長編時代小説コーナ

2012/12/06(木)09:51

改定  上杉景勝

改訂  上杉景勝(126)

[上杉景勝] ブログ村キーワード     「改定  上杉景勝」 (123) 「色部光長、そちは足軽二千名を伴い、狐越街道に急行いたせ」 「はっ、して任務は」 「既にこの報せは最上、伊達にも知れておろう。わしは明日まで撤兵の 気配をみせずに猛攻いたし、両軍の反攻を許さぬ積りじゃ。狐越街道 は狭隘険路で知られておる。そちは我等の大軍が素早く撤兵できるよう、 道路の補強と修理を行い、先鋒隊として会津に帰国いたせ」  この場になっても直江山城守の読みは完璧であった。 「畏まりました」  色部光長が一同に挨拶して本陣を後にして行った。 「水原親憲に前田慶次」 「はっ」  二人が前に進み出た。 「そちたちも隠密に撤兵いたせ」 「・・・・・そのまま帰国いたしますのか?」 「両人、我等の撤退を知ったら、最上勢の追撃はずいぶんと激しいものに なろう。そちたちは険路な箇所に伏兵の策をなし、本隊の援護をするのじゃ」 「殿軍にございますな」  水原親憲と前田慶次が髭面の顔を見つめあった。 「そうじゃ、狐越街道に本隊が踏み込んだら両軍が殿軍となる」  山城守が常の声で下知を下した。  殿軍に加わることは武者として、これに勝る名誉はない。 「心得申した。これより出立いたします」  二人の猛将が甲冑の音を響かせ本陣を去った。  翌朝、上杉勢の陣地は物音もなく静まりかえっている。旗指物、幟、旌旗 がひるがえり、鉄砲隊を前衛に配置した態勢となっていた。  本陣には上杉の旗印がたなびき、最上勢を圧倒する勢いをみせてい る。東軍勝利の報せに勢いづいた最上勢が動きだしている。  するすると鉄砲足軽が先陣に姿を見せ銃声を轟かせた。それを合図に 兵馬が上杉勢の先陣めがけ一斉に殺到してきた。  受ける山城守の戦術は巧緻であった。  今日の合戦を想定し、馬防柵をめぐらし各隊より引き抜いた鉄砲隊を 配置していたのだ。喊声をあげ最上勢が報復の勢いで攻め寄せてくる。 「放てー」  敵勢を引き付け一千丁の鉄砲隊が一斉掃射で応じた。  白煙が前衛を覆い隠し、悲鳴と怒号が響き阿鼻叫喚の呈をなしている。  最上勢の先陣がたちまち総崩れとなり退却を始めた。  最上義光は上杉勢が関ヶ原合戦の情報を知らぬと判断した。  そう思わせる上杉勢の勢いであった、戦線はそのまま膠着した。  夜の訪れとともに、上杉勢の陣営は真昼のように篝火が焚かれ、警戒の 兵士の槍が不気味な輝きを見せている。  そうしたなかで部隊がぞくぞくと陣営を離れ撤退している。  声もなく咳払いもなく無言の軍勢が甲冑の音のみ、微かに響かせている。  翌日の十月一日、本隊は山城守の下知で陣屋に火を放ち撤退を開始し た。攻撃よりも退却戦が困難であることは言うまでもない。まして最上領 と米沢の間に位置する、狐越街道は山々が続いて天嶮(てんけん)をなし ている。上杉勢は狭隘な険路を揉みあうようにして撤退していた。  上杉勢の撤兵を知らされた最上義光は、直江山城守に城塞を落され、 士卒、三千名の損害を出していた。  一挙にその怒りを晴らさんと猛烈な追撃に転じた。  山城守はこれを予期し、色部光長に塘路の補修を命じていたのだ。 改訂上杉景勝(1)へ

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