Apr 3, 2010

武辺者(13)

(3)
カテゴリ:武辺者
 

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        「死に遅れた男」

 この近辺は古道具屋がひしめいている、合戦の近いことを知った商人は店先

に自慢の武具を並べている。庄兵衛は一軒の店に入った。

 店先には埃のかむった甲冑や武具が所狭しと飾ってあった。

 店の亭主が愛想笑いを浮かべて出迎えた。

「親父、良き道具が欲しい」 そう言いつつ慶長大判二枚を手渡した。

「これは大層なお買物にございますな」

 亭主は揉み手で庄兵衛を奥に通し茶を勧めた。庄兵衛は注文の品をつげ茶

を飲みながら待った。

 亭主が手代達を急かせ鎧櫃を並べ蓋を開けた。

「わての店の自慢の品でおます」

 庄兵衛は仔細に点検し、当世具足に眼が吸い寄せられた。

 鉄丸兜で目庇が深く使いがっての良さそうな逸品である。鎧も一目で気に入っ

た、特に胸当てが良い。これらなら銃弾も弾くな、そう思った途端に声がでた。

「親父、この具足に決めた」

「これはお目の高いことで、さぞ高名なお方にございましょうな。お差しさわりが

なければ、お名を聞かせておくれゃす」

「藤堂家浪人、加持庄兵衛じゃ」 高い鼻梁を見せ名乗りをあげた。

「これは驚きました、槍の加持さまでっか。待っておくれやす、鎧櫃にお名を

認めさせて頂きます」

 亭主は抜けめなく庄兵衛の名前と自分の屋号を書き印している。

 庄兵衛が苦笑を浮かべ店を出て飛鳥寺へと向かった。

 門前には人だまりがし一目で浪人と分る男等が、二十名ほど屯し高札を掲げ

た主の現われるのを待っていた。

 鎧櫃を担いだ庄兵衛が姿を見せるゃ、「あのご仁じゃ」 と、それぞれが興味

ぶかくながめている。

 庄兵衛は平然と人込みを掻き分け、境内に入り鎧櫃をおろし、そこに腰を据

えた。(生活に疲れた者が多いな) と一目で察した。

「それがしが高札を掲げ申した」

 野太い声で告げ眼差しを強め一座をながめ廻した。

「藤堂家浪人の加持庄兵衛にござる。この度、縁がござって片桐且元様に仕官

いたし大阪城に入城いたす。その為に三人の家来衆を求めてござる」

「加持殿、なんぞ条件がござるか?」

 浪人から声がかかり周辺がざわついた。

「それがしの望みはひとかどの腕を持つ人物にござる。さらに申さば死を恐れぬ

武者を求めてござる」

 庄兵衛が腰を据えたまま集まった浪人をねめ廻した。往年の凄味が全身より

迸っている。雑踏を掻き分け一人の逞しい体躯の浪人が現われた。

「加持殿、お見忘れか?」 顔中が髭におおわれている。

「拙者、大谷刑部様が家臣、鍬形四郎兵にござる」

「なんと、関ヶ原で槍を交えた鍬形殿か?」

「左様、関東と手切れが近いと知り、大阪に出て参った。積年の恨みを晴らさん

覚悟にござる」

「これは頼もしい、それがしで良ければ仕えては頂けぬかの」

「使って頂けますか?」 鍬形四郎兵が喜びの声をあげた。

「おうさ、それがしに槍をつけたお主じゃ。これ以上心強い味方はない」

 残った浪人等が二人の会話を聞き呆然としている。

                        続く






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Last updated  Apr 5, 2010 09:47:41 AM
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