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Mar 24, 2008
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カテゴリ:伊庭求馬孤影剣
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 桂川の濁流の音が、いよいよ激しさをましてきた。

「旦那、外の様子を見てきやす」  猪の吉が心配そうに云った。

「ここなら大丈夫じゃ」  求馬が平然としている。

「これから、どういたしやす?」

「お蘭の容態しだいじゃ、熱がでなければ直ぐに回復しょう」

 求馬が傍らの柳行李から、握飯の包みを猪の吉に渡した。

「こいつは有り難い、頂きやす」  猪の吉が握飯をひとつ手にし包みを返した。

修羅場をくぐり抜けた男だけに出来る配慮である。水と食料の大切さを身をもっ

て知っているのだ。

「旦那には、こいつが一番だ」  猪の吉が行李から瓢をだし手渡した。

「手配りのよいことじゃ」  求馬がさっそく瓢を口にし、「美味い」 と独語し、

瓢を返した。猪の吉が大切そうに柳行李にしまっている。

「旦那、スルメです」  二人はスルメを噛んで焚火にあたっている。

「猪の吉、わしの宿業はまだ終っていないようだ」

「・・・・」  猪の吉が黙して足元の砂をすくっている。

 求馬の悲惨な過去が、猪の吉の脳裡をよぎった。彼の愛する女性は全て

命を失っていた、それも敵の手で無残な最期を遂げていた。

 今、またお蘭師匠が手傷を負っている。  「師匠は大丈夫ですよ」

「わしも、そう願っておる」  深い沈黙のなかで二人の男は過去を振り返って

いた。求馬の過去は血塗れたものであった、好むと好まざるとに係わらず、

常に悪鬼羅刹道のなかで孤剣をふるってきたのだ。そうしたなかで愛した

女性を二人も失ってきた。今また、お蘭が敵の手で深手を負ってる。

「旦那、師匠の傷を見てやっておくんなせえ」  猪の吉の促しで求馬がそっと

お蘭のそばに寄り、甲斐甲斐しく傷の手当をしている。

 それをみて猪の吉が、洞窟の入口に足を運んだ。

 暗闇のなかで桂川が白い牙を剥き、轟々と凄まじい流れを見せている。

 既に三尺余りも水嵩が増している。猪の吉が入念にあたりを眺め

安堵の息を吐いた。求馬の言葉どおり、この洞窟は安全であった。

「猪の吉、お蘭は大丈夫じゃ」  洞窟に求馬の安堵の声が響いた。

 三人は焚火の傍で安心の一夜を過ごした。

 翌日は雨もあがり、目の覚めるような青空が広がり、重畳と連なる山並の

樹木が雨に洗われ、緑が眩しい朝を迎えた。

 桂川はいぜんと濁流が渦巻き、流木が波にもまれ浮き沈みして流されてゆく。

猪の吉は洞窟の入口に佇み、自然の猛威を呆然と眺めていた。

「猪の吉、お蘭の意識がもどった」  求馬の乾いた声がした。

(もっと嬉しそうに出来ないものかね)と胸のなかで毒づきながら、猪の吉が

お蘭の傍らに寄った。  「猪さんも一緒なんだね」

 お蘭が長合羽の上に横たわり白い歯をみせた。  「よかった」

「心配をかけてご免ね、みんな旦那のお蔭さ」

 お蘭の顔に血の気が浮かんでいる。  「血色がいいよ、師匠」

「傷口を確かめたが、思ったよりも浅手でじやった」

 求馬が両人に傷口の様子を語った。

「川が落ち着くまでは、二、三日は外に出られやせん。師匠にとって良い休養

が出来やすよ」  「そうじゃな、お蘭、ゆっくりと休め」

 求馬が手拭を濡らし、お蘭の額に乗せ替えた。  「すみません」

 お蘭が申しわけない素振りをしている。 「師匠、このさいは甘える事ですぜ」

「猪の吉、貝柱がある筈じゃ」  「へい」  素早く柳行李から取り出した。

「体力を付けねばならぬ、これをゆっくりと噛むのじゃ」

「はいな」  お蘭が貝柱を含み目蓋を閉じた。

「焦りは禁物だ」  求馬が声をかけ焚火の傍に腰を据えた。

「旦那、食い物はありやすか?」  「握飯が一食分は残してある」

「あっしの方は、江戸から持参した非常食が大分残っておりやす」

「うむ、水の心配はない。六紋銭も我等が水に溺れたと思っておろう、ゆっくり

と休養いたそう」  求馬が三人に語りかけ、お蘭の顔に安心の色がみえた。

「旦那、あたしの行李に瓢が三個入っていますよ」

「そいつは豪勢だ」  猪の吉が嬉しそうな声をあげた。

「お蘭、我等二人には酒がなによりのご馳走じゃ」

「旦那も猪さんも、こんな山奥では暮らせませんね」

 お蘭が軽口をたたいた。  「こいつは一本取られやしたね」

 猪の吉が素っ頓狂な声を張り上げた。

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Last updated  Mar 24, 2008 11:43:33 AM
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