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カテゴリ:Jリーグ観戦記
5月10日 J1第12節@等々力競技場 20,335人(81%)
川崎フロンターレ 0-1 浦和レッズ 【得点者】 後半17分 エジミウソン(レッズ)→PK 等々力スタジアムの記者席には、雨が吹き込む。ヴェルデイがホームにしていた当時と、ほとんど変わらぬ取材環境である。しかも14度を下回る気温のなか、本当にうんざりするような、ひどく退屈な後半の25分間だった。 発端は後半16分、吉田寿光主審が宣告した井川祐輔のプレーに対するホィッスルだった。裏へ抜け出した高原直泰を後方からのタックルで倒したというものだが、これがPKと判断され、緊迫したゲームの糸がぷっつりと切れてしまったのだ。 すくなくともスタンドから観たかぎりでは、井川の足はボールへ向っていたように見えた。しかし一度下した結論を、ピッチ上の最高権力者である審判が翻すはずもない。この日、何度もミスキックを連発していたエジミウソンが決めて1-0とした。 試合後しばらくたっても怒りを抑えられなかったのが、山岸智の加入で右アタッカーに回されたタフネスガイ・村上和弘である。 「あれがファウルだったのか、そうではなかったのかは、レフェリーの判断だから仕方ないですよ。だけどオレは言ったんですよ。剥がれた芝のあとを見てくれと。ペナルティエリアの外側がめくれてたんだから」 そんな村上の声を遮った吉田主審の返答は、「いいから、いいから」だったという。 村上の唇が、さらに尖る。 「“死ね”とは言われてないですよ」 いうまでもなく第9節、味の素スタジアムで行なわれたFC東京と大分トリニータ戦を引き合いに出したものだ。このゲームを裁いた西村雄一レフェリーが、耳を疑うような暴言を選手に吐いたとされる。「うるさい。お前は黙っておけ。死ね!」。ターゲットにされた上本大海はリーグに訴えたが、うやむやな裁定で西村主審は不問となった。 村上が続ける。 「芝の状態を見れば、明らかに誤審じゃないですか。雨でピッチが濡れてるんだから、スライディングすれば体ごとペナの中に入るのは当たり前です。それに対してオレたち選手が抗議をしたって、胸ポケットのカードに手をかけようとしたところで黙るしかないっすからね。その時点で、選手は何も言えなくなってしまう。こういうのって、絶対に良くないですよ」 エジミウソンのPKがゴール右隅に流しこまれた段階で、残り時間は28分あった。両サイドを引かせた浦和レッズに対して、川崎フロンターレの反撃が始まる。8節の柏レイソル戦から始まった、4試合連続逆転勝利のフロンターレだ。「5試合目」を期待する青のスタンドは、いやがうえにも盛り上がった。 そして後半20分、中村憲剛が起点となったボールに村上がシュート、浦和ゴール前が混乱するなか谷口博之が押しこんだ。ところが、今度は線審の旗が上がっている。オフサイドである。再びフロンターレの選手が審判団に詰め寄るが、つい数分前に問題となったPKの場面で、抗議した井川が無駄なイエローをもらったばかりだった。その矛先が鈍るのも当然だろう。 こうして審判に対する不信感がピークに達すると、02年のワールドカップで韓国に敗れたポルトガルやイタリアのように、チーム全体が壊れやすくなる。守備を固めて逃げ切ろうとするレッズに対して、スローなペースでボールを回すしかないフロンターレという図式が、残り25分間をつまらないゲームにしてしまったのだ。 隣に座っていた顔見知りの記者が、プッと吹き出した。 「レッズって、まるで中東のチームだよな。1点をリードしたら守りを固めて、もう1点を奪いにいこうとしないんだからさ」 筆者の気持ちを代弁してくれた彼に答える。 「ポンテやアレックス、啓太など主力の負傷が続いてはいるけど、それでも他クラブが羨むような選手層だろ。こういうゲームをやられると、どうも好感をもちにくくなるよな」 風向きが変わり、記者たちがペンを走らせるメモを雨粒が濡らし始めた。 先制のチャンスを最初につかんだのは、レッズだった。前半12分、フロンターレGK・川島永嗣がミスキックを犯し、これをタカに拾われてピンチを招いた。幸いエジミウソンの空振りで事なきを得たが、首位獲りを狙う川崎ベンチをヒヤリとさせたシーンだった。だがフロンターレには、彼ら本来のサッカーが戻りつつある。たとえば21分、レッズのコーナーキック崩れを献身的な守備で奪い取ったのがジュニーニョだった。タッチライン際で細貝萌と争いながら、縦へと走る村上に好パスを送る。村上は味方の上がりを待つため、じっくりと時間を溜めてボールキープ、最後は山岸のヘディングシュートへ繋げるという効率的なカウンターアタックを展開している。 フロンターレとレッズの勝ち点差は「3」、得点ランクのベスト10に、フロンターレは鄭大世、ジュニーニョ、谷口と3人の選手が名を連ねる。