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長編時代小説コーナ

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武辺者

Apr 22, 2010
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カテゴリ:武辺者
 

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        「死に遅れた男」 

「馬鹿め、もう合戦の時代は終り徳川家の御世じゃ」

「わしには終ってはいない、生き恥を雪ぐ為に高虎の殿に勝負に参ったのよ」

「貴様、狂ったか」 藤堂新八郎が呆れ顔で怒声を発した。

「大阪冬の陣でわしの手勢に追い回され、逃げ惑っていたが、わしを斬る勇気

があるか?」  掛け合いをしていると立派な駕籠が庄兵衛の前に止まり、

恰幅の良い白髪の老人が姿を現した。その老人こそが藤堂高虎であった。

「これは藤堂の殿、お久しゅうござる」

 庄兵衛が手槍を手に軒下から声をかけた。

「庄兵衛、わしに遺恨があると聞き飛んで参った」

「豊臣家浪人大将の加持庄兵衛にござる。遅まきながら死花を咲かせんと

ご城下を訪れ、藤堂の殿に見参に罷りこしました」

 名乗りをあげた庄兵衛が自慢の大身槍を構えた。どっと藤堂家の家臣が

抜刀し、庄兵衛の前を塞いだ。

 人込み越しに庄兵衛と高虎の視線が絡まりあった、お互いに歳をとっていた。

 言い知れぬ懐かしさで血潮が騒ぎ、お互いの意地が流れ去ってゆく。

「庄兵衛、わしの首を取るか?」 気負いのない声に庄兵衛の顔が歪んだ。

 高虎の眸が和み往年には見られない、労わりの色が滲んでいる。

「叶いませぬな、矢張り元の殿じゃ。お命を頂く魂胆でござったが、それがしに

は出来ませぬ」 庄兵衛が愛用の大身槍をからりと足元に投げ出した。

「庄兵衛、大阪合戦でのそちの働きは見事であった。わしは逃げながらそちの

采配には感服しておった」

(流石は藤堂高虎様じゃ、役者が違う) そう悟るや思わぬ言葉が口を突いて出

た。 「殿はおいくつに成られました?」

 懐かしさと己の粗末な身形を恥じる心が交ざりあい、不思議な感慨につつま

れた。語りあっていると不思議と過去のわだかまりが氷解してゆく。

「六十一歳じゃ、そちは何歳となった」

「四十九歳となりました。夏の陣で見事に散る覚悟で真田勢の先鋒として戦い

ましたが、この歳まで死に切れず生恥を晒して参りました」 

「庄兵衛、我家に戻って参れ。わしもそちも若かったのじゃ、自分の気持ちを

偽って生きて参ったが、わしは素に戻りたい」

 高虎が家臣を掻き分け、庄兵衛の痩せて尖った肩に手を這わせ、ぽんぽんと

何度も軽く叩いた。

「殿っ」 庄兵衛が平伏した。長い行き違いの人生であったが、こうして顔を会わ

せ語りあうと、全ての拘りが流れ去って行った。

「加持庄兵衛の心意気、この高虎が確と見た」

 こうして庄兵衛は再び藤堂家に戻ることになった。高虎は禄をもとの二千石に

戻そうとしたが、庄兵衛は頑なにそれを固持した。

「百石で十分にござる。その代わりに殿のお側衆に使って下され」

 庄兵衛の帰参には家臣等の中で異を唱える者も居たが、高虎は庄兵衛を

かばった。

「戦国武者の節義を護りぬいた武将じゃ、それ以上の詮索は無用にいたせ」

 庄兵衛は高虎に仕え、歳とともに往年の狂気の翳が薄れ、人代わりしたよう

に温厚な男となった。こうして幸せな時が過ぎ去り、高虎は七十四歳で病没し

た。残された庄兵衛は屋敷の仏間に籠もり高虎の喪に服した。仏壇には四人

の位牌が祀られていた。中央には高虎の位牌が置かれその脇に鍬形四郎兵、

磯辺隼人、生駒軍兵衛の位牌が灯明の灯りに照らされている。

(殿、長い間お世話になりました。鍬形、磯辺、生駒、お主達の許にようやく逝く

時が参った。待たせて済まなかった)

 庄兵衛は位牌に手を合わせ、お礼と詫びを心中で呟き、見事に切腹を遂げ

た。それは主人の高虎を慕っての殉死であると同時に、先に壮烈な討死を遂

げた、庄兵衛股肱の三人へのお詫びでもあった。

 こうして死に遅れた戦国武者の加持庄兵衛は、波乱に満ちた六十二歳の

生涯を閉じたのだ。

                       「了」







Last updated  Apr 22, 2010 12:59:07 PM
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Apr 21, 2010
カテゴリ:武辺者
 

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        「死に遅れた男」 

          (最終章)

