狂人ブログ　～旅立ち～

　推定年商５兆円の日本自動車メーカー「アカマ自動車」に突如叩きつけられたＴＯＢ（株式公開買い付け）。謎の中国系巨大ファンドの敵対的買収を前に、アカマ自動車役員・芝野は、かつて数々の瀕死の日本企業を買収、再生させてきた男・鷲津（通称・ハゲタカ）に、救いを求める。
　資本主義の原則すら守れなくなった日本に絶望し、一度は申し出を断る鷲津だったが、芝野の熱意に突き動かされ、再びハゲタカに戻る決意をする。

　…というのが、本作の大まかなあらましだが、いやはや、久々に骨太のガツンと来る映画を観た気がする。例によって食い物に例えるなら、メタボ対策だのヘルシー志向だのが叫ばれるあっさり至上主義の世の中に、あえて堂々と背脂たっぷりの超こってり濃厚豚骨ラーメンで勝負に出るような、ある種の潔ささえ漂う作品である。
　一見、企業買収や株式など、一般人には敷居が高く感じられるテーマを扱っていながら、その実、非常に分かりやすく、かつ面白い。堅くなりすぎず、だが決して中だるみせずに、約２時間半、いい意味での緊張感を常に張り巡らせながらのストーリー展開と演出力は見事。
　役者陣の演技も素晴らしい。特に、鷲津演じる主演の大森南朋氏の存在感といったら、あの柴田恭平さんや中尾彬さんと並んでもまったく見劣らず、それどころか、氏の挙動一つで画面の空気がガラッと変わってしまうほどの、もはや本作のイニシアチブにしてシンボルそのものと言ってよい存在であった。
　正直に白状すると、恥ずかしながら小生は、本作を観るまでこれほど優れた俳優が日本にいたとは、全く存じ上げなかった（まして、あの麿赤兒さんのご子息であったとは！）。聞けば氏は「アキレスと亀」や「ミッドナイト・イーグル」「西の魔女が死んだ」などにも出演されているそうだが、一体どこを観ていたのかと、自らの注意力と審美眼のなさに、ただただ項垂れるばかりである。
　もちろん、脇を固める方々も実にいい仕事。主役からチョイ役までオールラウンダーの松田龍平くんは言わずもがな、「ガオレンジャー」の頃から観ている身として、いつのまにか上記の大森氏と互角に渡りあえるだけの俳優に成長している玉山鉄二くんは素直に嬉しく、栗山千明も「あの『鴨川ホルモー』の時のゲロンチョリーとか一体なんだったの？」ってぐらいの仕事ぶり。
　若手の芝居も光っていたが、個人的には、やはり遠藤憲一さんの巧みさに注目したい。今、日本で「主人公と対立する頭の固い上司」を演じたら、間違いなく氏がナンバー１だろう。それでいて「白い春」のいいお父さんのような役もできるのだから、日本映画界はもっと氏を評価すべきである。

　超巨大企業の買収という大きなテーマを扱いながら、その下で働く末端の派遣従業員やマスコミなど、様々な角度から物語を捉える二重三重のドラマとして見せてくれた部分も高ポイント。思うに、本作は国民に「もっと怒れ」と奮起を促しているのではなかろうか。
　生活に不満を持ちながらも、お偉い政治家さん達に右にならえ。己と己の仕事に誇りを持てず、将来の希望も見出せない。それでいて、自ら拳を振り上げる事も、声を荒げる事もできず、また、その気力もない。そういった我が国の国民の多くは、いつも誰かが何かをしてくれるのを待ってるのではないか。
　さらに言うなら、そういった人々の多くが、我が事を我が事として捉える事ができなくなってきているのではないか。小生の住む山口県は岩国市を例に挙げるなら、米軍移転問題に財政問題、直接自分達の生活に関わってくる事柄について、市民、特に若者がどれほど無関心かご存知だろうか。
　ミサイル積んだ飛行機が、自分の屋根の上をビュンビュン飛んでいようとも、テメェの娘をレ○プしても無罪放免になるような連中がそこら辺をウロウロしていようが、北朝鮮が核ミサイル飛ばす際に真っ先に標的にされようが、彼等はお構いナシ。
　「関係ないっしょ」「もう決まった事だし」「そんなの、議員が決める事じゃろ」信じられるか、諸兄姉。これだけ愚かな考えが、平然と罷り通っている事実を。
「こんな国に、誰がした」
という本作のキャッチコピーは、こういった連中に「テメェの面倒ぐらい、テメェが見ろ。いい加減目を覚ましやがれ！！」と投げかける、まさしく強烈な鉄拳制裁であると断じる。我が国が「生ぬるい地獄」を脱する糸口は、実は国民全員の手に委ねられている事を、本作を観て知って欲しいと、心から小生は願う。

　
　ところで、本作は元々ＮＨＫで放送されたドラマの続編だそうな。こんなに素晴らしい作品を見逃していたとは、なんという不覚。これは時間を見つけて、ＤＶＤを借りて観なければ。

　
　つー事で、小生の、この映画に対する評価は…、

　☆☆☆☆★

　限りな～く星５つに近い、星４つ！！


ハゲタカ（上）

ハゲタカ（下）

ハゲタカ（2 上）

ハゲタカ（2 下）


ハゲタカ DVD-BOX

　
　本日の体重：７５．６ｋｇ（昨日と変わらず）