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デッスンの個人日記

デッスンの個人日記

闇が住む地の底

闇が住む地の底
 グルーディンとウィンダウッドの中間地点には、とある洞窟がある。
 人はその洞窟を、メインランドケイブと呼ぶ。
 中に灯は無く、ケルベロスやキングバグベアーなど強力なモンスターが潜み、闇が支配する暗き洞窟。
 そんな中を一筋の光が動いている。
 全身を白い鎧に身を包んだナイトだ。
 右手には少し長めのブレードを持ち、左手にはランタンがぶら下っている。
(ここはどこだ……)
 ナイトは当ても無く歩き続ける。
 あいにく手元には洞窟の地図も無ければ、テレポートスクロール類が一つもない。
 その為、当ても無く歩き回るしかなかった。人に会う事が出来れば、出口まで案内してもらうか、帰還スクロールを分けてもらえばいい。
 しかし、出会うのはモンスターばかりで、人っ子一人出会うことが無い。
 手探りで進んでいく。
 ナイトは闇を恐れなかったが、一つだけ恐怖感がある。
(私は誰なのだ……)
 ナイトには記憶が無かった。
 恐らく、モンスターとの戦いで頭に強い衝撃を受けたようだ。
 運が良かったのは、この右手に持つブレードと全身を包む鎧があることだ。これがあるからここまで生きてこれたのだ。
 ナイトはモンスターの気配を探りながらゆっくりと進んでいく。
(こんなに歩いているのに誰も会わないな)
 人気の無い狩場なのか、モンスターが強すぎて1人で来れないのか。しかし、ナイトは1人で簡単に歩き回っている。その為、恐らく前者の理由だろう。
(それにしても、なぜ私はこんな所に来たのだろうか)
 力試しに来たにしても、モンスターどもはそれほど強敵とは思えない。どうせ暇つぶしか何かだろう。そう思うことしか出来なかった。
 ナイトは迷わぬように、壁伝いで進んでいく。
 この手の洞窟は壁添えに進めば、時間が掛かるが、下手に迷う事は無い。念のために壁に印しを付けながら進み、角を曲がると壁に覆われた。
(行き止まりか……)
 仕方なく、ナイトは振り返り来た道を戻ることにした。左手に持つランタンで照らしながら進んでいく。
 聞こえるのは、己の鎧が揺れ擦れる音のみ。
(やけに静かだな)
 そう思った瞬間、
「みんな~。どこだよ~」
 弱々しいが、確かに人の声が聞こえた。
(助かった。これで帰れる)
 ナイトは走った。
 声の主は助けを求めているみたいだが、俺がいればモンスターなど簡単に倒せる。そうすれば声の主の仲間と合流すれば、きっと帰れる。
 ナイトの心は喜びに満ち溢れ、走った。だが、
「で、デスナイト! く、来るな!」
 ナイトの姿を見た若者は、まるでモンスターと出会ったように脅えている。
(何を脅えている? 私はお前を助けに来たのだぞ)
 と、言ったつもりが、声が出ない。代わりに出た声は、ガチガチという変な音だった。
(なぜ声が出ない)
 自分は記憶喪失だという実感はあったが、記憶喪失で喋り方を忘れてしまうはずが無い。
 喉の部分に手を当てると、固いものに触れた。
 一瞬鎧の部分かと思ったが、そうではなかった。
 触れたものはデコボコでいびつな形をしている。
 ナイトは恐る恐る視界を下ろしていくと、篭手の間から見えるものは、己の血肉ではなく真っ白な物。
 骨だ。
 肌色の肉でもなく、血の赤でもない。白き骨だ。
(なぜだ!)
 全身のどこを見ても、見えるのは白き骨。
 ナイトは驚愕し、目の前の若者に迫った。
(なぜ私は骨なのだ!?)
 若者に問いても解る筈が無かった。それでも訊かずに入られなかった。
 しかし、若者にとってその行動は威嚇にしか見えなかったらしく、余計に怯えるばかりである。全身を振るわせ、目には涙を浮かべ恐怖を示している。
 そのとき、ナイトの心に何かが起きた。
(何だ、その目は……)
 気が動転していたのかどうなのかは解らない。だが、今のナイトの心に過ったのは、疑問でも悲しみでもない。
 憎悪だ。
 若者は恐怖に満ちた目で怯えながら後退りして行く。
 ナイトの心の憎悪は膨れ上がり、
(そんな目で……)
 ナイトの右手に力がこもっていく。
 若者は顎を振るわせ、後退りして行くが、何かに躓いたらしく尻餅をついた。
 すぐに立ち上がろうとするが、恐怖の余り立ち上がる事ができない。次にとった行動は、バッグの中から何かを取り出そうとしているが、手が震えて掴めないでいる。
(そんな目で、私を見るな!!)
 ナイトの憎悪が爆発した。
 ナイトはブレードで憎いその目に向け、突き刺した。
 若者の断末魔が響き、壁を赤く染め上げる。
 ナイトはブレードを引き抜くと、若者の身体は地に伏せ辺りには血の匂いが漂う。
(そんな目で、私を見るほうが悪いんだ……)
 ナイトには罪悪感など微塵も感じられなかった。代わりにあるといえば、自分に対する疑問。
(それにしても、何故私は骨になっているのだ)
 思い出そうと考えていると、
「ヘルス、大丈夫か!?」
 背後から男の声が聞こえた。
 ナイトが振り返ると、そこには三人の若者の姿が合った。
 戦闘に立つのは頑丈そうな鎧に身を包んだ男性ナイト。その後ろには大きな弓を持った女性エルフ、黒い魔女衣装に包まれた女性ウィザードだ。
 しかし、三人の表情は若者の遺体を見て、驚愕の表情を浮かべているが、すぐに苦悶の表情へと変えると、
「貴様……、よくも!!」
 若者が剣を振り上げ斬りかかる。
 ナイトはあまりの突然のことに防御もままならず、斬られ吹き飛び、壁に激突した。
 衝撃がすさまじく、激突した壁には小さなクレーターが出来上がる。
 だが、ナイトにはダメージは感じられなかった。固く頑丈な鎧のおかげである。代わりに若者の剣が破損した。
「ぐ……、頑丈な野郎だ。だが、ヘルスの仇だ!!」
 若者は持っている剣を取り替えると、再び襲いかかってきた。
 だが、ナイトも受身ばかりではなかった。敏感な動きでブレードを盾にして、若者の一撃を防ぐ。
 静かな洞窟に甲高い音が響き、こだまする。
(私を殺そうと言うのか……)
 ナイトの心に再び憎悪が溢れる。
(ならば、私もお前たちを殺そう!!)