 庄兵衛が意識を取り戻したのは翌日の夜間であった。大阪方面の夜空が

炎で真っ赤に燃えている。

「敗けたのじゃ。・・・・わしは死に遅れてしもうた」

 無念の思いが胸をよぎった。周囲には落武者借りの雑兵の声が聞こえる。

 このままでは奴等の手に掛かる、立ち上がり後頭部に激痛が走った。

(ここで落武者狩りに遭っては叶わぬ)   庄兵衛は甲冑を脱ぎ捨てた。

 死に遅れた我が身が無性に腹立たしく思われるが、落武者として命を

捨てる気持ちにはなれない、一先ず身を隠し再起を計ろう。

 彼は愛用の大身槍を抱え血腥い戦場を去った。

 庄兵衛は手槍一本で全国を巡り歩いた。常に彼の脳裡に死に遅れた負い目

が、ずっしりとのしかかっていた。

 二年間があっという間に過ぎ去った。二代将軍秀忠の世に成り、治世は

安泰となった、既に戦国乱世の時代は終りを遂げたのだ。

 浪人狩りも緩やかになり、庄兵衛は仕官の為に大名家を訪れ売り込みを

計ったが、武者の時代が終った事を実感させられた。

 大名は能吏を必要とし、武辺者は無用の長物に成り下がったのだ。

「ご浪人様、もう店を閉めますがの」

 老婆の声で我に返った。随分、長い間ここに座っていたのだ。

「これは長居をした、済まぬ」 庄兵衛は中山道を伝って尾張に向かった。

 彼の胸に久しく忘れていた狂気に似た感覚が湧き上がっていた。

 このままでは野たれ死にじゃ、どこぞの大名家に斬り込みをかけ、遅まき

ながらも華々しく散り果てるか。

 今夜も街道脇の古寺で庄兵衛は野宿をしている、藪蚊が遠慮もなく襲って

くる。痒みを堪え月を仰ぎ見た、合戦の情景が目蓋の裏に蘇ってくる。

 鍬形も磯辺も生駒も皆、討死した。真田殿もそうじゃ。わし一人がおめおめと

生き残ってしまった。悔悟の念が湧き上がってくる。

「そうじゃ津に行こう。高虎の殿もご存命の筈じゃ、今は押しも押されぬ

三十二万石の大々名じゃ」

 庄兵衛の胸に高虎に反抗した若き時代がよぎった。形容の出来ない懐かしさ

で胸が熱くなった。何故、そんな感情になったのか庄兵衛にも分らないが、それ

が忌々しく乱暴に唾を吐き捨てた。

(津の城下で高虎の殿に見参し、見事に散ってくれょう)

 庄兵衛は猛々しい気持ちを抱いて津の城下町へと向かった。

 津の城下町に異様な浪人が姿を現した。大身槍を肩に粗末な身形で背に

旗指物を背負っている。

「元藤堂家の家臣、加持庄兵衛。城主の高虎様に些かの遺恨あり」

 奇妙な文言が墨痕鮮やかに描かれている。

 町行く人々が驚き騒ぎ、町奉行所の役人が駆け付けてきた。

「何としたざまじゃ、気が狂うてか」 年配者は庄兵衛を見知っている。

 庄兵衛は相変わらず高い鼻梁をみせ雑踏を掻き分け、茶店の軒下の長椅子

に腰を据え、臆した色も見せずに周囲を眺め廻している。

(面白くなった、高虎の殿はどうなさる)

 不敵な面魂が往年を彷彿させている。馬蹄の音が響き初老の武士が姿を

みせ、町役人を制止した。

「これはお懐かしい、藤堂新八郎殿か」 彼は藤堂家の家老である。

「庄兵衛、その形はなんじゃ」

「豊臣方の武将の成れの果ての姿じゃ」 

                   続く     







Last updated  Apr 21, 2010 04:20:47 PM
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Apr 20, 2010
カテゴリ:武辺者
 

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        「死に遅れた男」 

 真田勢は射撃と白兵戦を繰りかえし、徳川勢を圧倒した。

 加持勢もその先鋒隊として獅子奮迅の働きを示した。庄兵衛の大身槍の

穂先は血潮に濡れ乾くいとまもない。

「加持殿、お去らばにござる」

 幸村の声が聞こえ、庄兵衛の目前を幸村が五十騎の騎馬武者を率い

出撃して行った。

(内府の本営を強襲される積りじゃな)

