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2007年01月28日
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カテゴリ:冬のソナタ
※ この文章は、「冬のソナタ」をすでに観終えてしまった人たちに向けて書かれています。

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さて、やっとシェイクスピアについて語ることができる。
だが、ちょっと待て。

単純にイギリスの文豪と東洋の芸術を比較していいのだろうか。

私は、「冬のソナタ」にはまり始めた頃、韓国の文化と日本の文化の底流を流れている東洋的なるものに思いを馳せた。
おかしな言い方になるかもしれぬが、私の感じは、地元球団ができた北海道の野球ファンなもの。

それまで、地元球団がないから、東京読売ジャイアンツを応援していた。だが、地元球団があれば、すぐに北海道日本ハムファイターズのファンになる。
同様に、いままで、素晴らしい作品がなかったから、ハリウッド映画を見ていた。だが、東アジアに素晴らしいドラマがあるなら、それを愛でるほうがいいに決まっている…。



劇聖シェイクスピアは、「ハムレット」の劇中で、「演劇とは現実に向けた鏡である」とのセリフを書いた。
演劇は架空の空間でしかないが、それは現実世界を映した物であるということか。その文脈でいえば、観客は劇空間を鑑賞するのだが、そこから導き出されるのは、現実世界そのものである。
描かれた中世イギリス王家の抗争は、そのまま現代のビジネス社会の企業間競争を読み取ることができる。
シェイクスピア劇の本質は、エゴなる個がエゴなるがゆれに崩壊していく物語であり、それが個と社会の共存の難しさを語っている。



では、日本ではどうなのか。

最近読んだ産経新聞のコラムに、「日本人が花を眺めることは、花を眺めて詩を読むことであり、そして、それは自分の心を見ること」というのがあった。


私はその文章に接したとき、「冬のソナタ」を思った。

ヒビアン・リーの「哀愁」観たとき、私たちはヒロインに感情移入した。ビットリオ・デシーカ監督の「ひまわり」を観たとき、私たちは、ソフィア・ローレンとリュドミラ・サベリエワの想いに心を寄せた。
「めぐり会い」でも、デボラ・カーに感情を移入した。
だが、そのとき、日本人が花を見たときに、自分の心を見るような、そんな想いにかられはしなかった。

たしかに、チェ・ジウの涙やヨン様の微笑みに、ユジンやミニョンの心の辛さに自分の心を同化させたことは事実だ。
だが、「冬のソナタ」を観ていると、ドラマを見ている「自分の心」がまざまざと浮かび上がってくるのが分かる。

私は、遅刻常習犯のチェ・ジウに、低血圧症だった初恋の女性を思い出す。

似たようなことを多くの冬ソナ・ファンが繰り返しているのだと思う。



二人でバスに乗れば、バスがすすんでいくにつれて、乗客たちは降りていく。

目的地が近づくにつれて、乗客たちは降りていき、自分たちが残されていくのは当然のことだ。

だが、それは、さまざまな偶然が運命となって、二人だけが選ばれ、永遠の契りを交わすことと等価である。

バスを二人だけで降りるときの晴れがましさ。

初恋をしていたとき、そんなささやかな感情に捉われていたことを、忘れてはいけない。

※このシーンは、「幸福への招待」(1956年フランス映画)のクリスマスイブのバス移動を引用していると感じている。
フランソワーズ・アルヌールとシャルル・ボワイエが懐かしい。アルヌールでは、ジャン・ギャパンと共演した「ヘッドライト」が好みである。



