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カテゴリ:「ジャーナリズム関連(既存・市民)」
自由に言論できる場をつくれば、議論がおこり、その過程で感情の爆発や摩擦が起こるのは必至だと思う。だが、そのような場であっても共存共栄を模索し、それぞれの言論者にとって有効なメディアをつくることを目標に、メディアを運営する人たちは努力しなければならないだろう。 そう考えている私が重要なリファレンスとして考えているのが武士道であり、剣術であり、禅であり、仏教である。勿論、それらの底に、日本古来の修験道的な神道の考えがある。 オーマイジャパンのために来日されている方々が私の文章を読めるのかどうかは分からないが、ぜひとも参考にしていただきたい。勿論それは、私の意見に対してではなく、現代の武術家・甲野善紀氏の著作であり、武士道、剣術、禅、修験、神道などについてである。 ☆ 甲野善紀氏の「剣の精神誌」(1991・ノマド叢書)を読んだ。この本は、元禄期の江戸で一万人の弟子を持ち、千回の他流試合で無敗を誇った無住心剣術の真里谷円四郎を中心に書かれている。 江戸初中期の剣術の精神がいまの日本人に縁遠いかと思うかもしれぬが、「無念・無想」などという言葉は時代劇を通じてなんとなく知っているかもしれない。オリンピックの選手などが、「敵に勝つまえに、まず自分に勝たなければだめだ」などと自分に発破をかけているのも、円四郎の精神が私たち日本人のDNAとして受け継がれているのかもしれない。その思想は、己を知り、敵を知れば百戦百勝といった宮本武蔵とは明らかに異なる。 円四郎の言葉に次のようなものがある。
これは剣について書かれたものだが、これを議論におきかえてみれば、オーマイニュースがいましていることの浅薄さに気がつくことができないだろうか。 無住心剣術は、「とかく世間一般人は己に利あることばかりして、その利得のためには人の道に外れたことを平気でするものだ」、「自分にとって得することは皆取り込み、悪いことはみな他人の身にかかるように願う」と、他流を批判している。現代の武術家である甲野氏は、無住心剣術とは、切り返す、外す、かわす、いなす、誘い出す、混乱させる等の一切を行わぬ剣術であると説明している。 これを議論に置き換えてみれば、「言論することとは、論敵を打ち負かすことを目標とせず、自分の思うこと納得がいくまで考え抜くことが勘所である。それをとことんつきつめて行けばよい」ということになるだろう。 無住心剣術では、「争う気持ちを持った方が自滅する」と断じるが、ネット上の議論を幾度となく繰り返してきた私としては、大いに納得する。 兵法の第一は闘わすして勝つことであり、無住心剣術の極意も「戦う」という異常事態を自然の状態に戻すことだから、ネット上の議論で私が勝利したというなどないし、相手が負けたということでもない。 5月に相対した小説家氏も、私に負けたと思っていないだろうし、私も勝ったと思ってはならぬ。 ネットは無限の空間なのだから、そういうものだし、それでいいのだと思う。 ☆ 「勝つと思うな、思えば負けよ」という美空ひばりが歌った「柔」がある。この歌詞を生み、この歌詞を愛でる日本人を利己的で好戦的な民族だと断じる人たちがいることを残念だと思う。そのようなことが間違いであることを、日本人は世界の人たちに対して説明しつづけなければならないと思っている。
上記は、柔がテーマ曲となったドラマの原作・小説「姿三四郎」にも引用されている、剣術の教科書的な講話である。 全世界は自分であり、自分は世界であるというのは、世界を君臨するということではなく、自分。つまり、自然の分身としての己を自覚することを言うのだろう。 ☆ 甲野善紀氏は、日本に武家政治が700年続いたことを次のように分析する。 武士は、究極の利己の営みである命のやりとりを越えて到達する「究極の無私の境地」を獲得している。そのような境地に達したものが庶民たちの尊敬の対象にならぬわけがない。日本の武家社会は現代史で見られるような軍事政権とはまったく異なるのである。 殺傷は勝利者に引け目や怯みの心を生む。世界の英雄たちは、それらを隠したり、開き直ることで歴史を先にすすめようとしてきた。だが、日本の歴史だけは、それらに誠実に対峙しつづけてきた。日本には怨念思想があったからといえば身も蓋もないが、日本の武士道は、西洋の騎士道などという限定された人たちの職業倫理とは大きくことなる。単なる理想でもなく実践をはらみつつ大衆を巻き込んだ大いなる合意事項なのだと、私は考えている。 ジャッキー・チェンが操る東アジアの武術と日本の武術の大きな違いは、その動きの型でなく精神にこそあると気づかねばならぬ。 ひとことでいえば、嘉納治五郎氏が説いた「自他共栄」ということになるだろう。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2006年08月28日 07時40分49秒
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