 すかさず気づいた庄兵衛は勢を纏め後続した。

 先頭には磯辺隼人が六紋銭の旗印を背に颯爽と駆けている。

「遅れるな」 庄兵衛が兵を督励し突撃を開始した。

 その時、磯辺隼人が銃弾を浴び馬上から後方に吹き飛ぶように転がり落ち

た。「磯辺っ-」 騎馬を返そうとした時、鍬形四郎兵が留めた。

「お頭、磯辺は討死にござる」

「早々と冥途に逝きおったか」無念の思いがよぎったが、庄兵衛の前は敵兵が

充満している。

 激戦となり加持勢は奮戦した。庄兵衛の視線の先に真田勢が赤い帶となって

敵勢を割って疾走する様子が見えた。

 眼を転ずると彼方に生駒軍兵衛が孤立し、敵勢に包囲されている姿が見える

が、助勢する余裕が失われていた。

「死ぬな」 大身槍で目前の敵を一突きとして騎馬を駆けさせた。

 最早、陣形は散り散りとなって各人が思い思いに戦っている。

 庄兵衛の周囲も敵兵で溢れている、余りにも突出しすぎて味方と離れすぎた

のだ。突然、背後から凄まじい打撃を受け馬上から転がり落ちた。

 その瞬間、不覚にも庄兵衛は気を失った。一人の武者が低い窪地に庄兵衛

の躯を隠し若木で覆った。それは真田家の重臣、海野六郎兵衛であった。

 幸村は庄兵衛を藤堂家に戻したかった、その為には死なす訳にはいかぬ。

 今日で大阪方の武将は死に絶える、そうした意味で庄兵衛には生き残って欲

しかった。それを海野に託したのだ。

 幸村は三度にわたって家康の本陣を強襲し槍をつけるまで肉薄した。

 その度に家康は肥満した躯で三度も逃げ惑ったのだ。

 だが合戦の終りが近付いていた、真田勢には後詰の兵力がない。大海原に

浮かぶ一枚の枯葉のような状況となっていた。

 幸村は残存の兵を纏め草原に折り伏せとさせ、毛利勢に伝令を走らせた。

「早々に城内に撤兵なされ、殿軍は我が勢が承る」

 それが訣別の言葉であった。

「皆供、良く戦ったが最後の突撃じゃ。死に遅れるな」

 既に五十騎をきった小勢である、そんな中に鍬形四郎兵も交じっていた。

 戦場で庄兵衛を捜し廻ったが、発見できずに真田勢に加わっていたのだ。

 幸村を先頭に残存の兵が一団となって最後の突撃に移り、鍬形四郎兵も乱

軍の中で討死を遂げた。

 幸村は最後の一兵が斃れるまで見届けたすえに首を授けた。

 ここに大阪城攻防の合戦が終りをつげたのだ。

                    続く

                 







Last updated  Apr 20, 2010 11:22:14 AM
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Apr 19, 2010
カテゴリ:武辺者
 

