乳幼児期・幼児期・児童期における発達段階
乳幼児期・幼児期・児童期における身体的発達 新生児期には、刺激への反応としての自動的な運動である反射運動が、生きていくために必要な運動である。しかし、この時期には身につけていない反応もあるために、子どもが身を守るためには大人達の助けが必要である。 運動機能の発達はひとり一人でそのスピードや程度は異なるが、歩行の発達段階(Frankenberg,Dodds,1968,[Gray,P. ,1991,より二次引用])でも見られるように、発達が連続的であり、同じ段階を踏んでいくということは、どの子どもでも共通であるといえる。 また、脳は細胞分裂によっても発達するが、生活の中での経験も、脳の発達に影響を与えると言うことが明らかになっている(Diamond,1988,[Sdorow, L.M., 1998,より二次引用])。それは、ラットの子どもを用いた実験で、貧しい環境よりも、豊かな環境におかれたラットのシナプスのほうが、よりその結合が強くなっていた(Camel,Withers & Greenough,[Sdorow, L.M., 1998,より二次引用])ことからも分かる。 このように、身体的発達においては、遺伝的なものに加えて、環境というものが、多大な影響を与えている。 2.2. 乳幼児期・幼児期・児童期における知覚的発達 乳幼児には言葉が通じないため、彼らの知覚の能力がどれぐらいあるのか直接本人に聞くことができない。よって、乳幼児の目や身体や頭の動き、吸引反射、心拍数や脳波などを観察することから、研究はすすめられてきた。 視覚の研究は、知覚の研究の中でも多くなされている。 生後2日以内の新生児が驚き、悲しみ、喜びの表情の真似ができる(Tiffany Field et al.,1982,[Sdorow, L.M., 1998,より二次引用])ことや、新生児が舌を出した表情を真似できる(Ainsfeld,1991,[Sdorow, L.M., 1998,より二次引用])ことから、乳幼児の知覚はものすごい速さで発達することが分かる。 視力だけでなく、三次元の世界を認識しきれているのだろうかという問いを明らかにしたのが、visual cliff(視覚的断崖)の実験である(Gibson and Walk,1960,[Gray,P. ,1991,より二次引用])。visual cliffは、乳幼児の奥行き視覚を調べるための装置である。台の片側半分が板張りで、もう片方はガラス張りで台の 下が透けて見えるようになっているものである。ガラス張りの上は歩けるのだが、もし、奥行きを知覚できるのならば、そちらには行かないはずである。実験では、乳幼児の母親に子どもを呼んでもらって、それに対する子どもの反応を観察した。対象は、6ヶ月以上の乳幼児であるが、それは6ヶ月以下の子どもははいはいができないためである。実験の結果、子どもは、母親に呼ばれても、ガラス張りの部分へは進むことができずに手前で止まったり、そこで泣き出したりした。これは、6ヶ月児が奥行きを知覚していることを指すと同時に、深いところに恐怖を感じていることも示している。6ヶ月より前の乳幼児も、visual cliffのガラス板の上にのせられたときの心拍数の変化を調べることで、奥行きを知覚しているかどうか推測することができる。その実験では、2ヶ月児は心拍数に変化が見られ、1ヶ月児は変化が見られなかった(Campos,Langer,and Krowitz,1970,[Gray,P. ,1991,より二次引用])。これが深さに対する恐怖であるかどうかは分からないが、生後2ヶ月頃から、奥行き視覚の発達が始まっているといえるのは確かである。 このほか、聴覚に関する研究もなされている。 2.3. 乳幼児期・幼児期・児童期における認知的発達 子どもの成長と共に、神経系も発達し、複雑なことができるようになる。 子どもがある顔や声を認識し、また会話できたりある問題を解決できるようになること、それが認知的発達である。 人間の発達は現在遺伝と環境の相補的なものであるといわれている。そのうち幼児発達には環境というものが深く関わっているのである。 