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カテゴリ:臨床薬学
症例 40歳 女性
「入院目的」 肺がんに対する化学療法 「現業歴」 肺がん検診で左肺に異常な影が指摘された、肺がんと診断されて(非小細胞肺がん:Stage IV期)入院となる。入院前より咳、発熱を繰り返し、呼吸困難、胸痛を感じていた。 「現在の服用薬」 なし 「既往歴」 3年前に高血圧を指摘された。 「生活歴」 喫煙40本/日/20年(ブリンクマン指数:800) 「身体所見」 身長165.0cm、体重57kg、体温36.0度、血圧112/72mmHg、脈拍62拍/分 「検査所見」 (血液検査) 白血球数6,300/μL(好中球:56.6%)、赤血球数3.67×10 6/μL、Hb12.8g/dL、ヘマトクリット37.1%、血小板2.86×10 5/μL (肝機能検査) AST12IU/L、ALT8IU/L、LDH125IU/L、血清アンモニア28μg/dL、ビリルビン0.2mg/dL、血清アルブミン4.0g/dL、プロトロンビン70%、コリンエステラーゼ(ChE)100IU/L (腎機能検査) BUN8.0mg/dL、Scr0.87mg/dL、尿酸6.8mg/dL、Na140.0mEq/L、K3.8mEq/L、Cl103.0mEq/L、Ca10.0mg/dL、P4.5mg/dL (腫瘍マーカー) CEA99ng/mL(基準値:5.0ng/mL以下)、CYFRA230ng/mL(基準値:3.5ng/mL以下)、SLX40U/mL(基準値:38U/mL以下)、SCC76ng/mL(基準値:1.5ng/mL以下)、NSE1.5ng/mL(基準値:10.0ng/mL以下)、ProGRP16ng/mL(基準値:46.0pg/mL以下)、ICTP4.5未満ng/mL ポイント 1、 患者は、非小細胞肺がんStage IV期(がんの拡がりにより放射線治療ができない臨床病期)と診断されているため、化学治療が標準治療とされる。分子標的治療を行う場合には、遺伝子検査を行って、標的となる分子を持っているかどうか事前に調べる必要がある。 2、 抗がん剤との併用薬には、減量または投与期間を延長する薬が多くある。 3、 患者はブリンクマン指数が800で、肺がんの高度危険群に入る ブリンクマン指数は喫煙が人体に与えるおおよその影響度で(喫煙年数)×(1日本数)であらわす。400以上で肺がんが発生しやすい状況になり、600以上の人は肺がんの高度危険群といわれる。また、1,200以上で喉頭がんの危険性がきわめて高くなるといわれている。 4、 患者は、40歳で全身状態が良好(ECOGのPS0~1)である。 全身状態が悪い患者では、予定していた治療を途中で中止する必要がでてきたり、重篤な副作用があらわれやすいことが知られている。 *ECOG(Eastern Cooperative Group)活動状態スコア 手術や化学療法、放射線療法を施行する臨床試験においては、PS0~2を適格症例とすることが一般的である。 PS0:無症状で社会活動ができ、制限を受けることなく、発病前と同等にふるまえる。 PS1:軽度の症状があり、肉体的労働には制限を受けるが、歩行、軽労働や坐業はできる。例えば軽い家事、事務など PS2:歩行や身の回りのことはできるが、時には少し介助を必要とすることもある。 PS3:身の回りのある程度のことはできるが、しばしば介助が必要で、日中の50%以上は就床している。 PS4:身の回りのことができず、常に介助が必要で、終日就床を必要としている。 5、 AST、ALT、LDHの値、血清アンモニア、ビリルビン値、さらに血清アルブミン値、ChE値から肝機能障害はない。 6、 BUNとScrの値が正常で、また電解質の値に異常がないことから腎機能に問題はなさそうである。さらにクレアチニン・クリアランス(Ccr)に問題がなければ腎機能は問題ないといえる。 7、 肺がんは組織型が多様であるため、腫瘍マーカーは組織特異性の高い項目を組み合わせて測定され、CEA、SCC、CYFRA21-1(非小細胞がん)やNSE、ProGRP(小細胞がん)などがある。ICTPは癌の骨転移の有無や治療効果の判定に有用である。 8、 以上の臨床検査所見から化学療法が選択される。 肺がんは治療方法が異なる「小細胞肺がん」と「非小細胞肺がん(肺腺がん、肺扁平上皮がん、肺大細胞がん)」に分類される。 