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Oct 8, 2011
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カテゴリ:伊庭求馬活殺剣
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     「影の刺客」(33)

     (五章)

 季節は師走を迎え、人々は年の瀬の慌ただしさにつつまれていた。

 江戸の町を震撼させた騒動も、ひたっと止んでいた。

 幕閣をはじめ火付盗賊改方や町奉行所の関係者は、不気味な予兆と

感じとっていた。未だに十数名の曲者が江戸の何処かに潜伏し牙を

磨いているのだ。

 そうした中で西の丸の松平定信の屋敷は厳重な監視下にあった。

 西の丸からくたびれた身形の二人が姿をみせた。

「豊後、今日のお勤めは終わりだ」

「天野さん、こうも寒くては叶いませんね」

 二人とも厚手の布を首巻とし、番町の武家屋敷を風にあおられながら

引き上げていた。

 二人とも素足である、貧乏御家人では役目を終わると足袋も履けない

のだ。二人の懐中には足袋が隠されている。

「こうも冷えてはもたねえな、そこらの店で蕎麦でも啜ろうか」

「わたしは手元不如意で素寒貧ですよ」

「お互いさまだが、今日はおいらが払ってやる」

「珍しいですね」

「傘張りの給金が入るんでな」

 天野監物が情けなそうな顔をして言った。

「それは駄目ですよ、奥方にお渡しせねば」

 若山豊後の腹の虫が、ぐぅ-と鳴った。

「なんとかならあ」

 二人は途中の小汚い蕎麦屋の暖簾を掻き分けた。

「親父、蕎麦と大徳利で熱燗を一本頼まあ」

 天野が湯呑に熱燗を注ぎ分けた。

「頂きます」

 二人が同時に口をつけ大きく吐息を吐きだした。

「生き返りますね」

「豊後、おいら達はつまんねえ人生を送っておるな」

 天野監物の本音のようだ。

「仕方がありませんよ、ご先祖の家を守ることが我等の勤めです」

「けっ、三十俵二人扶持の家をかえ」

 二人が愚痴をこぼし、熱燗をちびちびと飲みながら蕎麦を啜った。

「天野さん、この事件は年内に片がつきますか?」

「分からんよ、たかが十三人の馬鹿者共に振り回され頭にくるぜ」

「それにしても奴等は何処に隠れているんでしようね」

 豊後が箸で二、三本の蕎麦をつまんで啜りこんだ。

 天野監物がそんな豊後の様子を横目にみと吐き捨てた。

「組頭も頭もだらしがねえよ、あれだけ伊庭さんが頑張ってくれたのによ。

進展がねえなんて信じられねえ」

「これからも、伊庭さん頼みですかね」

「馬鹿め、火付盗賊改方の意地をみせる時じゃ」

「どうしたら意地をみせられます」

 豊後の顔に興味の色が浮かんだ。

「奴等は外濠から神田橋の北に隠れ潜んでおると思うがな」

「もう一度、現れてくれれば何かを掴めるかも知れませんよね」

 豊後の言葉どおり、それが関係者一同の思いであった。

「親父、邪魔をしたな」

 天野監物がなけなしの銭を払い表に出た。

 二人は麹町を通り、四谷左門町へとむかった。

 道々、通り過ぎる商店や町屋、棟割長屋の住人が忙しそうに立ち働いて

いる。十二月八日はお事始めがはじまる、この日が正月準備の開始日で、

十三日は恒例の煤払い、それが済むと深川八幡の歳の市、浅草の歳の市

が開かれ一気に年の暮れへと進むのてあった。


 西の丸の老中首座松平定信の屋敷である。周囲は火付盗賊改方や

応援の徒組の面々が厳重に警備をしていた。

 屋敷内は白川藩士により、さらに警護は厳しさを増している。

 屋敷の奥座敷では松平定信と大目付の嘉納主水に、伊庭求馬の三人が

会談を行っていた。

 脇息に身をもたせ炭火が赤々と盛られた火鉢で手を炙る、松平定信の

前に嘉納主水が腰を据え、部屋の片隅に伊庭求馬がうっそりと座っている。

「主水、事件の進展はみられないか?」

「深川の一件から奴等は鳴りを潜め動きを止めております」

 主水が濃い髭跡をみせ野太い声で返答した。

「これから、いかがいたす?」

「大目付の職掌は大名、旗本の法度遵守の監視にござる。従って自前の

探索組織を持ってはおりませぬ、この権限で今回の事件を解決することは

極めて無理がござる」

「主水、そちの言い分は分かるが、そちには隠し玉がある。そこの伊庭

求馬じゃ」

 三千五百石の大身の旗本を呼び捨てにする老中はかっては居なかった。

しかし、松平定信は八代将軍の吉宗の曾孫で御三卿のひとつ田安家の

出身であった。

 そうした意味で十万石以下の譜代大名で構成される、老中職を勤める

大名は大身の旗本に気を配っていたが、定信はそれらを超越した権威を

もっていたのだ。

「伊庭殿、一人では捜索、捕縛は到底無理にござる」

 主水の言葉に定信が求馬に視線を移し、

「伊庭はどうじゃ」

「首座の申されることは無理、それがしは一介の浪人にござる」

「申すな、そちは元公儀隠密の手練者で聞こえた男じゃ」

 松平定信が温和な視線を求馬にむけた。

「それがしは嘉納主水殿を唯一の友として手伝っております。そうでなけ

れば何もいらざることに首を挟む謂れはござらん。嘉納殿の申される通り

事件を解決するには手足となる者は必要にござる」

 求馬が平然とした態度で言い放った。

「分かった。若年寄と相談いたし、事件の解決まで火付盗賊改方を大目付

の支配下に置くがどうじゃ」

「組頭の山部美濃守殿のお考えもありましょう」

「山部は切れ者として評判の男じゃ、自身の出世のためなら否とは申せま

い。主水、これで良いの」

「承知にござる」

 嘉納主水が髭面を引き締めかるく頭を下げた。


影の刺客(1)へ明日はお休みします。





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Last updated  Oct 10, 2011 12:12:44 PM
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