 たとえ薬物によって、うつ症状を抑えたとしても、根本のうつに至った考え方を変えない限り、病気は治ったことにはなりません。頭の中の"こだわり"をきれいに掃除して、幸せな人生のために、本当に必要なものを拾い上げます。お金や地位や名誉ではありません。そのことが解かるために、うつという試練があったと、今、思っています。 自分中心に物事を考えていいんです。自分の人生なのだから。過去のいざこざはすっぱり捨てて、今を幸せに生きれば、それでいいのです。今の幸せを実感できれば、必ず湧きあがって来るのが"感謝"の気持ちです。むりに感謝をしましょうというのではなくて、今の自分を支えてくれているすべてのもの、関わったすべての人に、心の底から感謝の気持ちが泉のように湧いてきます。その心境に至るまでがうつの治療であり、幸せな人生を送る真理なのです。 参考資料:高田明和浜松医科大学名誉教授『うつ病を自分で治す実践ノート』『うつを克服する気に病まない生き方』http://plaza.rakuten.co.jp/sontiti/diary/201105130000/http://plaza.rakuten.co.jp/sontiti/diary/201105150000/