付録2篠崎砂美 『歌姫 カンタービレ3』 角川スニーカー文庫(1993.11.01初版発行)そしてアンコール ――舞台裏から、物語づくりのこと―― シリーズ完結記念 対談 篠崎 砂美 中山 星香 より抜粋 ★ おめでとうございます。 篠 ありがとうございます。 ★ 無事終わってよかったですね。 篠 何とかこぎつけました。三巻は七転八倒してしまいましたが(笑)。 ★ 三巻はおもしろかったですよ。 読者のために流れを変えます 篠 自分の最大の弱点が主人公なんです(笑)。いつもはどちらかというと、副主人公がいちばん目立ってしまって、主人公が目立たないというジレンマが。 ★ それは副主人公にあたる人を主人公にすべきですよ。そうすれば、いいんですよ。現代は主人公はこうでなくちゃいけないという枠なんかないんですから。 篠 それはファンが聞いたら泣きますよ(笑)。 ★ ファン聞いたら泣くでしょうけど、だからラブシーンなんてなかったですし、エピローグで初めてキスシーンがあるかどうかっていう話だった。 篠 それは寂しすぎる(笑)。 ★ いや恋愛に興味なかったんですよ。十三~四才のころって興味ないじゃないですか。もっとヒロイックあるいはヒロイニックな運命的なものに興味があるわけです、だから。でも描いたころ、私はもう少し年齢があがっていましたし、少女漫画を描くということはやはり、やはりそのおいしいところを逃しちゃいけないというのがありまして、ただ、それに沿って変えてきたら、なんてかわいそうなことをしていたんだろう、アーサーに、と思いましたね(笑)。 いまはアーサーのほうが身近にわかりますよ。かわいそうに、純粋な子ってのは残酷だねえ、うんうん、頑張って生きてくれたまえって。 篠 もうちょっとローラントが前にでてほしいと……。 ★ ローラントは実は半年分ぐらいエピソードカットしているんで、そのときにローラントが主人公になっているはずなのに全部抜けているんですよ。 シビアな話、漫画の商業誌というのは、毎月毎月アンケートが出まして、上位に食い込めなかったら切られるんです。だから例えば「今回は話がだいぶだらけているから、アンケートが落ちた」というような事があると、そこで切られちゃうんです。常にある程度の一定の水準を保たなくちゃいけない。 最初のころは子供たちが幼いですよね。おっつけ運命に巻き込まれて、自分からどうもできない。そうすると、暗い話になりがちで、最初のへんはアンケートよくないんですよ。だんだん編集部の堪忍袋の緒が切れてきたなというころにはもう(順位を)上げないとまずいんで、もうゆっくりできないから、スポーンとそこのエピソードを抜いちゃうんですね。そして派手なエピソードをパッとつなぐ。そこからアンケートを上げていって、適当に水準保っていって、初めて本来の形で連載が続くわけです。いちばん大事なのは続けることですから。 ローゼリィが闇の国に下りましたよね。あそこでアンケートがドーンと落ちましてね(笑)。 篠 落ちたんですか、あの展開で。 ★ 暗い話だったから、ヤバイなと思っていたんです。落ちたといっても中の下ぐらいですけど、でもこういう話の連載って、常に上位にいなきゃいけない。 篠 いわゆる浮動票が足りなかった。 ★ そうです。そこからまた上げなくちゃいけないんで、ほんとはローゼリィが死んだあと、戦いがどんどん進んでいって、どんどん人が死んでいって、もう最高に悲惨なときに彼女を復活させようと思っていたんです。 でもそこまでやったら、アンケートがどん底這って連載切れるな、というのが見えているんで、しようがない。復活が早まったわけですね。そういう操作がいるんですよ、商業誌は。 篠 心配なのは、あの話はどう見ても、半数以上は死ぬなというのに、どうやって処理するんだろうと思った(笑)。 ★ そう、殺すの(笑)。 伏線は隠し味 ★ 読者を引っ張る仕掛けは常にやっていかないと。それは物語の中で、「作家としての自分がやりたい仕掛け」と一緒にやらなくちゃいけない。で、引っ張っていきながら、「実はあのときのあれか」というのが、ガーンとくるようにもっていかなくちゃいけないんですね。 