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        「死に遅れた男」

 真田勢三千が砂塵をあげて伊達勢の先鋒に襲いかかった。

 先頭には幸村が十文字槍を構え、敵勢に割って入った。敵は簡単に崩れた。

「伊達政宗の本陣を衝く」 幸村の下知が戦場に流れた。

 勇みたった真田勢の突撃戦がはじまり、その鋭鋒に押され支えきれずに

伊達勢が逃げ惑い、後方の誉田まで退却を余儀なくされた。

 関東勢の敗北である、それだけ真田の兵は強かったのだ。

 幸村が軍勢を止めた、既に夕闇が迫っている。

 真田勢は粛々と茶臼山に登り本陣とした。幟や旗印が風になびき粛然と

兵が戦闘態勢のまま折り伏している。その様子が関東勢にとって不気味に

見えた。庄兵衛も兵を部署している、あの激戦にも拘わらず、二十数名の

戦傷者を出したが残りは無傷であった。

「鍬形、夜襲に備え警戒を怠らずゆるりと休め」

 三人の股肱にあとを任せ、庄兵衛は愛馬を駆って真田の本陣を訪れた。

 前方には敵勢の篝火が無数に点滅し、今まで見たこともない凄まじい大軍

が駐屯している筈であった。

「加持殿、見事な采配でござった」 幸村が床几を勧め誉めてくれた。

 真田幸村のこの言葉は、庄兵衛にとり何よりも嬉しいことであった。

「加持殿、明日が最後の合戦となりましょう。そこもとは手勢を率いて

藤堂家に恭順なされよ」 幸村が思いもしない言葉を口にしたのだ。

「奇妙なことを申されますな、この庄兵衛は納得が参りませぬ」

「拙者は悔しい。大阪城の武将が一人も残らず討死とは、せめて一人でも生き

残って欲しいものです」

 幸村が庄兵衛の顔を見据えた。

「加持殿、ご貴殿は未だ藤堂家の家臣にござるぞ、なんの遠慮もござるまい」

 幸村が淡々とした口調で思いせぬことを語った。

「異な事を申されますな。それがしはとうの昔に藤堂家を退去してござる」

「それは違いますぞ、高虎殿は全国の大名に回状を廻された」

「回状」 庄兵衛が不審顔をした。

「加持庄兵衛は我が家臣にござる。お召し抱えなきようお願い仕る。そうした

内容でした」 幸村が驚くべき真相を告げたのだ。

「なんと、・・・・高虎の殿が?真の事にござるか」

 庄兵衛の声がうわずった。そう言われれば納得もゆく、どの大名も己の訪問

を避け召し抱えようとはしなかった。その為に長い浪人生活を送ってきたの

だ。明日が最後の合戦と思っているのに、そのような話を持ち出されても納得

がゆかない。

(今となっては豊臣方の武将として華々しく散るまでの事。だが何故じゃ、

高虎の殿のご意志は) 今の庄兵衛には藤堂高虎の真意がまるで分らない。

 だが言えることは今の己は大阪方の武将として闘っているのだ。

「真田様、今の話はなかったことに、明日はご一緒に冥途に参りますぞ」

 庄兵衛は最後の別離の言葉を残し、真田の本陣をあとにした。

 幸村が重臣の海野に何事か囁いていたが、庄兵衛は知らずにいた。 

 明けて五月七日の払暁、最後の合戦が幕をきった。

                  続く







Last updated  Apr 19, 2010 11:30:34 AM
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Apr 17, 2010
カテゴリ:武辺者
 

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        「死に遅れた男」

 霧をついて一騎が馳せ戻ってきた、磯辺隼人の使い番である。伝令は騎馬か

ら転げ落ちるように甲冑の音を響かせ、庄兵衛の馬前に膝をつき叫んだ。

「すでに後藤勢、敵勢と戦闘に入った模様にございます」

「なんと、全軍の集結を待たずにか?」

 庄兵衛が猛禽のような眼をした。

「この濃霧、いっこうに晴れませぬ、三陣の毛利勢も難渋いたしております」

 その頃、後藤又兵衛は三千の手勢で伊達勢一万、本多忠政率いる五千名と

小松山で激戦を交えていた。

 又兵衛は戦機を感じ、全軍の集結を待たずに単独で徳川先鋒の三万五千に

戦いを挑んだのだ。全てが死兵と化し猛烈果敢に徳川勢を蹴散らしていた。

 その報告を聞くや幸村は毛利勝永に母衣武者を走らせ二隊は猛進した。

 急がねば後藤勢が全滅する、そうなれば徳川勢に勝てる見込みはない。

 太陽があがり、夏の熱気が容赦なく降り注いできた。
 
 幸村の胸に不安が過ぎった。

「後藤又兵衛様、お討ち死に」 背に矢を突きたてた伝令が悲報を告げ落馬

した。更に悲報が届いた。二陣の薄田兼相の討死の報せである。

 幸村が天を仰いだ。

「この合戦は敗けじゃ、各勢が思い思いに戦っている」

 戦場に近づき望見すると毛利勝永が機敏に、後藤勢と薄田勢の敗兵を

収容している。幸村は旗本を引き連れ敵情を視察した。

 後藤勢を撃破した伊達勢が喚声をあげ迫ってくる。

「敵は伊達勢じゃ。加持殿、先鋒としてあの丘を押さえて下され」

 幸村の下知で庄兵衛は前方を凝視した、松林に囲まれた小高い丘が見え

た。 「行くぞ」

 庄兵衛が大身槍を水平に構え真っ先に駆けだし、二百名が密集隊形で続い

た。「丘の裾に鉄砲隊を潜ませよ。ついで弓隊と長柄槍隊じゃ」

 庄兵衛が矢継ぎ早に下知し騎馬を丘の中央にとどめた。伊達勢が六紋銭の

旗印を見て陣形を整えている。眼を転ずると真田本隊三千名が、幸村の采配

で巧に部署している。

「見事じゃ」 思わず声が洩れた、それほど見事な陣形であった。

 伊達勢の先鋒隊が丘に接近をはじめた。

「わしの下知で鉄砲隊と弓隊は一斉攻撃じゃ」

(今日こそ我が勢の底力を見せてやる)  敵勢が丘の裾に姿を現した。

 鉄砲隊を先頭に長柄槍隊、騎馬武者が後続し、その勢一千とみた。

 さっと庄兵衛の采配が振られ、鉄砲隊が火蓋をきった。至近距離から銃弾と

弓矢が伊達勢に襲いかかった。どっと伊達勢の先陣が崩れたった。

「槍隊かかれゃ」

 下知するや庄兵衛が馬腹を蹴った。どっと喚声をあげ加持勢が突きかかっ

た。その勢いに押され伊達勢は乱れにみだれ数丁後退した。

 庄兵衛を先頭に獲物を狙う鷹のように、密集したり散開したりしながら猛烈

な追撃戦を見せている。焔硝と喚声。悲鳴と血潮が飛び散る中から庄兵衛の

声が聞こえる。

「加持殿はやる」

 幸村が桃形兜の目庇から庄兵衛の指揮を見つめている。

「貝を鳴らせ」 炯々と真田勢の本陣から法螺貝の音が鳴り響いた。
                 
                   続く







Last updated  Apr 17, 2010 11:18:38 AM
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Apr 16, 2010
カテゴリ:武辺者
 

