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「養生訓」に見る気功導引術

1 「養生訓」とは

 養生訓(ようじょうくん)は現代でも読者の多い、健康生活のガイドブックです。
書かれたのは江戸時代前期で、福岡・黒田藩の学者、”貝原益軒(かいばらえっけん)”(1630~1714)が著わしました。

 貝原益軒は、昔としてはすごい長生き(享年85歳)、
多くの著作は、藩の任務を引退した晩年12年間になされました。
この養生訓も最晩年84歳に書かれたものです。
 それが、江戸期の健康・養生書のベストセラーになり、
その後の時代の健康法呼吸法で有名な禅僧”白隠”や、越後の”良寛”和尚にも影響を与えているようです。

 「養生訓」の内容は、禁欲節制主義だけで堅苦しいものと思われることでしょうが、
よく味わうように読み込んでいけば違うことがわかります。
根本的な考えは、人生を楽しむことであり、健康で内なる満足を得ること、
”清福”が養生生活の目的です。
 内容もウォーキング、食生活、心の持ち方、人生の楽しみ方、
呼吸法、導引術、 医者のかかり方の心得等々、多彩であり、
かつ実践するに難しいものでなく、 現代にも通じる健康生活ガイドブックになっています。

 このページでは、その中から「養生訓」に見る気功導引術として
益軒先生が実践し奨めた”中国導引術・健康法”に、 スポットを当てて見て行きたいと思います。

 ここに紹介した導引術は、私のヨガのベースとなった沖 正弘先生の沖ヨガでも
行なわれているものが多くあり、その出自としても注目しています。

 *導引とは、現代気功の原型となったもののひとつで、
 動く、擦る、揉むといったことで、
 体の代謝=気血の流れをよくする健康体操、按摩指圧法をいいます。
かいばら-えきけん カヒバラ- 【貝原益軒】
(1630-1714) 江戸前期の儒学者・本草家・教育思想家。
筑前生まれ。名は篤信。初め損軒と号した。
福岡藩儒。朱陸兼学から朱子学に帰し,
本草などにも目を向け,博物学的実証主義に立って窮理の道を重視。
著「大疑録」「大和本草」,医書の「養生訓」,子女の教育を説いた「和俗童子訓」など多数。

ようじょうくん ヤウジヤウ- 【養生訓】
教訓書。八巻。貝原益軒著。1713年成立。
健康維持について,
和漢の説を引用しつつ通俗的・具体的に説いた書。
益軒十訓の一。

どう-いん 【導引】
(1)みちびくこと。道案内。
(2)道教の修行・養生法の一。さまざまな身体の動きと呼吸法を組み合わせて行う。
健康法でもある。
(3)按摩(アンマ)。もみ療治。
以上、三省堂 「大辞林」より

2 養生の術の第一は心気を養うことである
 「養生の術は洗心気を養うべし。
心を和(やわらか)にし、気を平らかにし、
いかりと慾とをおさへ、うれひ、思いをすくなくし、
心をくるしめず、気をそこなはず、是心気を養ふ要道である。」
  養生訓 巻一 総論上 より
 (原文引用は岩波文庫「養生訓・和俗童子」石川謙 校訂より)

 意訳:養生術とは、意識して”心”を洗うように清らかに保ち、
気のエネルギーを良い状態に保ち、大切に育てることである。
 怒りや欲の感情を抑え、憂い、消極的思考や無駄な思いを少なくし、
心を苦しませたり、気力を損なわいようにする。 これが”心気を養う大事な道”である。

 養生とはなにかを、説明した名文です。 繰り返し原文で読み、
味わう価値のある文章だと思います。
 これにつづき具体的な心得が書いてあります。

 養生訓の内容のダイジェストといえる、そこの部分を箇条書きにします。
何々すべし。という”益軒・老先生”の言葉、
あなたの身を心配してくれる優しいご先祖さまの言葉として、心で読み聞いて下さい。

・眠りすぎはよくない、気が滞ってしまう。食後すぐに寝るのも良くない。
・酒は軽く酔う程度にたしなむこと。
・食事は満腹になるまで食べないこと。
・色欲(セックス)に溺れないこと。
・風・寒・暑・湿の外邪をおそれ防ぐこと。(生活環境の衛生。)
・起居。ふるまいを正し静かに行なうこと。
・食後には、導引術でお腹から腰まわりを撫でこすってから、 歩行で手足を動かすこと。
・一箇所に長く坐り、じっとしていないこと。(体をよく動かしなさい。)
・病気でないときに、生活習慣を省み、節制し気をつけること。