06年からの両クラブ対戦成績はフロンターレの2勝2敗2分と、まったくの五分である。フロンターレは第9節で名古屋グランパスを叩き、翌10節には鹿島アントラーズにブレーキをかけた。そして第11節のジュビロ磐田戦でも、開始9分に失点をきっしながら、4ゴールを叩き込んで試合を引っくり返した。 憲剛は試合前、こう言ったものだ。 「戦術やポジションに縛られず、ツトさん(=高畠勉監督)の”感じて動く”というサッカーがうまくいってます。レッズは去年のACL王者だし、一昨年はリーグチャンピオンでした。思いっきりぶつかっていける相手です」 しかし誰もが期待した好カードは、レフェリー疑惑の判定、そして狡猾なレッズの闘い方によって、まるで高畠監督の会見のように平凡なものになってしまったのだった。 「プロの監督だったら、もっと熱く語ってほしいよな。“あれは絶対にPKじゃない”ぐらいのことは言ってもらわないと」 これは会見後のベテラン・フリーライターが思わず漏らした発言だ。 試合後、フロンターレのフロントはリーグ側に抗議文を送ることを決めたという。レフェリーという不可侵領域に一石を投じることができるのは、我われジャーナリストである。誰も手を下せぬサンクチュアリのままでは、日本のレフェリングの質はいつまでたっても上がるまい。 末筆となってしまったが、神田明神の祭礼のためアップが遅れたことをお詫びしたい。 【了】 アシックス 【 ASICS 】【10%OFF】08川崎フロンターレ/ホーム/半袖/中村憲剛 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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写真で確認したが、しっかりと足を絡めていたし、高原はPA内だし、相手DFの半身はPA内、あの場面に誤審はなかった。
ただ、サッカーはミスの連続であり、もちろん審判もミスをする。 サッカーの楽しさは選手、審判、両チームのサポ、ファンみんなで作るものだから、緊迫感のある時は、危険な行為でないかぎり、流れを止めないジャッジがあっても良いと思う。 W杯予選のためか、今年は厳しい日程に思う。 1点を先制したら守りきる省エネは仕方ない。 (2008.05.13 08:42:54)
打ち合いや攻守のすばやい切り替えだけで、試合全体が面白いか退屈なのかと判断するのは素人並の発想ではないでしょうか?!
>守備を固めて逃げ切ろうとするレッズに対して、スローなペースでボールを回すしかないフロンターレという図式が、残り25分間をつまらないゲームにしてしまったのだ。 ある意味、勝利の為に相手の流れにならないようなサッカーを徹底した浦和の戦術を崩しきれなかった。この差が両チームの力の差ではないでしょうか? スポーツジャーナリストの方であれば、疑惑の判定とか狡猾なレッズの闘い方と表現する前に、もっと客観的な観点で試合を評価すべきだと思いますよ。 (2008.05.13 10:19:42)
写真や映像で確認する前に入稿したので、事実誤認があったのかもしれません。ただ記者席の雰囲気が、驚くほどシラけていたということです。日程やジャッジについての認識は、同感です。貴重なご意見、ありがとうございました。
(2008.05.14 15:42:18)
その通りです。崩しきれなかったと同時にメンタル面の弱さを露呈したのが川崎です。抗いがたい力の差だったといえるでしょう。それは高畠監督も会見で認めてました。言葉不足で申し訳ない。ただ時には、ジャーナリストは主観的であるべきです。
(2008.05.14 15:47:02)
PKの判定はともかく、谷口のゴールがオフサイドになったのは明らかに誤審でしょう。あれをオフサイドに取られてしまったら、誰もこぼれ球に詰めなくなっちゃいますよ。
以前から、浦和のサッカーは「1点でも取ったらそのまま引きこもるつまらないサッカー」という意味のことを言われています。 他クラブを圧倒する大戦力を集めながらそんなサッカーをするのか、という批判が出るのは当然ではないでしょうか。 (2008.05.14 19:14:29)
この試合後の報道では浦和の守備を褒めたたえるものばかりで、釈然としないものが残りました。
なぜならあまりに攻撃をないがしろにしていると思ったからです。少なくともこの試合の浦和はよいサッカーをしたとは思えないのです。浦和は強いのですから、より魅力的なサッカーを目指すべきだと思います。 ですから、李さんが試合当日の記者席での言葉をこうして伝えて、今回の浦和のサッカーを是としてない意見もあることを知ることができたのはとても有意義だと思いました。 これからもよりよいサッカーが日本に根付くような発言をしていってください。 (2008.05.15 11:29:30) |