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        「死に遅れた男」

 この頃の戦場とは不思議な場所であった。兵士等を求め全国各地から

遊女が集まり、即席の遊郭が出来た。

 この大阪城の城外もごたぶんに洩れず粗末な作りの遊郭が軒を並べていた。

 敵も味方も同じ屋根の下で女を抱いていた。

 それ故に治安も悪く、命懸けの遊びであった。

 庄兵衛は普段着に小刀を佩び城門をくぐり抜けた。

「これは加持さま、外出にございますか?城外は物騒にございます」

「血が滾るゆえ、女買いじゃ」

 庄兵衛の言葉に門衛の士が眼を剥いた。

「驚いたお方じゃ。流石は槍の加持様やる事が違う」

          (六章)

 五月六日、大阪夏の陣最大の戦闘が始まろうとしていた。

 黒々と闇におおわれた大阪城の各門から、続々と兵馬が忍び出ている。

「出陣の刻限となりました。それがしは一足早く出立いたします」

 庄兵衛が自慢の鉄丸兜と当世具足を身に纏い、黒鹿毛の駿馬に跨り、

真田の本営を後にした。すでに加持勢二百名は用意をととのい庄兵衛を

待ち受けていた。

「いざ出陣じゃ、皆供、犬死はならぬ。励め」

 庄兵衛が声をかけ、馬腹を蹴った。先頭は磯辺隼人が六紋銭の旗印を

背に騎馬を進めている。

 庄兵衛の傍らには、鍬形四郎兵と生駒軍兵衛が轡を並べている。

 両名が厳しい顔を見せている。

「我が勢の様子はどうじゃ」

「後藤又兵衛様は一刻ほど前に出陣なされました。黒糸威の大鎧は

見事にございました」 髭面の鍬形四郎兵が低い声で告げた。

「薄田兼相様、毛利勝永様も勇んでおられました」

 若い生駒軍兵衛が我がことのように興奮している。

「我等、真田勢は後詰じゃ。大和口の道明寺で全軍が集結する手筈じゃ、

抜かるなよ」

 後方の闇から馬蹄の音が響いてくる。真田勢本隊三千が粛々と大阪城を

後にした。大和口に向かう総勢は一万五千名の大軍である。

「河内口の様子はどうじゃ?」

「木村重成様、長宗我部盛親様の二隊三万、既に出陣を終えております」

「そうか」 庄兵衛が短く答え周囲を見回した。辺りは濃い霧におおわれている。

「霧が深い、行軍に支障があると不味いの。朝には晴れると良いがの」

 忍びやかに蹄の響きが近づいて来た。

「加持殿、なにか臭いませんかな」 真田幸村であった。

「これは真田様、何か不審な点でもございますか?」

「この霧、いささか気にかかります。この天候は味方に不利じゃ。少し急がねば

霧のために軍勢の集結が遅れますな」

 白鹿毛の駿馬に六紋銭の定紋をうった鞍に跨り、夜空を仰いでいる。

 朱柄の十文字槍が庄兵衛の眼に映った。

「磯辺っ、先行し我が前衛の様子を探って参れ」

「畏まりました」 磯辺隼人が騎馬武者三騎を従い闇に溶け込んだ。

「加持殿、先鋒は頼みますぞ」

「心得申した」

 ようやく東の空に明るさが増してきたが、相変わらず濃霧が漂っている。

「厄介な霧じゃ」 思わず独り言が出た。


                    続く







Last updated  Apr 16, 2010 11:18:04 AM
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Apr 15, 2010
カテゴリ:武辺者
 

