声
<声>
声にやられる、といったことが時々ある。 電話の向こうの相手の声だったり、普段何気なく聞いているはずの知人の少し低い声だったり、 街ですれ違った人の笑い声だったり。一瞬気をとられて、心も少し持っていかれたことに気づく。 絶対普段は聞けないような、吐息混じりの色っぽい声を聞けばもっとおかしくなって欲しくて自分も変になる。
言葉ではうまく表現できないけれど声は人それぞれに色があって違うものだ。 どんなに似ていても、話し方や微妙なイントネーションで聞き分けられる。その人が持つ独特のIDみたいなものだ。 だから会わなくても声を聞けば、相手を身近に感じることができるし、それは文字といった共通要素を 使うメールよりもはるかに距離の近い行為だと思う。 漫画がアニメ化されて、その声とキャラクターのギャップに愕然としたことのある人は少なくないと思う。 それまでの漫画のイメージを崩さずに声優をキャスティングしなければ、漫画から始るアニメは支持されないのではないだろうか。
声は変えようがないけれど、話し方ひとつで相手に与える印象はがらっと変わる。 物腰が柔らかい人は、話し方もおっとりしていて相手との会話の腰を折ったりしない。 逆にどんなに丁寧な敬語を使っていても攻撃的な話し方をする人もいるし、聞いているだけで不快に なるような話し方の人もいる。 声はその時の気持ちをよくあらわすから、機嫌が悪ければムスッとした声になる。 甘い声が知らず出てしまうときは心も身体も甘えたい時だ。
多分母譲りの癖だと思うが、私は電話口に出ると途端に声色が変わる(らしい)。 携帯だと相手がわかってから出るためあまり変わらないが、実家にいるときにかかってきた電話を取るときの 『はい、○○です』や店や会社にかけた電話では普段の2~3割増でかわいい声を使っている(らしい)。
私は人と話すのは嫌いではないし、むしろ電話で話すのは好きなほうだ。 相手の声が自分にとって心地いいものだったら何時間でも話せるし、実際それで超長電話になったことも 数え切れない。 時にそういう声は、私の中のわだかまりを知らないうちに解いてくれ、私の中のもやもやを晴らしてくれる。 私の中に溜まった声を引き出し、心を軽くしてくれるのだ。 優しい声で頷かれながら、いろんな話をして、伝えて。 声に気持ちを乗せて。相手の優しい声を聞いているだけで、本当に優しくされているような気持ちになって。
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