ふたり夜、と言うにはまだ早いが昼と言い切ってしまうのにも抵抗があるそんな曖昧な時間帯。 12月の半ば、季節はもう冬だ。 日の落ちるのもあっと言う間。 その上、今日の天気はどんよりとした雲が漂う曇天模様。 自室の窓から見える外の風景もどこか薄ぼんやりと灰色に見える。 夕食まではまだ時間がある。 何もしないにしては長すぎ、何かをするにしては短すぎる。 正直、微妙な時間。 さて、どうしようか。 考えてみるものの何も浮かばない。 「しかたがない、中庭でもプラプラ散歩するか」 夕食前の軽い散歩。 うん。 こうして考えてみれば中々悪くはないプランのように思えた。 ・・それはそんなある日の一幕。 月姫 Side Story 『ふたり』 遠野家の中庭はこれで中々、綺麗だったりする。 中央に置かれたこじゃれた机に椅子。 花壇には名前も知らないような花が植えられており…といっても季節柄あまり目立つ色の花は咲いてないが…中々に目を楽しませてくれる。 何をする訳でもなく、ただボンヤリと椅子に座って中庭をあらためて眺めてみる。 十二月。 クリスマスもすぐそこだと言うのに今年の冬は何故か暖かい。 「今年の冬は暖かいな」 「そうですね」 独り言のつもりだったのに返事を返されて戸惑う。 「秋葉?」 「こんな所でぼんやりしてると幾ら暖かいとは言っても風邪をひきますよ、兄さん?」 そう言い秋葉はクスリと笑い俺の隣の椅子に腰掛けた。 秋葉の浮かべる表情は存外に柔らかく険がない。 ・・と言うか、この妹がいつも怒っているようなイメージがあるのは俺の素行のせいだな。 『大体、兄さんは!』 こんな出だしから始まるお小言をこの屋敷に帰ってきてからもう何度、聞いただろうか。 はは、と声に出して苦笑。 「何か面白い事でも?」 「いや、別に何も」 間違ってもお小言モードの秋葉の事を思い出して苦笑したなどとは言えない。 それを口切にまたお小言モードになるのは火を見るより明らかだ。 「・・・さては兄さん、何か失礼な事を考えてましたね?」 「いやぁ、別に~。ただ秋葉にはいつも世話になってるなぁってね」 「怪しいものです。何ならシオンに習ったこのエーテライトで・・・」 シオンのように糸を構えるしぐさで秋葉。 「わわ!やめろって!習ったって言ってもまだ未完成なんだろ?!」 そんなエーテライト喰らったら廃人になりかねない! 「ふふ、なら以降、私にエーテライトを使わせるような気を起こさせない事ですね」 そういって嫣然と笑う。 「具体的にはどーすればいいんでしょうか」 「朝は早く起きて、夜もこっそり出歩かない」 「・・・きっついなぁ」 「あら、他にもまだまだ。遠野家の長子としての自覚を持って遠野家の名に恥じない人間になって貰わないと私が困るんですから」 胸を張りつつ何故か偉そうに言う。 「困るって、何でだ?」 「それは勿論、私と兄さんが結・・・・・って、何を言わせるんですか、兄さんっ!!」 ガタッ!と席を立ちいきなり怒り出す秋葉。 何故か顔が真っ赤だ。 「言わせるも何も秋葉が勝ってに・・」 「大体兄さんはデリカシーが足りないのです!」 「いや、だからそもそも.・・・・」 「返事は?!」 「・・・・・・はい」 俺の返事に、よろしい、と秋葉。 うー、何だか最近、秋葉に凄まれると思わず、はいって返事をしてしまう自分がいるぞ・・ ゆ、由々しき事態だ。 あー何か今、一瞬、俺の未来像が見えたような気が・・ 秋葉の理不尽なお小言にはいはいと返事をする俺。 横では琥珀さんがまた始まりましたよ~とニコニコしながら俺たちを見てて、翡翠はおろおろと俺と秋葉の間を右往左往。 そんな情けなくも愉快で、そして明るいささやかな未来。 「もうすぐ今年も終わるな」 「・・・今年は大変でした」 しみじみという俺に笑いながら秋葉が答える。 アルクエイドをめぐる吸血鬼事件やら、「シキ」のことやら、ほかにも色々。 もう大変という一言ではとても片付けられないような出来事のオンパレード。 