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        「死に遅れた男」

「それがしになんぞ御用にござるか?」

 中肉中背の武将が現れ庄兵衛に声をかけた、この武将が真田幸村である。

「我等の将兵を真田様の軍勢に加えて頂きたく参上仕りましてござる」

「加持殿、我等に与力すると申されるか?」

「左様、曲げてご承知ありたい」

「なんぞ真意がござるか」  幸村が不審そうに訊ねた。

「我等は二百名の小勢にござる。早晩、戦端がひらかれる事は明白。この

小勢では十分な働きが出来ませぬ、是非とも真田勢にお加え願いたい」

 幸村は庄兵衛を凝視した、言うことは的をえている。猪武者と思っていたが、

わしの眼違いかと感じた。

「合戦に臨む、ご貴殿の覚悟はいかがか?」

 幸村が柔和な口調で質問を発した。

「覚悟なんぞは問題外、この合戦で華々しく散るまでのことにござる。しいて

申さば合戦の帰趨を制する、潮目の臭いが好きにござる」

 幸村が温顔に笑みを浮かべた。この男は将才がある、と瞬時に悟った。

「加持殿、我が先鋒としてお迎えいたす」

 その言葉に庄兵衛は思わず平伏した、天下の智将に認められたのだ。

感激で身内に震いが奔った。

「真田様の下で戦えるとは武者冥利に尽きます。立ち戻り我が勢を引き連れ

参上いたします」

 元和元年の四月を迎え、大阪夏の陣が目前に迫ってきた。

 故太閤殿下が鉄壁に築きあげた城塞は、外濠、内濠すべて埋め尽くされ

巨大な建造物と化していた。最早、籠城作戦は不可能となっている。

 大阪方に残された戦略は野戦のみであった。これは家康の思う壷である。

 大阪方の五万の兵には、後詰の兵力がない。大阪城の諸将も分っている。

 野戦では後詰の兵力がなければ勝ち目がない戦である。緒戦は勝っても兵は

損害をだし、やがて体力を消耗し自滅するのみ。

 一人、幸村のみ乾坤一擲の戦略を練っていた。我等の標的は徳川内府の

み、我が真田勢は家康のみを倒す。これが出来れば戦局は一変する。

 その為には家康の本陣を大阪城に近づける必要があった。どの方面から

攻め上ってくるか、これが最大の課題であった。

 予想される道筋は二つある。ひとつは大和口方面の道明寺付近と、河内口の

八尾、若江方面。その為には主力を二分して二方面作戦を執らねばならない。

 なけなしの五万の兵力を分散させる事は危険すぎるが、ない袖は振れない。

 もし家康の本陣を発見したなら、歴戦の明石全登の一隊を長躯させ関東勢の

背後に迂回攻撃をかける。標的はあくまでも家康の首、これなくて勝てる戦略

はない。幸村はこれを軍議に提案した。

 後藤又兵衛や諸将らも賛同し、これが大阪方の基本戦略となった。

 庄兵衛は与えられた部屋で、鍬形四郎兵と二人で酒を酌み交わしている。

「お頭、いよいよ決戦となりますな」

「そうよのう鍬形、華々しく戦い散り果てようぞ」

 庄兵衛が癖である顔を上向かせた。

「思えば不思議な因縁にございましたな。関ヶ原では敵方として戦った間柄、

こうしてご一緒できるとは思いもせなんだことです」

 庄兵衛は無言で杯を干した。窓から優しい夜風が吹きぬけた、その瞬間、

脳裡にくめの細面の顔がよぎった。戦禍を逃れ大阪を去ったかな、そう感じた

途端に己の未練を恥じた。

「どうかなされましたか?」 鍬形が不審そうに髭面を向けた。

「昔を思いだしたのじゃ。わしは女子を買ってくる、付き合わぬか」

「拙者は遠慮いたします」

                       続く







Last updated  Apr 15, 2010 11:32:49 AM
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Apr 14, 2010
カテゴリ:武辺者
 

