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中山★香

付録

『鳩よ!』 2002年4月号(2002/3/18発売)マガジンハウス刊
J.R.R.Tolkien特集 トールキン「指輪物語」を読もう
インタビュー『妖精たちの国へ』中山星香
interview with seika nakayama
インタビュアー・建部伸明 より抜粋


日本を代表するハイ・ファンタジーの描き手は、実は少女漫画界にいた。
トールキンばりの、時空間を持つ「第二世界」を描き続ける中山星香さん。
代表作『妖精国の騎士』は、光、月、陽の名をもつ三振の魔法の剣をもつ運命の騎士三人(ローゼリィ、ローラント、アーサー)が活躍する物語。
なぜ、どういうきっかけで、どのようにして、この世界を作り上げていったのか。じっくり聞いた。

《三剣物語》の誕生
― まず、漫画家になろうと思ったきっかけから、お聞きしようと思うのですが。
★ 私、手塚治虫先生の『リボンの騎士』が大好きで。兄に「あれの後日編で『双子の騎士』という話があるんだよ」って言われたんですが、そのころコミックスないんですね。雑誌で消えたものは、もう二度と手に入らない。だから『双子の騎士』が読みたくて読みたくて、想像して楽しんでたんですが、手塚先生の作品から離れていっちゃうんですよ。自己流が入ってきちゃう。それがすごくイヤで、手塚先生の描いた続きが読みたいのに、自分で考えている限りどんどん離れていくので困っちゃって「ああ……もうじゃあ、やめよう」と。手塚先生の話の続きを描いているからいけないのであって、自分の話を考えようと思って、最初につくったのが……
― この『妖精国(アルフヘイム)の騎士』なんですね。何歳ぐらいのときですか?
★ 十三歳ぐらいかなぁ。手塚先生の続編を動かすのはやめて、自分のを動かさなくちゃいけなかったので、とりあえず地面から草原を思いついて、「だれかつかまえなくちゃ」と思って、見ていると人が歩いていたのでつかまえて、そのまま目線を上げていったら主人公のローゼリィだったというのが、自分のキャラクターとしては一番最初なんですよ。そのローゼリィにまつわる話をつくっていくと、その前後もできてくるじゃありませんか。それが《三剣物語》なんです。
― 単行本『はるかなる光の国へ』に《三剣物語》の構成がありますね。「第一部:三剣創世の物語」「第二部:ローゼリィの物語」「第三部:玉ねぎ戦士」「第四部:アルダ姫のお話」。1982年11月という日付があるので、ちょうど二十年前のことですね。
★ もう「絶対に描くんだ!」という、世間に対する意思表示ですね(笑)。
― その第二部が『妖精国の騎士』だと。

英国ファンタジーとの邂逅
― 中山さんが、ファンタジーに惹きつけられたのは、いつのころですか?
★ ちょうど物心つくころに、水野英子が、ワーグナーを下敷きにした傑作『星のたてごと』とか発表なさって。あれがなかったら、少女漫画家にならなかったんじゃないかと思うんですけれども。兄がクラッシック好きで、ワーグナーの楽劇とか、早い時期に教えてくれていたので。水野先生の描いたもので、そっちの方向にいってしまった。
― なるほどねぇ。
★ それで中学のころから創造を始めたんですけれど「私が頭の中でいろいろつくっているものは、ファンタジーというジャンルなんだ」って教えてくれたのが、今の仲間たちなんです。“ぐるーぷANTI”っていうんですけど『スケバン刑事』の和田慎二氏と、図鑑などのイラストをよく描いていた深山のぼる氏、もうひとりデザイン編集業をやっている不二森久氏という三人が中心になって、高校生のときにつくったサークルなんですよ。
― すごい縁ですねぇ。
★ そこで、私にとってのファンタジーの師匠・中川由美子さんと出遭いました。今でも同人誌『あぴいる』で漫画を描いてらっしゃるんですけれども、欲がないのでプロにならなかったんです。でもこの人がデビューしてたら、ファンタジーの裾野というのが、ぜんぜん違ったと思いますよ。その彼女が私に、児童文学のすべてを紹介してくれたんです。
― 十代も後半になってからですよね?
★ 私子供のころ、大きな活字が嫌いで、児童文学をすっとばしちゃったんです。ですから児童文学を知って、感激しましたね。C・S・ルイスの『ナルニア国ものがたり』を読んで、それから『ホビットの冒険』と『指輪物語』。トールキンは翻訳を待ちながら読んでいたクチです。で、読んだ後しばらく自己崩壊しました。「あの国においていかれた、彼らが去っていってしまった」って。もう壮絶で。数ヶ月間は立ち直れませんでした。