 それから時間にして五分とかからなかっただろう。再び、暗き洞窟には沈黙が支配している。
 若者が持っていたランタンが辺りを照らすが、明りが届く部分は全て血の赤に染まっている。その中心に立つのは白き鎧から赤の鎧に代わったナイトだけである。
 ナイトは遺体からブレードを引き抜くと、再び歩き出した。
 もはや、ナイトの心には帰るという気持ちは無かった。剣を動かせば、恐怖を与える。そのことが心を動かした。
 なぜ、そんなことで快楽が得るのかは解らない。だけど、ナイトはそれを求めるように洞窟を歩き始めた。
 もはや記憶など、どうでも良かった。
 今はただ目の前の快楽を得ようと洞窟をさ迷う。
 まるで、亡霊のように……。
 そんな時、背後に気配を感じた。
 振り返ると、大きなローブで身を包んだ者が立っている。
 風も無いのに、ローブの裾を揺らし、
「かつての英雄も、地に落ちたものだな」
 彼は静かに言った。耳を傾けていなければ、聞き逃してしまうほどに小さな声だった。
 しかし、ナイトはそれを気にした様子もなく、
(お前も、私に快楽を与えよ)
 ナイトはローブの者に斬りかかったが、ローブの者は少し喋っただけで何もしてこない。
 ローブの者の心臓めがけてブレードを突き立てようとした瞬間、男の声が聞こえた。
「眠るが良い、永久に……」
 その言葉を聞くと、ナイトは動く事が出来なくなった。
 指の先から崩れていく感覚。心から崩れていく感覚。
 崩れていく意識の中で、ナイトは思った。
(私は……、誰だ……)
 ナイトは音も無く崩れた。
 そして、再び洞窟には静けさが戻った。


〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓あとがき〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓
前に書いたデスナイトを清書してみました
ストーリーなど構成はまったく変わっていませんが
ただ単に気分で清書してみたものです

実は、リネージュ外伝も清書していますw


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