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        「死に遅れた男」

 淀の方をはじめ大阪城の女供は恐怖した。それを家康は待っていたのだ。

 家康は頃合をみて和議の使者を遣わした、それも淀の方の取り巻きの女供と

己の愛妾である阿茶局を表にたて、女同士の話し合いにもちこんだのだ。

 諸将連は恐れることはないと懸命に説得したが、女供は大筒の威力に腰を

ぬかしていた。家康の心理作戦が効を奏した訳である。

 十二月二十日、大阪城の総構の撤去を条件に講和が成立した。

 この総構とは総曲輪ともいう。城郭の土塁、石垣、空濠などの施設、

いわゆる外濠などがこれにあたる。

 関東勢は撤退し、かわって人夫達が続々と大阪城に集まってきた。

 和議の条件である外濠を埋めたてる人夫達である。

 関東勢は和議の条件を無視し内濠も全て埋めたてた。みるみる天下の

名城である大阪城は裸城になり、軍事的機能を失った。

 籠城した将兵はその有様をみて退散する者が続出した。このような城では

合戦は出来ぬ、加持勢も半減していた。

「そち達は見限らぬのか?もはやこの城では功名手柄をあげる機会は去った。

悪戯に命を粗末にせず退去いたせ」

 庄兵衛は残った者達に撤退するよう語った。

「我等は、お頭に命をあずけ申した」

「我等は一期の誉れにお頭とご一緒に死花を咲かせる所存にござる」

 一同の面が揃って見える。

「さても物好きが揃ったものじゃ、さらばわしと共に冥途に逝くか」

「おうー」 鍬形四郎兵、磯辺隼人、生駒軍兵衛が雄叫びをあげた。

「わしの存念を申し聞かす、この小勢で戦うは無理じゃ。しかるべき武将と

合流いたす」 庄兵衛の言葉に生駒軍兵衛が剽悍な眼を向けた。

「どなたにございます?」

「真田幸村殿じゃ」  その言葉に全員が賛同した。

「我等も賛成にござる、六紋銭の旗印のもとで死するは本望」

「そち達の命はわしが預かった。加持勢の面目を示すのじゃ」

 こうした状況下、加持勢と同じく結束を固めた将兵も数多くいたのだ。

 真田勢や長宗我部勢などの元大名が率いる兵と、後藤勢のように又兵衛の

個人的魅力にひかれた者達であった。

 たが籠城の総兵力は冬の陣での戦士者や、撤退した者の目減りで今や半数

の五万名となっていた。

 大阪城に籠もる諸将はすべてを見通していた。すぐに和議は流れ合戦が

始まろう、これが戦国最後の戦となる。

 野戦に長けた家康に対し野戦でもって戦う、戦国武者としてこれ以上の

晴れがましい舞台はない。屍を野に晒すとも骨がらみとなって我が名の高名を

あげる。籠城戦が出来ない状況下ではそれしか道はないのだ。

 こうした中でまだ勝利を捨てない武将がいた、それは真田幸村であった。

 戦国最後の生き残りの老狸の武将を狙う、その武将が徳川家康であった。

 奴の首をあげれば大阪方にも微かな光明がある。それには合戦と同時に

家康の本陣を掴まねばならぬ、奴め何処に本陣を構える。

 幸村は智嚢を絞っていた。

「殿、加持庄兵衛殿が面会を求められております」

 部屋の旗本が庄兵衛の来訪を告げた。

「加持殿が、お通し申せ。すぐに参る」

 幸村は普段着のまま客殿へと向かった、噂は耳にしているが猪武者と考えて

いた。 「お待たせ申した」

「加持庄兵衛にござる」 幸村の前に眼光鋭い武将が待ち受けていた。

                       続く







Last updated  Apr 14, 2010 11:30:34 AM
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Apr 13, 2010
カテゴリ:武辺者
 

