狂人ブログ　～旅立ち～

　実際に国語教師としての経験を持つフランソワ・ベゴドーの小説を、本人脚本、主演で映画化。様々な人種が住むパリ２０区の中学校を舞台に、ある問題児だらけのクラスを、担任教師の視点で追っていく。

　
　教師の注意を馬耳東風に聞き流し、チャイムがなった後でも平然とわめき散らす生徒達。ちょっとした相手のミスをからかい、気に入らなければ誰彼かまわず罵声を浴びせる彼らに、辛抱強く、時に怒声を上げながら、全力でぶつかっていく担任のフランソワ。
　一見、ドキュメンタリーかと見紛うほどのリアリティ溢れる授業風景だが、これがちゃんとした台本に則って撮られた映画だというから驚く。なんでも、生徒達は実際地元の中学校に通う素人の学生で、一年間に渡るワークショップによって得られた信頼と絆あっての事だとか。
　ために彼らの見せる表情、言動は演技のそれを超越し、本に書かれた以上の力となって、作品に生きた鼓動を宿している。
　「物語とは、特定の場で行われる人々の営みを、ある一部分の時間だけ切り取り、ダイジェストで見せていく事」だとするならば、本作はそれを完璧にこなしたと言える。かの名優ショーン・ペンが「奇跡、魔法だ」と称するのも納得の、まさに根気と情熱が生んだ勝利の映像である。

　そしてリアリティゆえに、内容もまた哀しいほどに現実的。どこかの３年Ｂ組か熱中時代よろしく、信じられないような大事件が起きる事もなければ、劇的な解決を迎える事もなく、まして青春を謳歌する若者が、夕日に向かって涙するような感動ストーリーもない。
　ネタバレ的な書いてしまえば、結局フランソワは、このクラスの問題を何一つ解決できないまま、本作の幕は閉じる。
　生意気なばかりで授業もろくに聞かない生徒。ある日を境に突然反抗的な態度をとり始める生徒。授業の内容についていけない苛立ちを他のクラスメイトにぶつける生徒。そんな彼らに慎重に言葉を選びつつ、励ますのが精一杯で、ついには、ちょっとした言葉のニュアンスの違いから口論にまで発展してしまう。
　しかしそれは、彼が無力だからではない。２４人もの子供達それぞれに一人の人間として全力で彼らと向き合い、ぶつかり合った結果なのだ。すなわちこの物語は、一見してクラスの様子を淡々とキャメラに収めているようでありながら、若さゆえの未熟さ、周囲や自分への苛立ち、焦り、やり場のない感情など、２４人分の人間ドラマをある教師の視点を捉えた、究めて計算された、しかし純然たる人の血の通った作品であると称したい。

　上手くいかない事も、分かり合えなかった事も、長い人生のほんの一瞬の出来事なのかもしれない。反発し合っていた教師と生徒が、コンクリートに囲まれた校庭で仲良くサッカーを楽しむラストカットに、ふとそんな事を思ってみた。

　教員免許もなければ、学生時代の記憶の半分以上が欠落している、高卒低所得の小生のような者にとっては、本作から汲み取れるモノはごく限られているが、子を持つ親御さんや、現役の教師の方、あるいは学生諸君にとっては、いつか何かのきっかけになるかもしれない。そんな作品。
　大きな事件や、驚くような仕掛けもなく、娯楽性はきわめて薄い。正直に言ってしまうと、ある程度この手の作品に「慣れている」人でないと、相当眠くなる内容ではあるが（笑）、たまにはこういった映画も悪くない、かも。


　ところで余談。本作の授業のシーンを観ていて思ったが、フランスでは手を挙げるとき、人差し指を立てるのはデフォなのか。そういや「ミックマック」でもそうしていたが。
　前に何かの番組で、愛知か岐阜の学校では「賛成」「質問」「別の意見、見解」（だったかな？）と３種類の挙手の方法があると、きゃい～んの天野君が言っていたが、アレと同じようなようなモンか？
　その辺に詳しい方、どうかご一報願います。


　そんなわけで、小生の、この映画に対する評価は…、

　☆☆☆★★＋

　星３つプラス！！


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