篠 伏線がむずかしいんですね。 ★ 伏線が見えすぎちゃいけないし、見えなすぎてもいけないし。 篠 私の場合、見えなすぎるとみんなに言われる。 ★ 伏線をどこに張るかでしょう。 篠 大体台詞の端でチラッと出すのがくせなんで、それをやっちゃうと、みんな聞きながしちゃうんで。 ★ エピソードでもってくるべきですよ、伏線も。 篠 絵か音でもってきちゃうんで、シーンというかシチュエーションでないといけないんですよね。 ★ 体験的なものの積み重ね、大事です。伏線というのは読者の頭のなかの知識じゃなくて体に入ってなくちゃいけない。何事もなく過ぎたはずだったのに、「これはあれだったのか」とやるためには、シーンがいるんです。エピソードは読者の体験ですよね。キャラクターを通して体験することだから、それをつくっていかないと伏線として生きてゆかないんです。 篠 私なんか流れ読みしちゃってるんで、あとでさがしちゃう(笑)。「どこだっけ」とかいって。 ★ だから伏線が例えばわからない読者にもおもしろく描いておいて、伏線がわかった人にはもっとガーンとくるようにしておくことですね。だから伏線は隠し味みたいなものだと思えば。 動きを読ませるためには恥ずかしいコトも ★ 漫画の場合の資料の設定と、文章で書かれる小説家の資料の設定というのは微妙に違うとは思いますけど、ただ、やっぱり知ってなくちゃいけないところっていっぱいありますよね。私は漫画というよりも映像でつくっているんで、話は全部完全に立体映像なんですね。小説も立体映像で読みますし、自分の作品はたまたま手法が漫画というだけで、小説で出したら小説になりますね。 篠 ものかきなんか恥ずかしいことやってますからね。マントひるがえすっていったら、自分がシーツひるがえしてみたりね。 ★ やっているんですか? 篠 剣技やるといったら、モノサシ振り回してみたり、剣を返すとどうなるのかという、手首とか。自分でやったりはみんなしてますからね。 ★ そうですね。 篠 切りかえしとか上段下段のかまえで、上から撃ちおろした場合には、こっちの方向にはじかれるとか、みんな計算してやるんですけどね。 ★ アシさんたちにやらせました。 篠 ひどい(笑)。自分でやればいいのに。 ★ 自分でやっちゃだめなシーンもある。 篠 人がやっているのを見る(笑)。 ★ 自分でやる分には大体わかるんですけれど、極端な話、ラケット持つ球技ってその動きになりますからね。フットワークであるとか、いろいろ大変なんですよ。戦闘シーンは。 篠 戦闘シーンというのはいちばんいやでしょう。モブシーンになったら死ぬでしょう。(笑) ★ 発狂します。でも人に任せられることってやっぱり知れているんですね。だから大体のアウトラインは絶対とらなくちゃいけませんし、気が狂いますね。ウーッ、グルルルルッ、この話、どうして漫画で描いているんだろうって、泣いてしまう。文章だったら、「100万の軍勢が来た」、それでいい。絵は全て描かなくちゃいけない(笑)。小説家が憎いとか言いながら絵はよくかいてます(笑)。 次回作はコメディーを ★ 私も交互に描いてきましたよ。コメディーとシリアスと。 篠 やっぱりたまって反動がきますよね。 ★ ええ、やっぱり違うものも描きたくなりますものね。 篠 ギャグかなんかやって、溜飲を下げて、ああ、すっきりしたなあと、またシリアスを書く(笑)。 ★ あとドボーンと行くんですね。 篠 読者はそれで両方の世界で。 ★ 振り子のように振れると。 篠 意外と落差が大きいほどおもしろいんですけどね。片っぽうだけだと滅入っちゃったりとか、ほんとにバカになってしまうんで(笑)。 ★ さっきおっしゃったエブリディマジックのような作品もやられたらいいのに。いまかえって時代的にけっこういいと思いますよ。 篠 難しいんですよね、やっぱり。どちらかというと、それがちゃんと書ける場合に書きたくなるし、今回『歌姫』なんかまだ煮詰め損なったと思うんですよ。 読者の皆さまへのひとことです ★ 三巻読んであげてください、読者の皆さん。 【資料提供】 イソノ・V・フジクローム さま ≪ Special Thanx! ≫ |