26.おんり~わん?負け犬の遠吠え:おんり~わん?「『東京には空が無い』と智恵子がいった。」 なんて『智恵子抄』で有名な高村光太郎。 彼の『道程』って詩を中学生の時に習った。 「僕の前に道はない。」 「僕の後ろに道は出来る。」 『智恵子抄』共々記憶で書いているので本文通りか自信はない。 ただ『道程』を読んだとき・・・。 「当ったり前のことを書いてんじゃねぇ!」 「テメエの将来なんて、テメエ自身で色付けしなきゃ誰がしてくれるんだ?」 って思った。 『鶏頭となるも牛後となるなかれ』 同じことだろう。 私は、田舎で唯一『してぃほてる』なんて呼ばれる処で結婚式をした。 極めて『お~そどっくす』な式を考えていた。 でも金がない。 そこで『きゃんどる・せれもに~』『びでお撮影』なんて全部ボツ。 「そんなもん必要ないっ!」 家内の方が『節約』に積極的だった。 『お色直し』は1回切り。 『オプション』なんて『ハープ生演奏』だけ。 『ハープ』だけは二人とも拘った。 私が結婚式に出席して一番『ウザイ』のが『長々とした祝辞』。 そして『友人の暴露話』。 会社関係者や親族中心の結婚式で、『暴露話』なんてスベッて当然で、『ウケたっ!』なんて見たことも聞いたことも無い。 ところが・・・。 式場のコーディネータのお姉さんである。 「節約しすぎて寂しいから『紺色のクロス』をテーブルに斜に掛けて・・・タダで!」 「食器は紺色の皿を使って・・・タダで!」 「卓上生花は最低の料金で・・・但し『紅』と『白』だけにして!」 『藍』と『白』だけの世界 そこに『紅』と『白』だけの『花』 そして『ハープ』が流れる中で、みんな静かに食事をする。 そんな風にしたかったのだ・・・ 金を掛けずに! そんな図渦しい我々の『お願い』に、『片頬を引き攣らせ』ながらも優しく聞いてくれた方である。 「普通なら、セットにすると安くなるんですが・・・」 「今の方が安いんで、セットの説明止めときますねっ!」 と無邪気に微笑む彼女。 そんな彼女が・・・ 「式の司会だけは金がかかっても絶対に『専門家』に頼むべきっ!」 これだけは譲れないって真剣な顔で主張する。 「まぁ。いっか。一つくらい。彼女の言うことを聞いてやっても。」 全く『他人事』である。 それがトンでもないことになる。 『司会のお姉さま』との打ち合わせは・・・。 「友人のスピーチはっ?」 「ありません。」 「カラオケはっ?」 「ありません。」 「キャンドル・セレモニーはっ?」 「ありません。」 「・・・それで2時間も如何やってモタすんですかっ?」 「いや~ぁ。静かにメシ喰って貰えばいいんで・・・1時間半でも良いですよ。」 彼女の溜息とともに10分で終わった。 そして式当日。 その日だけは、『お淑やかに振舞うことを義務付けられている』ハズの『花嫁』は・・・。 出てくるメシを片っ端から喰い倒す。 それどころかフォークを突き出し、私の分まで狙ってくる。 全部のメシを平らげると・・・。 「私ってキレ~でしょっ!」 「写真撮ってっ!」 なんて式場内を駆け回る。 その後ろを『打掛』の裾を直しながら式場係員が慌てて追いかける。 「確か彼女って写真嫌いだったよなぁ」 仲人夫妻と私は頭を抱え込む。 遠くに彼女の両親も頭を抱え込んでいるのが見えた。 一回限りの化粧直し。 『打掛』を選ぶのには3日もかけたのに、3分で選んだ何の装飾も無い『真紅のドレス』。 彼女が入場した途端。 式場が息を呑む音が聞こえた。 ・・・確かにキレイだったのだ。 そして何を思ったのか司会のお姉さま・・・ 「ハープのミニ・コンサートの間に、皆さんには短いお祝いの言葉を考えてもらいましたねっ!」 「新郎新婦から事前に皆さんのことを聞いています。」 「それを紹介しますので、皆さんからの祝辞っ宜しくお願いしまっす!」 我々は非常にメンドクサガリヤである。 