長編時代小説コーナ

2012/12/08(土)11:03

改定  上杉景勝

改訂  上杉景勝(126)

[上杉景勝] ブログ村キーワード     「改定  上杉景勝」 (125) 「良くやってくれた。我が勢の一部は街道を抜けた筈じゃ」  山城守がねぎらいの言葉をかけた。 「このまま会津まで戻りますのか?」  水原親憲が血塗れの甲冑姿で訊ねた。 「米沢城で休息いたす」 「最上勢は襲って参りませぬか」 「慶次、最上義光の兵力は五千名に満たぬ、襲いくる余裕はない」  そう答えた山城守の愛の前立てが、陽を浴びてきらりと輝いた。  十月四日、上杉勢は全軍が米沢城に入城し、こうして撤兵作戦は終り みた。山城守は将兵に二日の休養を与え、国境防備を厳しくするように 命じ、自身は単身で若松城へと急行した。 「お屋形、ただいま戻りました」  山城守は景勝の自室を訪れ、帰国の挨拶を述べた。  景勝は何時ものように浅黒い顔で出迎え、申し訳なさそうに語りかけた。 「山城、小山でのそちの諫言に耳を貸しておれば、西軍は負けなんだ。 いまになって後悔しておる」 「申されますな、勝敗は兵家の常。西軍に運がなかったと諦めることです」  山城守が白皙の顔を崩さず、淡々とした口調で景勝を慰めた。 「山城、一緒に飲んでくれるか?」 「喜んでご相伴つかまつります」  山城守が景勝の遠慮ぎみの様子を見て頬を崩した。  景勝と大石綱元の三人で、久しぶりに酒席をともにした。 「今後の展開はどうじゃ」  景勝が濃い髭跡を見せ訊ねた。 「それがしにも分かりかねますが、家康が勝利したことは真にございます。 だが未だに、大阪城には秀頼公が健在におわします」 「山城、あの狸め本性を現しよったぞ。豊臣家の直轄地を六十万石に厳封 しよった」 「本当にござるか」  景勝の言葉に山城守が驚きを隠さずにいる。 「馬鹿をみたのは毛利よ、三成殿は毛利輝元を担ぎだしたが、縁筋の吉川 広家は家康に内通し参戦しない条件で、毛利家の所領の安堵を約束させ たと言う。その為に家康は勝利を得たが、家康は広家との約束を反故とし、 改易をほのめかしたと言うわ。広家は輝元の赦免を懇願し、漸く周防、長門 の二ヶ国三十万石を安堵されたと聞く」 「満更、家康も馬鹿ではありませぬな」  大石綱元が笑い声をあげ大杯を干した。 「綱元、笑いごとではないぞ、我が家はどうなる」  山城守が強い口調で叱責した。 「これは・・・・」  大石綱元が言葉に詰まっている。 「お屋形、家康に味方した豊臣恩顧の大名共はいかがしております」 「豊臣家があのようになっても、狸に口ごたえをする輩が居らぬわ」  景勝の顔に軽蔑の色が浮かんでいる。 「情けなきことにござるな。お屋形、家康が上方に居るうちに江戸に軍勢 を進めませぬか」 「山城、そちは本気か?」 「我が家は義と信をもってたつ武の家。お屋形の下知なれば全員討死の 覚悟で合戦に臨みます」 「うーん」  景勝が唸り声をあげ大杯を干した。 「いずれにせよ、近々に狸から恭順か合戦かとの問いがございましょう」 「わしは、奴だけには膝を屈する屈辱を味わいたくない」 「ならば全滅を覚悟し、奴の非を天下に示す合戦を成されませ」 「わしの意地のみで家臣達を殺すことは出来ぬ。そこが苦しい」  景勝の言葉に山城守が、呵々(かか)と笑い声をあげた。 「山城、何が可笑しい」  景勝の浅黒い顔に怒気が刷かれている。 改訂上杉景勝(1)へ

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