バスがたどり着くのは、作品の最大の背景となっている湖畔の森である。

湖畔の森にある並木道は、作品のジャケットを飾っているが、これが何を象徴しているか、視聴者たちは気づいているだろうか。

・あの並木道の下をユジンとチュンサンは手をとって歩いた。

・あの並木道には雪景色の白が似合っている。

・そして、初雪。


授業を抜け出して出かけた晩秋の森。
そして、初雪のあと出かけた森。

これらのメタファー(暗喩)は、あまりに分かりやすい。



「冬のソナタ」のジャケットを飾る並木道は、バージンロードをメタファーしている。




並木道がバージンロードだと分かってしまえば、すべてが分かってしまうだろう。

居並ぶ木々は、結婚式のバージンロードの両側に並ぶ参列者の列である。

横木に登りよろよろと歩くユジンは、花嫁としての晴れがましい気持ちとちょっぴり不安な気持ちに捉われている。

ユジンと手をつなぐチュンサンは新郎。まさに聖約を終えた新郎新婦の姿。

ユジンがよろければ、チュンサンの手は強く握られる。まさに牧師の宣誓にあった、逆境にあるときも…。である。

降り注ぐ粉雪は、祝福の花吹雪…。米吹雪。

このようにアナリーゼすれば、何故、手をつなぐことに、「冬のソナタ」のストーリーが重きを置くかが理解できる。

手をつなぐことを許されたものだけが、バージンロードを制することができる…。


・授業を抜け出して訪れた晩秋の森は、結婚式の予行演習。

・そして、初雪に覆われた純白の森での出来事は、ふたりの結婚式だった。



社会的な因習とは無縁なレベルで、ユジンとチュンサンは誓いと契りを結んでしまったから、その絆の糸は切れない。

それは言葉の記憶を超えて、魂の記憶のレベルでつながっている。それが、このドラマのカタルシスのすべてと言ってもよい。



全20話のストーリーを思い返してみればいい。

・花嫁の現れない婚約パーティー。けっして着られることのないウェディングドレスの衣装合わせ。

・愛する人のためにではなく着るウェディングドレス。

・自分のためではなく着られた花嫁の姿。

・盗み見る結婚式のリハーサル。

・未遂に終わる結婚式。

それらのグロテスクなエピソードと比べれば、いかに一話、二話の森でのシーンが輝いていたことか…。



そもそも、冬ソナの並木道に限らず、

彼と手をつないで歩く道は、すべてがバージンロードなのである。


これは私が言ったのではない。

20年以上も前に、私の初恋の人がそのようなことを呟いたのである。



ミニョンとのはじめてのパーティー。ユジンは、慣れないハイヒールに靴擦れができ、無様な様子を見せる。

始めてのデートでなれないハイヒールで靴擦れ。そんな経験がある人は沢山いるだろう。

夏の花火大会や盆踊り。ばっちり決めた浴衣はよかったが、下駄の鼻緒で豆ができて、びっこを引きながら歩いた。

そんな思い出がある人は多いのではないか。



たとえば、私の高校時代…。

私の母校は「ウォーターボーイズ」の題材になっている。
当時はまだ水泳部はシンクロをやっていなかったが、当時でも、学園祭がその地域の大きなお祭りになっていた。

私は部活をやっていたのだが、そこに突然、彼女がやってきた。私は何を思ったが、その場を駆け出してしまった。そして、それがひとつの騒動を巻き起こした。

その物語を共有しているのは、私と青春を過ごした人たちであり、それを今でも覚えているのは、私と初恋の人だけだろう。

この広い世界に、あのできごとを知っているのは、自分と彼女だけ。そんな優越感に浸ることができる。それが初恋というもの。

…そして、もし、あの出来事を初恋の人が忘れていたなら、私はユジンと同じカタルシスを感じることができる。


「冬のソナタ」には、ペ・ヨンジュン&チェ・ジウという美男美女が出てくるが、観客は、彼らに劣等感を持つ必要はない。

観客には、それぞれの、「私だけの初恋の思い出」がある。

その思い出は私だけのもの。

ならば、画面の中のユジンとチュンサンと、画面を見つめている視聴者の私は、平等な立場にいられる…。


そして、「冬のソナタ」は、その全編において、思い出を持つことの素晴らしさを謳いあげている…。



「冬のソナタ」の世界には、戦争もないし、豪華客船の旅もない。ただただ日常があるだけで、スキー場というリゾート地が出てくるが、それとて行楽地としての存在ではなく、彼らの職場という意味しかない。

ありふれた湖と、朽ちかけた大木。そんな何気ない風景の中でこそ、人生の輝ける瞬間が生まれる。

考えてもみよう。
人生で一番楽しかったことが、ディズニーランドに行ったこと。海外旅行に行ったこと。
そんな悲しい人生はない。

人生最大の幸福は、何気ない家庭の晩餐にあったり、駅のプラットフォームでの出会いにあったりする。
誕生日やクリスマスではない何気ない毎日の生活にこそ、最大の幸福が隠れている。



そんな何の変哲もない風景が、その人の人生にとって最大の輝きを発している。それが人生の真実。


ドラマの終盤。ふたりの思い出の写真がないことが悲しかったユジンは、海辺で写真を撮ろうとする。だが、チュンサンはすでに写真館で記念写真を撮ったことを後悔し、ユジンから自分の思い出を消し去ろうとしている…。

ユジンの父とチュンサンの母、そして、サンヒョクの父が一緒に映った写真が何をもたらしたのか。

写真の残酷さは、思い出の残酷さに直結している。


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Last updated  2007年01月28日 08時48分12秒
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