カテゴリ:小説
Your good point ───仲間に迷惑かけて、一人で暴走して・・・そして一人で落ち込んでれば、世話はないな!! ああ、そうだ。 あの時、ドロシーのいう事をちゃんと俺が聞けてれば。 みんなを信じていれば。 みんなに迷惑をかけることなんてなかったのに。 どうして俺はみんなに迷惑をかけてばかりなんだろう─── ポチャン、と小さく水がはねる音が響いた。 その音に、ギンタはハッと我に返る。 その瞳に、川の淵に座りこんでいるナナシの背中が映った。 「・・・ナナシ?」 ギンタはそう呼びかけ、彼に近寄る。 「何してんだ?」 「釣りや、釣り。なんやみょ~に焼き魚が食いとうなってな。ギンタもやるか?」 その問いかけに、ナナシはそう笑って返した。 「いや・・・俺はいいよ」 その言葉にギンタは首を振る。 そうして、チョコン、とナナシの隣に座り込む。 その様子に、ナナシはキョトン、とし、ギンタへと尋ねる。 「ギンタ、どないしたん? 何か妙に暗いで?」 その言葉に、ギンタは沈黙する。 そうして、小さくこういった。 「・・・ごめん」 「・・・なんで謝るん?」 急に謝られ、ナナシは目をパチクリとさせ、ギンタをジッと見つめた。 ギンタは、小さく言葉を続ける。 「だって・・・俺、みんなに迷惑ばっかかけてる・・・この前だってそうだ。 一人で勝手に突っ走って、結局みんなに迷惑かけて・・・」 「でもあれはもう終わったやろ。ちゃんと責任とって、ギンタが終わらせたやん」 「でも、ドロシーに酷いこと、たくさんいった・・・」 「せやったら、自分やなくてドロシーちゃんに謝らんと」 「そうだよな・・・ごめん」 ギンタの言葉に、ナナシがそう返すとギンタはもう一度小さく謝った。 そうして、沈黙が辺りを包んだ。 水面のウキは僅かに浮き沈みを繰り返し、水面に小さな波紋を作る。 それが何度か繰り返されたとき、 「のぉ、ギンタ」 ナナシが口を開いた。 その声に、ギンタはナナシを振り返る。 「みんな、別に気にしとらんと思うよ。つか、ギンタがそんなに気にする出来事でもないと思うんやけど」 「・・・だって、俺───」 「迷惑かけたってええやろ。いちいちそんなコト気にしとったら、みんな、仲間なんてやっとらんわ」 言いかけるギンタの言葉を遮って、ナナシは言った。 その言葉に、ギンタは言葉を飲み込む。 ナナシは続ける。 「自分、思うんやけどな。ギンタのええトコって、人を純粋に、無防備に信じたり、その人のために行動できるとこやと思う。 せやから、ドロシーちゃんも、アルちゃんも、自分も───『メル』っていうここの場にいられるんやと思うで。 そのええトコ利用されて、迷惑かけられたんならみんな納得しとるよ」 「そう、かな・・・?」 その言葉に、ギンタはそう呟く。 ナナシは大きく頷いた。 「絶対そうやって。そうやなかったら、誰もここにはおらんよ。 大体、そんなんでいちいち落ちこんどるほうがおかしいわ。 そんなん言うたら、自分は我侭でどれだけみんなに迷惑かけてると思うんや」 酒はガンガン飲むし、しょっちゅうウォーゲームはさぼったり負けたりしとるし。 そう続けるナナシに、ギンタは思わずクス、と笑った。 その笑顔に、ナナシも笑う。 「やっと笑顔になったな、ギンタ。ギンタは笑っとったほうがええよ。みんな明るうなるからな───っと」 その時、どうやら当たりがきたらしく、ナナシは慌てて竿を引く。 「ギンタ! こいつはでかいで! 網、用意せい、網!!」 「あ、網ぃ!? どこにあんだよ、そんなもん!!」 「自分の横にあるやろ!?」 「え、あ、あった! よし、こっちは準備───」 OKだぜ! と続けようとしたギンタの言葉は、突如上がったザパァッ、という音にかき消された。 そうやって上がった魚を見て、二人は目を丸くする。 優に体長は3メートルほどあるだろうか。 それほどでかい魚が、自分達の前ではねた。 そうして、その魚が沈むとき、プチッ、と釣り糸が切れた。 僅かな沈黙の後、彼らは顔を見合わせる。 「・・・は、はは・・・」 「はは・・・あはははははっ」 そうして、二人は笑い出した。 「今のはさすがに焼き魚にはできんのぉ」 「でっけぇ魚だった! 俺、あんなの見たことない!!」 「ここの主かものぉ。しゃーない。も一度釣り糸垂らすしかないな」 「ナナシ、やっぱ俺もやっていいか? 釣り!」 「おー、ええで。今用意するから待っとれ」 そう、泉の周りには笑い声が響いていたという。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2005.07.17 21:30:51
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