AIを生かすも殺すも人しだい
栃木県建築士事務所協会の会報の令和7年新年号に書いた私のコラムを転載します。今回は近年目覚ましく発展しているAI(人工知能)を取り上げました。AIはすごい頭脳を持っているわけですが、使い方によっては「倫理観や人としてどうあるべきか」を徹底して教え込むことが必要で、子供の教育と同じだと感じています。人の代わりをAIに頼むとすると、「何を」教え込むかがこれからの課題ですね。💮AIの良い活用法1. 日曜日お昼前後に放送しているNHKの囲碁・将棋コーナーを見ている方も多いかと思います。数年前からプロ棋士対局中に次の一手でAI予測が出ています。対局者が真剣勝負で一手指すと、瞬時にAIが次の候補3手分を表示し、どちらが優勢かのパ-セント表示をします。候補手の数は面積に例えると、将棋が1mm2とすると囲碁は人が立ってぐるり地平線を見渡す範囲の面積に該当するぐらいの大きな差があるようで、将棋のAIが1秒で次の候補3手分を表示するのに対して、囲碁は多少変動しながら数秒で次の候補3手分を表示する。AI定石なるものが定着し、10年前までは先輩方から叱られるような手が、今やAIに認められてAI定石となっているものが数多くあるそうです。将棋も囲碁も、AIを使って研究している若手にAI苦手の年配の棋士たちはかなわなくなっているのが現状です。2. ブッダやソクラテスらの歴史上の偉人の経典や哲学を学習して回答するAIを京都大と名古屋大の研究者が開発しました。京都大学熊谷教授(仏教学)ブッダAI「ブッダポットプラス」2023年7月発表、名古屋大学岩田准教授(古代哲学)古代ギリシャのソクラテスやプラトンなど計22人分の哲学を学んだAI「ヒューマニテクスト」2024年5月発表。パソコンのキーボードをたたいて人生相談などの質問を入力すると、AIが回答を画面に表示する。Q&Aを繰り返し続けることができます。(今年1月4日下野新聞P15の記事)3. 古代インド語であるサンスクリット語をAIで同時翻訳できる。「お盆」や「旦那」「檀家」「ヨガ」はサンスクリット語です。グーグルのWeb翻訳サービスでは、ゼロショット機械翻訳という新たな技術を活用して、世界133語をサポートする。法事でお寺の住職が何を唱えているのか瞬時に日本語で理解することができる時代になったのです。4.トヨタ自動車が静岡市で建設している次世代技術の実証都市「ウーブン・シティ」の第一期工事が完了しました。ウーブン・シティはトヨタの従業員約2千人が居住し、先端技術をどう暮らしに役立てるかの実験場とする計画です。自動運転車やロボット、AIを駆使した街づくりを目指す方針です。(今年1月8日下野新聞P10の記事)👹AIの悪い活用法(R4.12.14下野新聞P17)1. 「人間と対話すればするほど賢くなるロボット」として登場したチャットロボットが、開始後16時間で停止された事例があります。チャットロボットが、ある集団から人種差別的な内容を集中学習させられ、ヘイトスピーチを乱発するようになったため起きた事件でした。2. 画像認識技術によるタグ付けの仕組みで、黒人を「ゴリラ」と判定してしまう事例が報告されました。問題は学習データの偏りに起因する。SNSに投稿された膨大な画像を学習して構築された仕組みだが、蓄積された画像データは圧倒的に白人が多く、黒人の画像を十分な精度で認識できるだけの学習が不足していたため。3. 犯罪者の再発可能性を予測する「コンパス(COMPAS)」も、人種的偏見を含んでいる可能性を指摘されました。4. ある米国企業は膨大な投資をしてAIを利用した人事採用システムを構築したが、技術職の採用に性差別があることが分かり利用を停止しました。このAIは、過去10年間の就職志願者の履歴書データを基に訓練されていたが、応募はほとんど男性だったことから「技術職は男性を採用するのが好ましい」と認識するようになりました。さらには、履歴書に「女性」に関する単語や、特定の女子大学の名前などが記されていると評価が下がる傾向も出てきました。5. 自動運転車が事故を起こした時の責任はだれが負うのか。AIが制御する自動運転車で事故が避けられない状況下になった時の判断基準をどう設計するのか。この問題を考える時によく引用されるのが「トロッコ問題」です。トロッコの制御が不可能になり、そのまま進むと前方で作業している5人がひかれてしまう。進路を変え別の進路にいる1名を犠牲にするならば5人を救うことができる。この問題に正解はなく、どちらが倫理的か考える人によって正解が異なります。人間でも難しい判断をAIにさせる場合、どう設計し実装するのか。その結果、事故が起きた際に責任の所在はどうなるか。しっかりと倫理問題と向き合っていく必要があります。