結婚案内状の『宛名書』も業者に頼んだくらいに・・・。 だから親族の『紹介メモ』はソレナリに考えて書いた。 でも、ツレって・・・ 『変質者○○』 『協調性が全く無い○○』 『鉄道オタク○○』 ※○○には夫々の苗字が入る。 なんて・・・はは。 司会のお姉さまは、私の書いた『原文』を忠実に読んでは、ツレなんか全員を紹介する。 何のアレンジもなしに。 我々が何にも考えずに2時間の空白をプレゼントした『し・か・え・し』なのか? ツレは・・・ そんな紹介に、みな一瞬顔を引き攣らせて・・・ 「奥さんは『慈善団体の方』でしょうか?そうでなきゃ、何でコンナ奴なんかと・・・」 「『蓼(たで)喰う虫も好き好き』なんて諺があります。奥さんを虫に喩えて申し訳ないのですが・・・」 無茶苦茶な紹介をされたツレなんて・・・ 全く手に負えない。 それを『花嫁』はスッゴク楽しそうに聞いては、ツレを囃子立てる。 誰も『祝おう』なんて気持ちはスッカリ忘れちまってる。 出席者全員が爆笑に包まれ、涙なんか溢す奴までいる。 私の弟だ。 完全に酔っ払いの宴会である。 こんなにクダけた結婚式なんて出席したことはない。 ドンナに楽しかったろう。 『針のムシロ』が敷かれた『雛壇』に座っていなければ。 アッという間に3時間半が過ぎていた式も漸くお開きの時間。 彼女の両親に二人して『花束』を渡す。 親族の手前・・・ 彼女の両親は、心なしか眼が怒ってた。 『花束』を渡した瞬間。 何を思ったのか・・・ 多分、何も考えてなかったんだろうが。 花嫁が叫ぶように泣き出した。 一瞬、式場の時計が時を刻むのを忘れる。 そして・・・フラッシュの嵐。 お開きのBGMが流れる中、みんなが穏やかな笑顔で帰っていった。 『花嫁』が、『花嫁』自ら強引に『自分が望むタッタひとつの結婚式』を創ってしまった。 結婚式は『花嫁』が主人公たって、これほど皆に祝福された奴はいない。 後から彼女の両親に聞かされた。 彼女の親族はミンナがマイクロバスで一緒に帰った。 そのバスの中、何時も煩い親族が口を揃えて・・・ 「ハープの生演奏なんて初めて聴いたっ!」 「ホテルの食事って美味しいのねっ」 「ホントに楽しい式だった」って。 何時も聞かされる『小言』なんて全然なかったらしい。 それで彼女の両親も漸く胸を撫で下ろしたようだ。 今は亡き(どこかで生きてる!)家内のことを書いてしまった。 まあ良き想い出なんだが・・・。 その後、結婚式場が勧めたオプション盛り沢山の結婚式に出席した。 すべて『初めてのイベント』ですよ。 なんて謳い文句に吊られたらしい。 確かに盛り沢山ではあった。 でも『花嫁』の笑顔が輝いていない。 演出過多で「『花嫁』を主人公にする」って最も肝心な事さえ押さえていない。 商業主義の『おんり~・わん』なんて所詮そんなもんだ。 今、巷では『おんり~・わん』なんてモンが流行っている。 人の顔色バカリ伺ってきた日本国民が何を思ったのか急に『おんり~・わん』である。 日本国中『おんり~・わん』なんて囃子立てられながら、みんなオンナジことをしてる。 一所懸命にお金を掛けて、商業主義の『おんり~・わん』を追いかけている。 金なんかなくても、 自分自身の才覚で、 自分自身が本当に望むものを手に入れる。 それが『おんり~・わん』じゃないのかな? 元々、人間なんか『みんな一人ひとり違う』んだ。 それを『人に合わせる』ことバカリ気にして、 ミンナおんなじだって、 どうしようもない凡庸(ぼんくら)になっていく。 それが、急に『人と違うことをする』なんて・・・ 『凡夫の輩』になっちまった者にゃ簡単にできることじゃない。 だからって他人に頼ってまですることじゃ絶対にない。 『みんな一人ひとり違う』って想いを抱いて、 そんな自分自身を磨いていく。 そうすれば・・・ 商業主義なんかに言われなくっても・・・ 何時かはホントの『おんり~・わん』になる。 |