第42回「ボギー!俺も男だ」
ウデイ・アレンで一番好きな映画は「ボギー!俺も男だ」の方かもしれません。ひどい題名です。原題は「PLAY IT AGAIN ,SAM」オールドファンならお馴染み、ハンフリー・ボガード、イングリッド・バーグマンの「カサブランカ」の名台詞が出典です。「カサブランカ」は映画が好きな人なら当然、と言うよりアメリカ人の一般常識ほどの名作です。ボガードの経営する酒場に、かつての恋人バーグマンが現れます。ピアノ弾きのサムに、二人の思い出の曲をリクエストする時に使われた台詞です。流れる曲は「AS TIME GOES BY」(エブリリトルシングではありません)ピアノの音を聞きつけて、血相変えたボガードがやってきます。「その曲は弾くなといっただろサム!!」そこで、はっとするボガード。バーグマンと再会、見つめあう二人。って、「カサブランカ」のコラムではありませんでした。機会がありましたら、クラシック映画のコーナーでいつか…「カサブランカ」もボガードも知らないという人には通じない部分もあるかもしれませんが、ボガードはかっこいい男の代名詞だと思ってください。いまでいう‘チョイ悪’になるかなあ。72年製作ですが、珍しくアレンは脚本、出演だけでメガホンを取っていません。監督はハーバート・ロス。でも、もともとこの作品はアレンが舞台でやっていたものを映画に移植しただけなので、アレンの作品で良いでしょう。共演のダイアン・キートンは舞台の時も同じ。この二人、ダイアンはアレンの初期の作品の常連で、素晴らしく息の合ったやり取りをします。それもそのはず、二人は恋人でした。この頃の二人の出来事は、後に77年「アニー・ホール」になって使われます。だから、アニーホールの時は、恋人解消後ということになりますね。でも、このコンビ好きです。80年代に入ると、アレンのパートナーは、ミア・ファローに替わります。「華麗なるギャツビー」の忘れられない恋人のあのミア・ファローです。そして、彼女もアレンの恋人です。とにかく不思議なのが、なんであのチビでメガネでハゲのアレンが、次々と美人の彼女を作れるのかということです。男は見掛けでなく中身だよ、という証明ではありますが、実際の僕の周りの女性にその判断基準を期待していいのでしょうか。そういう男だって、まずみかけにとらわれてるでしょ!って、その通りです。まず、人の何に価値を見ているかという、個々の基準が恋人の選択基準になりますよね。見掛けに惹かれるということは、見掛けに価値を置いているわけで、お金に惹かれる人は生活力を重視していて、インテリジェンスに惹かれる人は、インテリジェンスが大事なわけで、つまり、選ぶ相手は自分の鏡になるわけですね。つまり僕を好きになってくれる人は、やはり僕の内面に共鳴してもらいたいと思うなら、結局そういう人にめぐり会うしかすべはないのです。どこにでもいる人でいい人はどこにでもいるでしょうが、内面に秀でた人をリスペクトできるだけの、同じ内面を備えた人はなかなかいなくて当然です。それだけ希少価値がある、大切な存在なので、やたらに惚れられても困るぐらいでないと本物ではない。だから、もてないことは誇りに思いましょう。何とか振り向いてもらおうと、自分を欺いて擦り寄るのはやめましょう。そんな暇があるなら、もっと自分を磨きましょう。寂しさをまぎらしつつ、そんな考えに着地する僕でした。(歳を考えろってか?)アレンの話に戻すと、ミア・ファローと別れてからまたダイアンと93年「マンハッタン殺人ミステリー」でコンビを組みます。やっぱり合うんですよね、アレンとダイアン。もちろんもう恋人ではないのですが、男女の盟友って感じ?こういう繋がりって憧れますね。青春の頃、お付き合いをしていたお友達。あれから僕も、年を経て少しはましになりました。もし、あの頃失礼なことをしていたら謝りますので、水に流して会ってもらえませんか?今なら、あなたのいい所をしっかり見ながら話ができると思います。傷ついたり傷つけたり、青春にありがちなこと、贖罪の機会があれば済ましたいと思う今日この頃。