3 朝の行事と食後の養生法
 「凡(およそ)朝は早くおきて、手と顔を洗ひ、髪を結ひ、事をつとめ、
食後にはまづ腹を多くなで下ろし、食気をめぐらすべし。
又、京門のあたりを手の食指のかたはらにて、
すじかひにしばしばなづべし。
腰をもなで下ろして後、下にてしづかにうつべし。あらくすべからず。」
 養生訓 巻二 総論下 より

 意訳:朝は早起きして、手や顔を洗い、髪を整えるなどし、
朝食の後には最初、お腹を充分に撫でおろし、 食気=消化のエネルギーを活性化しなさい。

 その後、背中側肋骨の一番下の端(京門)を 人差し指の側面で斜めに撫で擦り、
腰も撫でおろし、腰の下のほうを優しく叩きなさい。

 *”京門”を左下腹部としている資料もありますが、
京門は東洋医学のツボでいうと、足少陰胆経に属するツボで、
背中側、第12肋骨の先に位置します。
腎の募穴。
主治は腰痛、下痢、肋間神経痛、下腹神経痛。

4 津液はのむべし

 「津液はのむべし吐くべからず」
   養生訓 巻二 総論下より

 意訳:唾液は飲み込むのが良い。吐き出してはいけない。

 津液(唾液)を湧かして飲むことは、導引術の健康法のひとつです。
*導引のメニュー八段錦・赤龍攪水を参考にしてください。

5 修養の五宜
 「孫真人が曰く『修養の五宜あり。
髪は多くけづるに宣し。
手は面にあるに宣し。
歯はしばしばたたくに宣し。
津は常にのむに宣し。
気は常に練るが宣し。
練るとは、さわがしからずしてしずかなる也』と。」
 養生訓 巻二 総論下 より

  意訳:中国の有名な名医、孫真人(孫・思ばく)が言う修養五つの良いことがある。
・髪は頻繁に梳かすのが良い。
・手で顔を擦るのが良い。
・歯を打ち鳴らすのが良い。叩歯(こうし)
・津(しん:唾液)は飲むのが良い。
・気は練るのが良い。
 練るというのは、心を興奮させないように静かにすることである。

6 寝る姿勢と衛生
 「夜ふして、いまだね入らざる間は、両足をのべてふすべし。
ねいらんとする前に、両足をかがめ、わきを下にして、そばだちすべし。
是を獅子眠と云。一夜に五度いねかへるべし。
胸腹のうちに気滞らば、足をのべ、
むね腹を、手を以てしきりになで下ろし、
気上る人は、足の大指をしきりに多く動かすべし。」  養生訓 巻五 五官 より

意訳:夜、布団に入り、寝込む前は両足を伸ばしなさい。
睡眠に入る前には、両足を曲げ、体の脇を下にして横向きになる。
これを獅子の眠りといい。一夜に五回寝返るのがよい。

 胸や腹部に気があつまり流れがよくないときは、 胸、腹を手で充分に撫で下ろす。

 気が上がる、のぼせる人は、足の親指(第一趾)を数多く動かしなさい。


7 寝る前に体の各所を按摩してもらうこと
「凡そ一日に一度、わが首(こうべ)より足に至るまで、
惣身のこらず、殊につがいの節のある所、ことごとく、
人になでさすり、おさしむる事、各所十遍ならしむべし。
先ず百会の穴、次に頭の四方のめぐり、
次に両眉の外、、次に眉じり、
又鼻ばしらのわき、耳のうち、耳のうしろ、を皆おすべし。
次に風池、次に項の左右をもむ。
左には右手、右には左手を用ゆ。
次に両の肩、次に臂骨のつがひ、
次に腕、次に手の十脂をひねらしむ。
次に背をおさへ、うちうごかすべし。
次に腰及腎堂をなでする。
次にむね、両乳、次に腹を多くなづる。
次に両股、次に両膝、次に脛の裏表、次に踵、
足の甲、次に足の十指、次に足の心(うら)、
皆、両手にてなでひねらしむ。
是寿養叢書の説也。
我手にてみずからするもよし。」 養生訓 巻五 五官 より

 意訳:一日に一度、頭から足まで、特に関節(蝶番:ちょうつがい)付近の全身くまなく、
人にそれぞれの個所を10回マッサージ・指圧の導引をしてもらいなさい。
・頭頂部(百会)のツボ、頭の四方の周り。
・両眉の外周、眉じり。
・鼻柱の側面、耳の内側、裏側。
・風池のツボ、項(うなじ)の左右を
それぞれ右には左手、左には右手で揉む。
・両肩、肘関節、腕全体、手の指は捻ったりしてもらう。
・背中を抑えてゆする。(うつ伏せの金魚運動のような事か。)
・腰と腎臓の裏を撫でる。
・胸全体、乳のあたり、腹部全体を数多く撫でる。
・太もも、膝、下腿部、踵・足首、足の甲、足の指、足裏。を
・両手で撫でたり捻ったしてもらう。
・これは”寿養叢書”にある説である。
・自分の手で行なうのもよい。