~中略~


― やはり、影響の大きい幻想文学となると、そのトールキンとルイスになりますか?
★ じつは『ブリジンガメンの魔法の宝石』とか『ふくろう模様の皿』のアラン・ガーナーに、もっとはまってました。怖いんですけど、すばらしくて。いまだに彼のような作品を描くのが夢だったりするんですけれども。あとは、ローズマリー・サトクリフですね。
― さらに言うなら、実際の神話からの影響も強いような……
★ ああ、そうですね。神話を造らないと話にならないから、神話を勉強し直してから始めるんです。当時翻訳があったのなんて、ギリシャ神話と北欧神話だけなんですよ。ギリシャは水野先生とか里中満智子先生とか、あの世代のかたが、さんざんやってらしたので「今から手をつけることもなかろう」と思って北欧神話にどっぷりという感じでしたね。

ファンタジーの描きかた
― 代表作の『妖精国の騎士』は連載十六年目に入り、順調に爆走していますが、初めからこういう構想だったんですか?
★ そうです。ファンタジーって、全部お話ができあがってからじゃないと描けないので、できあがるのには数年かかります。数年かけて全部つくって、あとはつくったものを子供が読みやすいように、いかに二次元にしていくかという作業。頭の中の映像は、全ての場所が同時進行してるんです。でも二次元では一ヶ所しか描けないじゃないですか。だから、どういう順番に描いていくのが読みやすいかなというのが、一番難しいですね。
― お話は全部できていても、全何巻になるかというのは、見せかたによって…
★ だいぶ変わってきますよ。私、最初のころって短く描けると思っていたんです。たとえば『銀青色(フィアリーブルー)の伝説』というのも、八十ページの前後編で描こうと思ってつくったアイデアなんですが、けっきょくコミックス二冊分になっちゃって……でもまだ足りない(笑)。
― なるほど(笑)。
★ むかし机の横に一覧表をバーッとつくって、百作ぐらいタイトル書いて「順番に描いていこう」って思ってました。『はるかなる光の国へ』は「百ページもあれば充分だろう、五十ページでも描けるかな」という感じでしたが、けっきょくコミックス一冊でもダメみたいなことになっちゃいました。その一覧表の時点でも、『妖精国の騎士』というのは「ページ数、制限できない」って書いてあるんです。だから連載が始まるときに、ものすごくうれしかったんですけれども、怖かった。完結するまで、ちゃんと責任もてるんだろうかって。
― 百のうち、いくつ描かれましたか?
★ 五十ぐらいですかね。まだ半分ある(笑)。深く考えないようにしています。だって『妖精国の騎士』ですら、私の心づもりでは二十世紀中に終わっているはずなのに。
― だれかが「本当にすばらしい物語は、一生終わらない物語である」と言ってました。
★ そうなんですよね。読者として一生読み続けられるのは、幸せかもしれませんね。とりあえず、あと三年かけて、これを五十巻目標で完結させて。そのあと本筋が終わった後の話を描こうと思っています。
― キャラクターは一緒で?
★ ええ。ローゼリィの双子の兄ローラントが、王位を継いでるころなんですけれども、初代アーサー・ロビンが出てくるので。たぶん一年ぐらいで描き終わります。
― 初代って……確か『空の迷宮』のアーサー・ロビンが七代目でしたよね。
★ ええ。七代目アーサー・ロビンは《三剣物語》四部作より、さらに後の話なんです。それで初代は、ローラントの心の痛みを救ってくれる。なにしろ双子の妹であるローゼリィをアーサーという異国の王子に奪われて、ローラントは傷心してますからね(笑)。

ローゼリィ秘話
― ローラントの相手は決まってます?
★ 最近みんな、そればっかり訊くんですよね(笑)。ローラントのお妃は、二パターン用意してあるので、どっちでも大丈夫
― 『空の迷宮』のときのように、エンディングを複数用意してるんですか?
★ そうです。じつは私が『妖精国の騎士』の話を最初につくったとき、恋愛には全く興味がなかったんですよ(笑)。運命との戦いを、いかに切り開いていくかというのが主題で。でも後年、少女漫画家になったので、いやおうなくラブシーンとかを描いているうちに「ああ、これもおもしろいなぁ」と思って。それと最初の設定では、ローゼリィが幼児のころに、妖精王ルシアンの森に行く設定だったのでもっと人間離れしてなきゃいけなかったんですよ。そうなると気の毒なアーサーはエピローグでキスするだけだったんですね。
― そこでやっと人間らしくなる(笑)。
★ 少女漫画でそんなもの描いたら、作者はうれしいけど、はっきり言って一年続けばいいほうだ。そうやって切られると、ほんとうに伝えたいメッセージというのが伝わらない。だからローゼリィは読者に近い人間に近いものを体験しなければならない。崩壊させられたものを再生していくとか、血の痛みを知るというのは、人間でないのならば他人ごとなんですよね。それはマズい。だから、主人公をものすごく人間に近づけていきました。ローゼリィがキスシーンで終わるんだったら、ローラントなんてラブシーンあるわけないじゃないですか。だからスタートした時点で、ローラントの恋愛は計算外だった。
― なるほど(笑)。で、その番外編の次、が第三部の『はるかなる光の国へ』ですね。単行本にして一冊弱……。
★ それしかページがもらえなかった。この作品で初めて意識してハイ・ファンタジー的なものを描いたんです。連載初回のときに、とある読者から「私がほんとうに出遭いたかったのはコレだったって、読んだ瞬間にわかって、ものすごくショックだった」という手紙が来たんです。その人は『はるかなる光の国へ』を見るまでは、それを描きたい自分がいたということにも、気がついてなかったらしいんです。だからやってよかったなと。
― ゲーム界にも影響を与えてますし。
★ 私ゲームっていうと『ファイナルファンタジーX』ぐらいしかやってない。
― まさしく、そのシリーズ三作目に“たまねぎ剣士”ってのが出てくるんです。『はるかなる光の国へ』って、最初のタイトルが「玉ねぎ戦士」じゃないですか?
★ そうです、そうです。読んでくれたのかなぁ。こっちは漫画なんで、ゲームつくった人たちも、読んでいるうちに脳を浸食されてて(笑)、気がついたら使っちゃっているというのじゃないんですかね?
― ええ(笑)。それでその後は……。
★ 第四部の『アルディアの炎』です。ちょっとレズっぽいような話なので、少女漫画だと難しそう(笑)。でも描けると思いますよ、アルダ姫の話は。

