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Apr 22, 2010
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カテゴリ:武辺者
 

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        「死に遅れた男」 

「馬鹿め、もう合戦の時代は終り徳川家の御世じゃ」

「わしには終ってはいない、生き恥を雪ぐ為に高虎の殿に勝負に参ったのよ」

「貴様、狂ったか」 藤堂新八郎が呆れ顔で怒声を発した。

「大阪冬の陣でわしの手勢に追い回され、逃げ惑っていたが、わしを斬る勇気

があるか?」  掛け合いをしていると立派な駕籠が庄兵衛の前に止まり、

恰幅の良い白髪の老人が姿を現した。その老人こそが藤堂高虎であった。

「これは藤堂の殿、お久しゅうござる」

 庄兵衛が手槍を手に軒下から声をかけた。

「庄兵衛、わしに遺恨があると聞き飛んで参った」

「豊臣家浪人大将の加持庄兵衛にござる。遅まきながら死花を咲かせんと

ご城下を訪れ、藤堂の殿に見参に罷りこしました」

 名乗りをあげた庄兵衛が自慢の大身槍を構えた。どっと藤堂家の家臣が

抜刀し、庄兵衛の前を塞いだ。

 人込み越しに庄兵衛と高虎の視線が絡まりあった、お互いに歳をとっていた。

 言い知れぬ懐かしさで血潮が騒ぎ、お互いの意地が流れ去ってゆく。

「庄兵衛、わしの首を取るか?」 気負いのない声に庄兵衛の顔が歪んだ。

 高虎の眸が和み往年には見られない、労わりの色が滲んでいる。

「叶いませぬな、矢張り元の殿じゃ。お命を頂く魂胆でござったが、それがしに

は出来ませぬ」 庄兵衛が愛用の大身槍をからりと足元に投げ出した。

「庄兵衛、大阪合戦でのそちの働きは見事であった。わしは逃げながらそちの

采配には感服しておった」

(流石は藤堂高虎様じゃ、役者が違う) そう悟るや思わぬ言葉が口を突いて出

た。 「殿はおいくつに成られました?」

 懐かしさと己の粗末な身形を恥じる心が交ざりあい、不思議な感慨につつま

れた。語りあっていると不思議と過去のわだかまりが氷解してゆく。

「六十一歳じゃ、そちは何歳となった」

「四十九歳となりました。夏の陣で見事に散る覚悟で真田勢の先鋒として戦い

ましたが、この歳まで死に切れず生恥を晒して参りました」 

「庄兵衛、我家に戻って参れ。わしもそちも若かったのじゃ、自分の気持ちを

偽って生きて参ったが、わしは素に戻りたい」

 高虎が家臣を掻き分け、庄兵衛の痩せて尖った肩に手を這わせ、ぽんぽんと

何度も軽く叩いた。

「殿っ」 庄兵衛が平伏した。長い行き違いの人生であったが、こうして顔を会わ

せ語りあうと、全ての拘りが流れ去って行った。

「加持庄兵衛の心意気、この高虎が確と見た」

 こうして庄兵衛は再び藤堂家に戻ることになった。高虎は禄をもとの二千石に

戻そうとしたが、庄兵衛は頑なにそれを固持した。

「百石で十分にござる。その代わりに殿のお側衆に使って下され」

 庄兵衛の帰参には家臣等の中で異を唱える者も居たが、高虎は庄兵衛を

かばった。

「戦国武者の節義を護りぬいた武将じゃ、それ以上の詮索は無用にいたせ」

 庄兵衛は高虎に仕え、歳とともに往年の狂気の翳が薄れ、人代わりしたよう

に温厚な男となった。こうして幸せな時が過ぎ去り、高虎は七十四歳で病没し

た。残された庄兵衛は屋敷の仏間に籠もり高虎の喪に服した。仏壇には四人

の位牌が祀られていた。中央には高虎の位牌が置かれその脇に鍬形四郎兵、

磯辺隼人、生駒軍兵衛の位牌が灯明の灯りに照らされている。

(殿、長い間お世話になりました。鍬形、磯辺、生駒、お主達の許にようやく逝く

時が参った。待たせて済まなかった)

 庄兵衛は位牌に手を合わせ、お礼と詫びを心中で呟き、見事に切腹を遂げ

た。それは主人の高虎を慕っての殉死であると同時に、先に壮烈な討死を遂

げた、庄兵衛股肱の三人へのお詫びでもあった。

 こうして死に遅れた戦国武者の加持庄兵衛は、波乱に満ちた六十二歳の

生涯を閉じたのだ。

                       「了」






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Last updated  Apr 22, 2010 12:59:07 PM
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