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        「死に遅れた男」

「鍬形、今に藤堂勢も現れよう。その時が勝負じゃ」

 庄兵衛が冷静に戦闘の様子をながめ、突撃の機会を窺がっている。

 彼は旧主の藤堂高虎に徹底した意地をもっていた。

「お頭、藤堂勢が現れましたぞ」

 磯辺隼人が兜の緒を締め報告に現れた。

「現れよったか」

 庄兵衛が自慢の鉄丸兜の目庇より、戦場を鋭くながめている。

 まごうことなく藤堂勢である。先鋒隊の後方に藤堂勢の本陣の旗が見える。

(あれに高虎の殿が居られるか) そう想った瞬間、高虎への懐かしさがこみ

上げてきた。もう何年になる最後の大広間の出来事が脳裡をかすめた。

「お頭、お下知を」 鍬形四郎兵が騎馬を近づけ叫んだ。

「まだじゃ。真田勢の手痛い反撃で退く時が潮時じゃ、鉄砲で撃ちしろめ全軍

で突撃じゃ」 轟々と銃声が響き白煙であたりは薄暮のようになっている。

 庄兵衛は黒鹿毛に跨り、大身槍を抱え輪乗りを繰り返している。

「退き始めたぞ、用意をいたせ」

 真田勢の攻勢をうけ甚大な損害をだした藤堂勢が後退をはじめている。

「放て」 庄兵衛の采配が振られた。

 加持勢の鉄砲隊が藤堂勢の崩れたつ先鋒隊に襲いかかった。どっと藤堂勢

の先鋒隊が大崩に崩れ逃げ散った、その中陣に高虎の姿が見える。

 庄兵衛が突撃の下知を下し、加持勢五百名が面を伏せ一斉に駆けだした。

「藤堂高虎様に見参」

 庄兵衛の声が戦場に流れ、大身槍を旋回させ乱陣を割って突きかかった。

「加持庄兵衛にござる」 その声で高虎の顔色が変わった。

 鍛えに鍛えた将兵が阿修羅となって藤堂勢の中陣に突撃し、藤堂勢は散り

散りとなって敗走に移った。

「いまぞ高虎様の首級を頂くのじゃ」

 藤堂高虎が馬の首に顔を伏せ必死で逃げ惑っている。

「藤堂の殿、逃げるとは卑怯にござる」 庄兵衛が叫びつつ猛追をはじめた。

 生駒軍兵衛が血塗れの姿で騎馬を寄せ叫んだ。

「お頭、手仕舞いにござる」

「なにっ」

「敵に新手が加わりました、今日のところはこれまで」

 軍兵衛の声で鐙を踏みしめ戦場をながめた、一斉に新手の軍勢が駆けてく

る。「退き鉦を打て」 それを合図に堂々と陣形を保って兵を引いた。

「久しぶりに気持ちの良い戦じゃ」

 庄兵衛が将兵に交じって満足の声をあげている。先刻の高虎の慌てぶりが

可笑しかった。こうして加持勢の初陣は勝利に終ったのだ。

 その宵は本陣に篝火が焚かれ、盛大な酒宴がひらかれた。

 庄兵衛は旧主の藤堂高虎の姿を蘇らせ溜飲をさげているが、なぜか胸の中

に、ぽっかりと穴の開いたような寂しさがこみ上げていた。

 その気持ちが何処から湧くのか不思議であった。

「お頭、大阪城は磐石ですな」

 三人の股肱が庄兵衛の気も知らず、ご満悦で大杯を呷っている。

 こうして一ヶ月ちかく両軍は膠着状態に陥っていたが、突然、凄まじい轟音と

ともに大阪城の屋根瓦が吹き飛んだ。

「なんじゃ、今の音は?」 籠城の将兵が驚きの声で天守閣をながめている。

「大筒じゃな」 すかさず庄兵衛がそれを見抜いた。

(不味い女供が騒ぐ) 庄兵衛はそれに危惧を覚えた。

 庄兵衛の危惧どおり百戦練磨の家康は和議を考え、大筒三門をもち込んだ

のだ。国友村で秘かに作らせた百目玉の大筒であった。

                        続く 







Last updated  Apr 13, 2010 11:04:33 AM
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Apr 12, 2010
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        「死に遅れた男」

「お頭、やりましたな」  鍬形四郎兵、磯辺、生駒が興奮している。

 これでお頭も堂々たる浪人大将となったのだ。

 この頃を契機として天下の高名な武将連が続々と入城を果たしてきた。

 後藤又兵衛基次、長宗我部盛親、薄田兼相、毛利勝永。更に六紋銭の旗印

をはためかせた真田幸村が、三千の正規軍を率い入城してきた。

 大阪城の士気は一気に高まった。

 真田幸村は天王寺口の外に砦を築くことを願い出て許された。

 大阪城に出城が出来たのだ、これが有名な真田丸である。

 城攻めの苦手な家康が天王寺口方面に兵力を集中すると読んだ幸村の

戦術であった。戦機が徐々に熟し、慶長十九年十一月十五日に戦端がひらか

れた。これが大阪冬の陣である。

 家康は二条城から出陣し住吉に本営を構えた。秀忠は平野の陣を敷いた。

 徳川勢の軍勢は二十万、対して大阪城に籠もる兵は約十万の半分であった。

 大阪城の大広間に軍議の席が設けられた。秀頼が中央に座り淀の方や側衆

の大蔵卿などの女衆までが居流れている。

 庄兵衛は末席に加わっているが、この軍議の席が面白くなくてしかたがない。

(軍議の席に女子供か)  独り言が口をついて出た。

「お静かに」 傍らの浪人大将とおぼしき男が声を低め注意した。

 上座に座る大野修理、大野治長、木村重成に後藤又兵衛が口火をきった。

「我等には天下の名城がござる。籠城策が最善かと勘考仕る」

「後藤殿とは思われぬお言葉にござるな。籠城とは何れ味方が馳せ戻ってくる

場合に限ります、我等の味方は何処にござる」

 大野修理がしたり顔で反論した。

「修理殿は野戦ににて家康と対抗すると申されるか?その戦略はいかがにござる」

「・・・・」 大野修理が口ごもっている、彼は何も戦略案を持ち合わせた武将で

はなかった。

「この大阪城で徳川勢を釘づけにいたす。家康は野戦の名手ですが城攻めは

苦手としております。決して敗ける戦にはなりませぬ、さすれば日和見の

豊臣恩顧の大名からもお味方に参ずる者も現れましょう。血気に逸った作戦

は無用とお答え申す」

 後藤又兵衛が野太い声で応酬し、庄兵衛も我慢の限界を迎え口火をきった。

「天下の名城に籠もる我等には敗けるいわれはござらん。幸い真田様が出城を

造られた、敵の主力は必ず真田丸に集中しましょう。我等は戦機を逃さず討っ

て出て、敵を殲滅する事かと心得申す」

 この進言で喧々囂々とした、小田原評定に終止符がうたれた。

 合戦は後藤又兵衛が見通したように家康は力攻めを避け、豊臣方の戦意

喪失を計る戦略をとった。

 家康は堅固な城攻めを避け、包囲網を狭め淀川本流を塞き止め、天満川

下流の水量を減らし、大阪城の濠の水量を減らす作戦にでた。

 その一方で海上へと繋がる豊臣方の穢多崎砦を蜂須賀勢が攻め寄せ奪取す

る戦闘が始まった。さらに天満川北岸の今福に佐竹勢が攻撃を開始した。

 南岸の鴫野は上杉勢が攻めかかり、冬の陣の最大の激戦が幕をあけた。

 大阪方も負けずと大軍を繰り出し、小競り合いが続いたが両軍とも決定的な

戦果をあげるに至らなかった。

 徳川勢は兵力を集中し真田丸に攻め寄せた。庄兵衛は願い出て真田丸の裏

手に兵を進めていた。

 家康の真骨頂は野戦であったが、幸村の巧みな采配の前で手痛い損害を出

し、その度に攻撃部隊が頻繁に変わっていた。

                       続く








Last updated  Apr 12, 2010 12:26:24 PM
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