絵としてのファンタジー
― 肝心の第一部は、どうなんですか?
★ 少女向きじゃないんですよ。大半が大人の登場人物で、少女は主人公一人だけ。『妖精国の騎士』で、光の精霊と呼ばれている女の子がそうなんですけど、発表の場がね。
― 『エイリエルとエアリアンの詩』では、微妙に第一部にからむこと描いてますよね。1983年から連載ですから『はるかなる光の国へ』が単行本にまとまって、すぐですが。
★ ええ。これは習作用わざわざ話をつくったんですよ。絵でファンタジーを描くって、どうやったらいいのか、だれも教えてくれない時代じゃないですか。でも手探りでやるには、一般少女誌というのは危険過ぎる。そこで新書館の『グレープフルーツ』っていう雑誌が「やっていいよ」というので、勉強させてもらいました。この本が、今でもあったらよかったんですけどね。
― ああ、確かにそうですねぇ。
★ それとその翌年、トム・リーミィの『沈黙の声』という作品を漫画化しまして。あれも魔力(ちから)に満ちた話だったので、頭の中の映像で見るときにはもう、主人公が何をやってるか全部わかる。それをどうやって二次元で表現すれば、読者に伝わるのかという、あがきなしには描けないじゃないですか。とりあえずこの二作で勉強させていただいて「スタートラインに立てる程度にきたかなぁ」というところで『妖精国の騎士』」を始めたんです。
― それが1986年……十六年前ですね。
★ 「妖精国の騎士」なんてタイトル、超恥ずかしいじゃないですか。私は「ローゼリィの物語」として、地道に子供のころからつくってたんですが、編集さんに「わかりやすく、ハッタリがきいていて、派手なのをつけてくれ」と。だから「じゃあ、もうそのまんまでいこう」というので。だから、しばらくは恥ずかしくて、タイトルが言えなかった。
― でも、アルフヘイムというルビが振ってあるので……。
★ それだけが救いですよね。北欧神話を下敷きにしているのだと、わかる人にはわかりますから。でもなぜ“仙境”ではなく“妖精国”という漢字を使ったかというと、そのころ“仙境の騎士”とか“妖魔の騎士”とかいう翻訳本、よく出てたんですよ。そういったのと混同されるのはマズイなと思ったので、ちょっとメルヘンちっくに、わざと“国”というタイトルをつけたんですね。
― そういえばエドマンド・スペンサーの『フェアリー・クイーン』の最初の翻訳は『仙女王』でした。仙女と女王をかけてある。いま読める筑摩版は『妖精の女王』になっています。もしかしたら星香さんの影響で、世間の流れが“仙境”から“妖精国”にいった可能性もありますね。
★ そうなんですかねぇ。ものすごい罪深い(笑)。漫画というものは、うんとちっちゃいころから読んでもらえるので、いいことも悪いことも含めて、いろんな影響があるかもしれませんね。すごく責任感じましたもの。それで近年「漫画家でよかったな」とも、思うのは、あまりにも子供たち(あるいは大人もです)が、言葉の解釈が固くなっちゃっているので、すばらしい作品であっても、言葉で通じないことがあるようなのです。あのトールキンのすばらしい作品、今の人が読んで、どのくらいわかるんだろうかというぐらい言葉に無頓着になってるじゃないですか。
― でも、今は映画があるので、観てから読まれるかたが増えるでしょう?
★ そうなんですよ。読まれるようになるなぁというのが、いま最高にうれしくて。

~後略~


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