ワトソンら(Watoson & Ramey,1972[Gray,P. ,1991,より二次引用]) の研究を見てみよう。彼らは赤ん坊を3つのグループに分けた。Aグループは、赤ん坊が頭を動かすと必ずモビールが動くようにした。Bグループは、ずっとモビールは止まったままの状態に、Cグループは、頭の運動とは関係なしに、モビールが時々動くようにした。それを14日間行なった後、次にどのグループも一様にAグループと同じ、頭を動かすとモビールが動くという条件で行なった。その結果、頭を動かしたのはなんとAグループのみであった。このことから、赤ん坊を育てる上での環境の重要性がわかる。いくら身体的に成長しても、周りに刺激がなければ認知的発達は起らないのである。 次に、子どもの発達の研究に大きな影響を与えたピアジェ(Piajet)について見てみよう。彼は同じような年齢の子供たちが似たようなことをするということに気づいた。そこで彼は、一般的な子どもはいくつかの発達段階をふんで成長すると考えたのである。 ピアジェの理論の特徴として、スキーマ(Shema)、同化(Assimilation)、調節(Accommodation)というものがある。スキーマとは行動と思考の様式であり、同化とは外界の新しい出来事を内部のスキーマに取り入れる働きである。また、調節は新しい情報を上手く取り込めるようにスキーマを変更させる働きのことである。例えばこいぬ、こねこ、こぐまというスキーマを持つ子どもが初めてシカの写真を見たとき、こねこだと呼べば既にあるスキーマに新しい情報を取り入れたことになる(同化)。しかし、そのシカを今まで見たことのない新しい動物だと認識すれば新しいカテゴリーを含むためにスキーマを変更するのである(調節)。 またピアジェの認知発達論は4段階で構成され、それぞれ感覚-運動期、前操作期、具体的操作期、形式的操作期といわれる。 (1)感覚-運動期(誕生-2才) 赤ん坊はこの時期に身近な環境に関わっていくことで身体的発達も促されるのである。 この時期の重要な事項は物体というものの概念である。最初は物体が視界から消えるとその物体はもはや存在しないというスキーマを持っている。ゆえに、物体が視界から隠されると途端に興味は失せていくのである。しかし、経験を通して、物体が隠されても、その物体はあり続けるというスキーマを発達させていくのである。6~8ヵ月頃には物が隠されてもさがしはじめるのである。 (2)前操作期(2-7才) この時期の特徴としては、言語能力と象徴的活動の発達である。たとえば、ブロックを並べて列車と見立てたりするのだが、言葉をつかうことで、自分の体を使わずに(例えば四つんばいになって馬の真似をする)象徴的にたとえるのである。しかし、この頃の思考形式はまだ成人のものとは異なり、質量、長さ、数の保存というものが理解しがたい。例えば、同僚の水が同じよう容器に2つあり、一方を細長い容器に移し替えた時、どちらが多いか聞けば、細長い方を選ぶのである。 この時期のもう一つの特徴としては、自己中心性があげられる。他者も自分と同じように考えていると思っていて、会話の時でも相手がすでに分かっていると思うから重要な説明を抜かしてしまうことがあるのである。 (3)具体的操作期(7-12才) 他者への共感、原因ー結果の関係を理解することによって、論理的な分析能力を持つのだが、それは具体的な対象や活動にのみ有効で、抽象的、仮言的なものはまだできないのである。例えば、物を比べて大きさ中に並べることはできるのだが、「AはBより大きく、BはCより大きいではAとCとの関係は?」といわれても分からないのである。 (4)形式的操作期(12才~) ここに関しては、青年期の発達を参照して下さい。 以上のような発達段階の移行は、自分のスキーマと合わない出来事との葛藤から生じるものである。そしてここで重要なのはこのような活動はあくまで子どもの自発性・興味にもとづいて行なわれているということである。 また、ピアジェの理論は少数の観察事例からのものであり、科学的でないという指摘もあるが、ピアジェの理論はこの分野において大きな刺激を与えたことは否めないだろう。