IV期非小細胞肺がんに関して肺癌診察ガイドライン2012年版では、まず組織型で分類し、非扁平上皮癌と診断された場合のみ、EGFR遺伝子変異またはALK遺伝子転座の検索を行うよう変更された。 EGFR-TKI薬には、ゲフィチニブやエルロチニブといった薬がある。また、クリゾチニブはALK融合遺伝子陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌に適応が認められている。 処方例 1)維持液(ソリタ-T3号)500mL 1バック 9:00~14:00 2)乳酸リンゲル液(ポタコールR注)500mL 1バック 14:00~19:00 3)ブドウ糖注(大塚糖液5%)500mL 1バック 19:00~24:00 4)グラニセトロン塩酸塩注射液(カイトリル点滴静注用3mgバック)3mg/100mL 1バック 10:00~10:30 点滴静注・側管より 5)ビノレルビン酒石酸塩注射液(ナベルビン注10)10mg/1mL V 30mg 生食注50mL 1バック 11:00~(5分でDrip、点滴静注・側管より) 6)注射用カルボプラチン(注射用パラプラチン150mg)150mg/15mL V 410mg 生食注500mL 1バック 12:00~14:00(点滴静注・側管より) 処方の解説と服薬指導 1、 処方1)~3)の目的はカルボプラチンが腎臓に悪影響を及ぼすため、点滴で水分補給をして尿中に排泄させ、腎臓への負担を軽減するためである。 2、 処方4)の目的は抗がん剤を投与しても間もなく悪心・嘔吐が現れるため、その軽減の目的で投与される。 3、 ビノレルビン酒石酸塩(抗がん剤)は血管から液が漏れると周辺の皮膚が黒くなったり、炎症を起こし痛くなるため、点滴の管理を慎重に行う。 4、 注射用カルボプラチン(抗がん剤)の添付文書には体表面積から算出した投与量が記載されているが、臨床においては、腎機能から投与量を計算するCalvertの式により算出した投与量が処方される。 (Calvertの式) 投与量(mg/body)=血中濃度時間曲線下面積(AUC,mg/mL・min)×(GFR+25) *GFRは一般的にクレアチニン・クリアランス値(Ccr)で代用される。 5、 投与開始後、悪心・嘔吐などの消化器症状、発熱、脱毛などの副作用が現れるため、服薬指導時には化学療法について十分な説明を行い、不安を解消するよう努める。 知っておくべきこと 1、 レジメンチェックのポイントについて 1)薬品の間違いはないか 2)投与量の間違いはないか 3)休薬期間の間違いはないか 4)投与日数の間違いはないか レジメンをチェックする際は下記のことに気をつける。 1)輸液の前負荷の確認 2)制吐薬の確認 3)投与量の確認(臨床検査値により減量に注意) 4)点滴速度の確認 2、 投与時に注意が必要な抗がん剤 1)逆の投与順序の場合、骨髄抑制が増強する タキソール - ランダ、アドリアシン - タキソール オンコビン - ロイナーゼ(逆順序は神経毒性の増強) 2)投与時間に注意が必要な抗がん剤 ジェムザールは30分かけて投与する(60分以上だと副作用増強) キロサイドの大量投与は3時間で投与(超えて投与しても短時間で投与しても副作用増強) 3)調整から投与終了までの時間に注意が必要な抗がん剤 ビダーザは1時間以内で投与する(安定性が低下) カルセドは3時間以内に投与する 4)配合変化<調整時の注意点> エンドキセン、カルセドは溶解後室温で3時間安定 ロイナーゼは日局生理食塩液での溶解は避ける ラステットは推奨希釈濃度等に注意する ダカルバジンは他剤との混合により結晶析出など外観変化を生じることが多い 5)ポリ塩化ビニル製輸液セットが使用不可の抗がん剤に注意する。 タキソール、ラステット、サンラビン 6)臨床検査値の確認が必要な抗がん剤に注意する リツキサン、ゼローダ 7)休薬期間が必要な抗がん剤に注意する アクブラ、ジェムザール、ダカルバジン、ティーエスワン 参照: 症例で身につける臨床薬学ハンドブック 124症例から学べる薬物治療の考え方と服薬指導のポイント/越前宏俊/鈴木孝改訂第2版 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2016.07.07 15:50:28
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