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ベルギー(四歳)の雑記部屋

ベルギー(四歳)の雑記部屋

速水厚志…或いは、ぽややん少年の一日



ガンパレSS 速見厚志…あるいは、ぽややん少年の一日



名も知らぬ花の匂い。

それを多分に含んだ暖かな春のそよ風がどこからか入り込み彼の頬を優しく凪

いだ。







―――――ちゅぴ、ちゅぴちゅぴちゅぴ








僅かに開いてあった窓から微かに聞こえてくるのは鳥の声…


朝。


速水厚志がその日一番に耳にしたのはそんな、のどかな音であった。










むくり。

ベッドのもこもこが起き上がる。


「…ふぁぁ、よく寝た…」


こみ上げてきたあくびに口に手を当てうーんと背伸び。

じんわりと目の端ににじむ涙を手の甲でぬぐう。

時間を見るとちょうど六時。

速水は朝起きるのにわざわざ目覚まし時計などを使わない。

使わなくとも十分起きることが出来るし…

何よりあのジリリリリリ!!と言う無粋なベルの音がせっかくの朝を台無しに

してしまう様であまり好きではなかった。


「さて、今日も一日がんばりますか…」


手早く、寝巻きから制服に着替え学校に行く準備を始める。

弁当のサンドイッチは昨夜すでに下ごしらえを終えているので後は具をパンで

はさむだけとなっている。

勿論、教科書、体操服。

その他今日使う細々とした物も既に昨日のうちから準備してある。

後はかばんにそれらを放り込むだけだ。


それから昨日の残り物でてきぱきと朝食を作り、ゆっくりとそれを味わう。


ちゃんと食べとかないと一日もたないからなぁ・・滝川とか舞なんかはちゃんと朝ごはん作って食べれてるのかな?


そんな事を考えながら。







「おーっす!速水!!」



底抜けに明るい声。

学校に行くまでの道すがら。

後ろから駆け足の音と共に聞こえてきたのはクラスメイトの滝川の声であった


「おはよう。滝川」


その満面の笑顔にぺこりと頭を軽く下げ速見。

走ってきた為息の弾んでいる滝川のために若干、歩くペースを落としてやる。



「昨日さ、テレビでよぉ…」


「うん、うん」


滝川は実に楽しそうに昨日家で見たテレビの事を話す。

朝のゆったりとしたこの時間。

友人と語らいながら学校へと向かその学校が、学兵を養成すべく作られた物で

あるという事を除けば、平和なそして当たり前な風景。


(…ずっと、こんな時間が続けばいいのに)