アルクエイドやシエル先輩、レンにシオン、秋葉に翡翠に琥珀。 何せこれだけのメンバーだ。 冷静になって考えてみれば当然の事のような気もしないでもない。 あぁ、平穏はどこへやら・・ 「あ、また失礼な事を考えてましたね?」 そう言ってまた糸を操るしぐさ。 ・・・とうざの目的はこの妹から危険な玩具を取り上げることだな。 にゃぁ・・ 「あら、猫・・」 どこからか入り込んできたのか子猫が一匹。 雪のように真っ白な毛並みの猫。 猫はキョロキョロと辺りを見回し、 「にゃぁ」 不安そうにか細く鳴く。 「迷い猫でしょうか・・」 首輪はない。 という事は野良猫だと思うのだが。 「そういや琥珀さんが、よく近所の猫たちが中庭にどこからか忍び込んで遊びにくるとか言ってたけど」 「なんだか他の猫たちとはぐれて迷子になったみたいに見えますね」 にゃぁ・・ 不安そうにこちらの様子ををうかがってくる。 「何にもしやしないよ」 通じるわけもないのだが一応、言ってみる。 「・・けど、どうしよう?」 「どうしようも何も・・・・どうしましょう?」 ニャァ! と、どこからか他の猫の声がする。 それに答えるように子猫。 にゃぁ!と強く鳴き始める。 「あ、あそこ」 秋葉が指差したほうを見ればそこには灰色の猫が。 灰色の猫は白い子猫を見つけるとひょい、と首根っこを咥えてどこかへと去っていく。 白猫はその扱いが不満なのか、しかし抵抗することもなくにゃぁと鳴く。 「親猫・・か?」 「と言うよりも何だか兄猫と言う感じが・・」 「はは、そりゃ言えてる。確かに兄が遊んでいる最中に迷子になった妹を捜しに来たって感じだったな」 しばらく猫が去っていった方をぼうっと眺めてみる。 妹猫と兄猫、か・・ 実際のところは兄妹猫なのかどうかも定かでもないのだが。 それを敢えて兄妹猫と言った秋葉が何だか微笑ましい。 「ところで兄さん」 コホン、と咳払いをして秋葉。 「なんだ?」 「その・・・」 もう一つ、コホン。 「ずっと一緒にいてくださいね」 「な・・・」 そう言った秋葉はさっきの子猫のように不安げで、真剣な顔で一生懸命で。 それがあまりにも可愛くて。 不意打ちだ。 全くの不意打ち。 顔の温度が急上昇していくのが分る。 「い、いきなり何いってるんだよ秋葉」 「あ?、えその・・・あれ?私、何で・・・」 自分でも何でそんな言葉が出たのか分らない。 そんな所だろうか。 でも何となく解かる。 秋葉がいつも無意識のうちに胸に抱えていた不安。 『一緒にいてください』 それはあまりに真摯な願い。 飾り立てのないそのままの思い。 「馬鹿だなぁ秋葉は」 「ば、馬鹿って・・・!」 一緒にいて下さいもなにも、そんなの一々いわなくたって。 ほんのさっき浮かんだ、未来図をもう一度、思い浮かべる。 秋葉の理不尽なお小言にはいはいと返事をする俺。 横では琥珀さんがまた始まりましたよ~とニコニコしながら俺たちを見てて、翡翠はおろおろと俺と秋葉の間を右往左往。 「ちゃんといるから、さ」 お前も、俺も、琥珀さんも翡翠も。 「・・・はい」 力強くうなずいた秋葉にそんな思いが通じたかどうかはわからないけど。 「ずっと一緒です」 それはこれから、ずっと二人で皆で叶えていく願い。 『志貴さ~~~ん!秋葉様~~~~!どこですか~~~~~!お夕食の時間ですよ~~!』 と、屋敷の方から琥珀さんの呼ぶ声が聞こえる。 『早くしないと冷めちゃいますよ~~~!冷めちゃうとおいしくないですよ~~~~!!』 「行こう秋葉」 立ち上がって、ほら、と秋葉の手を引く 「はい、兄さん」 昔のように二人で手を繋いで。 たまにはそんなのも悪くない。 END あとがきみたいな 食べごろわんこさんの10000ヒット記念に寄贈したSSです~。 キーワードは 好きなキャラ 中庭 猫 イチャイチャ うー、イチャイチャが辛かったなぁ いいもんね。 ラブなんて書けねぇ しょうがないのでBBSにでも感想を書いてやる 小説ルームへ戻る TOPへ戻る |