8 足の指をさすり動かす
「五更におきて坐し、一手にて、足の五指を握り、
一手にて足の心(うら)をなでさすること、久しくすべし。
如此(このごとく)して足心熱せば、
両手を用ひて、両足の指をうごかすべし。
・・中略・・
如此(このごとく)する事久しければ、足の病なし。
上気を下し、足よはく、立ちがたきを治す。
久しくおこたれざれば、
脚のよはきをつよくし、足の立ちかぬるをよくいやす。
甚(はなはだ)しるしある事を古人いへり。
養老寿親書。及東坡が説にも見えたり。」 養生訓 巻五 五官 より

 意訳:朝4時に起きて坐り、片手で足の五本の指を握り、
もう片手で足裏をなで擦ることを充分しなさい。(足裏マッサージ。)
足裏が暖かくなってきたら、
こんどは両手で足指を(曲げたり、そらしたり、捻じったり、開閉したり)動かしなさい。
(中略)
 これは足の病を無くす。 気が上がっているのを下ろし脚を強くし、立ちづらいのを治す。
 長く続ければ、とても効果があることと昔の人も言っている。
「養老寿親書」や東坡(中国,北宋の文人)も述べている。



9 心は静かに、体は動かし
 「入門に曰く。導引の法は、保養中の一事也。
人の心は,つねに静かなるべし。
身はつねに動かすべし。
終日(ひねもす)安坐すれば,病生じやすし。
久しく立ち、久しく行(いく)より、
久しく臥し、久しく坐すは、尤も人に害あり。」 養生訓 巻五 五官 より

 入門で言っているように、導引術は、保養の一方法である。
心はいつも静かに過ごしなさい。体はいつも動かしなさい。
一日中動かないで、坐っていれば病気になりやすい。
いつも立ち、歩いている事より、 いつも寝転がって、
いつも坐っている事が、一番人には害がある。


10 導引の法を毎日行なえば
 「導引の法を毎日行へば、気を巡らし、
食を消して、積聚(せきじゅう)を生ぜず。」
 養生訓 巻五 五官 より

 導引気功を毎日行なえば、気のエネルギーが全身に巡り、
消化もよくなり、 悪いものが滞ったり溜まったりしない。

 以下具体的な導引法を述べているので、 それを列挙します。

・朝、目を覚ましたら、起き上がる前に両足を伸ばし(背伸び)、
濁気・体の中の悪い気を吐き出す。
・その後起きあがり坐り、両手を組んで腕を前方に伸ばし、上を向く。
・歯を打ち合わせる(叩歯)
・項(後ろ首筋)を左右の手で交互に揉む。
・両肩を上げ、目を閉じ、力を抜いてストーンと肩を下ろす。
・顔を両手で撫で下ろす。
・目を目がしらから、目じりに向かって撫でる。
・鼻を中指で挟むように撫でる。
・耳を手の指で挟み、撫で下ろす。
・耳の中に中指を入れ、動かして耳の中を刺激する。
・そのまま耳の穴をしばらく塞いでから、指を抜く。
・両手を組み、腕を伸ばし左右に振るように上体を捻じる。
・左に捻じるときは顔を右を向き、右に捻じるときは顔は左を向く。
・両手の甲で、背中の肋骨の最下部のあたり(京門)を
斜めに撫で下ろす。
・両手のひらで、上下に往復しながら腰を押し、軽く叩いて刺激する。
・脚部を太ももから膝へと撫で下ろす。
・片膝を立て両手を組んで、膝下・三里のツボのあたりを抱える。
・そこから脚は伸ばそうとし、手は逆に体へ引きつけようとする。左右数回。
・下腿部、ふくらはぎの表、後ろを両手で撫で下ろす。
・足指と手の指を足の甲側から組む。右足は右手、左足は左手で。
・空いた手で足裏・湧泉のツボあたりを撫でる。
・足の指を引っ張ったり、捻じったりして刺激する。

日本の健康書の古典にして
ベストセラー、貝原益軒の「養生訓」から、導引気功のところを抜き出してみました。
そこには難しい神秘的な気功ではなく、
気血の巡りを良くする、気のマッサージが書かれています。
朝起きたら顔を洗う、トイレに行く、歯を磨く、そんな日常の習慣のなかに
貝原益軒の紹介した”導引気功”、取り入れてみてはいかがでしょうか。


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