矛盾する考えではあるが、そうすれば幻獣とも戦わずにすむ。

仲間も傷つかないし、幻獣も死なない。

出来ればそれが一番いいのだ。

速水はそう思う。

速水はそう思っている。







学校が目の前に見えてきた。

まるで生徒達を飲み込むかのようにそびえたつ、新校舎とプレハブ校舎。

そのうちの後者…すなわち突貫工事で後付されたプレハブ校舎が速水たちを初

めとする学兵の校舎である。


「おはようございます。」


ふと後ろから声をかけられる。

凛とした、はきはきとした声。

振り返った先には、白袴の少女が笑みを浮かべて立っていた。


「おはよう、壬生屋さん」


「おぅっす!壬生屋」


壬生屋は二人の挨拶を受けて軽く会釈する。

壬生屋未央。

長い黒髪に、洗練された立ち振る舞い。

彼女を見るたびに、速見は思い出す。

今はもうとっくに全滅したとされている希少概念の名前を。

希少概念…『大和撫子』

彼女はまさにそれを体現した女性であった。


「今日はとても気持ちのいい朝ですね…」


言って、本当に気持ちよさそうに、ふふふと口に手を当て微笑む。


「そうだね」


「・・・そうか?俺はいつもとかわんねーと思うけど…?」


「だから、いいんじゃないか」


「だから、いいんですよ」


図らずも言葉が重なった。


「???・・・おれにゃ、わかんねーや」


首をかしげ滝川。

そんなクラスメイトを見て速水と壬生屋は顔を見合わせて笑う。

彼は往々にしてそんなキャラクターだ。


「いつまでもこんな朝が続けばよいのですが…」


「そうだね」


一言に万感の思いを込め速水は呟く。


「きっと、続くさ」


その顔には笑みを浮かべて。

ただ、今は嬉しかった。

自分と同じ事を思い、自分と同じ思いを共有できる人間が居る事が。


「ええ。そうですね」


壬生屋はそう言うともう一度、ふふふと笑った。









授業中。

ふと、窓の外を除いたら、どうやら散歩中であったらしいプータと目が合った。

教室の窓から見えるのはグラウンド。

どこに行くつもりなのかプータはグラウンドを横切ろうとしていた。

その最中にたまたま、目が合ったのである。

お互いにかなり距離を置いたところから見つめあう。
やがて、プータがペコリ。

なぜか頭を下げた。

何となく、こっちも頭を下げてみる。


『ナウ』


とでも鳴いたのだろうか。

そんな風に口が動き、プータはそのまま散歩を再開した。


「コラァ!!速水!よそ見すんな!!」

「す、すみません!」


いつの間にか黒板が白いチョークの文字で埋め尽くされていた。

まだ、それを一行も書き写していない事に気づき慌てノートをとり始める。

少しだけ授業のないプータがうらやましかった。











「…速水君。あなたは平和とは、一体どういった状態の事だと思いますか?」


唐突にそんなことを聞いてきたのはこの5121小隊の指令でもあり、唯一の中央

から派遣された『官僚』クラスの予備仕官でもある善行忠孝だった。


「え?」


あまりの唐突さに速見はつい素っ頓狂な声を出してしまう。

放課後。

一人、自らの乗り込む士魂号複座型…三号機の整備をしていたら突然。

どこからともなく現れてこの質問である。

戸惑うなと言うほうが無理であろう。


「へ、平和…ですか」

「そうです」


未だに戸惑いが残る速水の問いに、だが善行は淡々と答えた。

僅かに冷たさを感じさせる銀縁メガネに映るのはだが、どこか生徒を見守る教

師のような暖かい眼差し。



速水は数秒ほど考え…



「…そうですね。平和…みんなが幸せである事かな…ってそれじゃあ何か漠然

としすぎてますよね」


笑って答えた。


「…なるほど皆が幸せ、ね。実に君らしい答えで安心しましたよ」


と善行。

そう言って何を思い出したのか苦笑する。


「?」


「いや、失礼。ちょっと、昔の事を思い出しましてね」


昔の事…気になったが速水は敢て尋ねない。

昔の事、そう呟いた時の善行の顔がどこか寂しそうだったから。


「私はこう考えています。平和とは我々のような存在が存在しない事だと」


言って自嘲気未に笑みを作ってみせる。



「実に矛盾しているでしょう。平和を維持するため…あるいは平和を取り戻す

ために居る私達。だがその私達こそ『平和』から世界を遠ざけている一番の原

因なのです」



そこで一つ大仰にため息をつく。



「東原さんに聞かれましたよ…『何で、私達は戦うの?』私はそれに何のため

らいもなく答えました。世界を平和にするためだ、とね…すると彼女は酷く悲

しそうな顔をして言いました。『世界を平和にするために皆が殺しあうの?』

…全くです。ですが私は軍人です。その問いを認めた瞬間から私のような人間

の存在理由は消し飛んでしまう。だから私はその問いかけを拒絶しました。

…そしたら東原さん、泣き出してしまいましてね」



「指令のおっしゃっている事は難しくて自分には…僕には半分も解りません

が…指令。あなたは、ののみちゃんが泣いた時、どうしましたか?」



「…勿論、泣き止むまで、なだめすかしましたよ。手を変え品を変え…結局、

機嫌を直してくれるのに二時間程かかりましたが…」



その時の苦労を思い出したのか苦々しく…だが、どこか照れたように笑う。


「…大事なのはそれだと思います。一人でも多くの子供が泣かずにすませる、

泣いた子供を泣き止ませる。それが僕たちの5251小隊の存在理由です」


「シンプル…実にシンプルですね、あなたの思考法は…」


「いいじゃないですか、シンプルで」


速水はあっけらかんと言う。


「泣いた子供を泣き止ませる…ですか。そうですね。確かに悪くない」


頷き、速水は壬生屋のようににっこりと微笑んだ。


「何だか、色々と愚痴を言ってしまいましたね…」


「いいえ、僕でよろしければいつでも愚痴の聞き役になりますよ」



…ありがとう。



善行は礼を言うと来たとき同様、唐突に去って言った。











「そなたの平和についての講釈、悪くなかった」


夜だ。

古びた蛍光灯がカチカチと音を立てついては消えついては消えを繰り返してい

た。

暗い夜の公園のベンチ。

速水は一人そこに座っていた。

そして、ふと声のしたほうを見れば、いつから居たのか…そこには同じ士魂号

に乗り込むパートナーの少女、芝村舞が座っていた。

こちらを見るわけでもなく、ただ憮然といつものように不機嫌そうに…

速水はただ黙って、舞の声を聞いている。


「一人でも多くの子供が泣かずにすむように、一人でも多くの子供が泣き止む

ように…私もそれに賛成だ。泣くのはつらい。泣いていると時々わからなくな

る。つらいから泣くのか、それとも泣くからつらいのか…」


「…君でも泣く事があるんだ」


失礼な質問である。


この速水の失礼な質問にだが舞は笑って答えた。


「芝村とて涙はある。涙は泣くためにあるのだ。人は人である限り、涙がある

限りなく必要がるのだ。泣く必要があるから、涙がある。どうだ実に論理的で

あろう?」


いつになく饒舌に舞。

どことなく誇らしげに語る。

速水はただそれを黙って聞いていた。











夜の公園の、今にも消えそうな蛍光灯は、まだもう少し、まだ当分は消えそう

にない。



カチカチ…カチ…



消えては付き消えては付を繰り返しながら…








END






しょうがないのでBBSにでも感想を書いてやる


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