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カテゴリ:読書記録
猫を抱いて象と泳ぐ 日々量産される小説の中で、文学として生き残れる作品はどのくらいあるでしょう。 小川さんのこの作品は、まちがいなく文学作品です。ああ、同じ文字を使ってここまで「世界」を構築できる才能はどこから溢れてくるのでしょう。 冒頭から音楽が流れるのです。欧州のどこか、おそらくフランスの田舎町。たった数行で読者をその異国に連れて行きます。 つつましい生活の中でデパートの屋上にある今は亡き象インディラへ思いを馳せる少年。大きくなりすぎたために一生屋上で過ごさねばならなかった象と、壁の間に挟まったままミイラになった少女(ミイラ)だけが少年の友だちでした。 そしてチェスとの出会い。チェスを教えてくれたのは廃棄バスに住んでお菓子をこよなく愛するマスターでした。甘い香りが漂う中で、マスターはチェスがいかに紳士的で奥が深くて美しいものかを語ります。 文章に浸るここちよさ。どんな世界でも極めることは美に繋がるということ。真の幸福とは何か。いろんなことが押し付けでなく、淡々と語られます。 小学校の高学年ぐらいなら読めます。まだ純真な心を失っていない若い人たちにたくさん読んでほしい作品です。もちろん、年をとった人ならその分人生について語れることでしょう。 小川さんは自分より年下だったんですね。もっと上だと思っていました。 自分が翻訳ものを苦手とするのは持って回った言い回しとか気取った言い草が鼻につくからですが、小川さんの文章はなんと美しく異国を表現してくれるのでしょう。もし小川さんが訳してくれたらもっと多くの海外作品にも目を通していただろうなと、読みながらそんなことを思い続けました。 ブランチのマッチョイでも言ってましたけど、これはすでに今年のベスト1でしょう。そして、ずっと文学史上に残る名作です。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2009年03月19日 19時55分19秒
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