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カテゴリ:読書記録
何もかも憂鬱な夜に ここのところ、これぞという本に巡り会わなかったのですが、これはいいです。 とはいっても、万人受けする小説ではありません。暗いし、重いし、救いらしきものがあまり見られないです。 でも、中村さんの冷めた文章がとても好きです。無駄がない。昔の大江の小説というより、やはりカフカとかの匂いに似ているかな。 拘置所で刑務官をしている僕は、施設で育った経歴をもっている。そこで出会った施設長を尊敬し、「あのひとのようになりたい」と思ってきた。一方で、女性の死体を抱くという不可解な夢に象徴されるような出生にまつわる不安をいつも抱いて生きてきた。 収容者たちと交わされる会話や同じ施設で育って自殺した男、真下とのこととか、唐突なようで僕の中で常にある葛藤が饒舌すぎない語りで表現されています。 ラストは明るすぎない光が差したと言えるのかな。 「あのひと」と呼ばれる施設長のことは『土の中の子ども』でもほんの少ししか語られていなくて、いつか真正面から描くときがくるのでしょうか。 僕は孤児でよかった。 あなたに会えた。 「この小説もまた、とても大切なものとなった」とあとがきで書かれています。 中村さんは小説では多くを語らないのに、インタビューとかこういうあとがきとかで書くのが好きですねえ。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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