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カテゴリ:書籍 東野 圭吾
![]() 「ねぇ、昼間の道を歩こうと思たらあかんよ。」 「あたしらは夜の道を行くしかない。たとえ周りは昼のように明るくても、それは偽りの昼。そのことはもう諦めるしかない。」 [登場人物] 新海美冬・・・ヒロイン。震災に遭遇し、そこから這い上がるため手を汚しながら雅也と生きていく。 水原雅也・・・主人公。小さな町工場の息子だったが、震災にあいすべてを失う。美冬とともに生きる。 加藤刑事・・・美冬と雅也を追う刑事。 [物語・ネタばれあり] 阪神大震災前夜、雅也の家では父の通夜を行っていた。 工場を倒産させた挙句、方々に借金を作り自殺した父。 少ない弔問客の中には、残された生命保険から借金を取り立てようと企む叔父の姿があった。 そこへ未曾有の大震災が発生。 運よく生き残った雅也は、瓦礫の中から叔父の姿を見つけ、借用書を奪い取ったが、叔父は息を吹き返し、とっさにとどめを刺してしまう。 その一部始終を見つめていた女性がいた・・・。 警察に突き出されることを覚悟した雅也だったが、女性(美冬)は、その秘密を抱え、一緒に生きていく道を選択する。 そこから、ふたりはお互いの身を守るために、手を汚すことを厭わない夜の道を駆け抜けていく。 [観想的なもの] 『名作「白夜行」から4年半、あの衝撃が、今ここに蘇る』と銘打って満を持して 発表された本作。 前作は、ドラマ化もされており、子供時代に起きた事件に翻弄され、互いの身や人生を護るために、互いに犯罪に手を染め、破滅していく男女を描いた傑作だった。 自分の中ではベスト3には入るいい本。 残念ながらドラマは、「最終的に二人をモンスターにしたくなかった」とかのたまって、何故二人がモンスターにならざるをえなかったかとか、たとえ犯罪行為であっても相手を護るためには手を下さなければならないとか、その辺の深いところまでは表現しなかった。(究極のところでは)犯罪をしても許されるってのはメジャーなところでは出しづらかったのかもしれないが・・・。(それならそもそも映像化するなって話です。) 本作は、帯文にもありますが、まさに「白夜行」を読んだ人向けの姉妹作品と言えるでしょう。 「白夜行」の特徴として、主人公二人(桐原亮司、唐沢雪穂)を視点とした章がないことが挙げられます。 二人は常に物語の中心にいますが、その視点は友人であったり、被害者であったりで二人は常に視られる立場で物語が進行します。 つまり、二人が「どう思っていたか」というところがすっぽり抜けているのです。 (周りの人間がこう思っているだろうという推測を重ねて物語が進行している) 翻って、「幻夜」のほうは、一方の主人公・水原雅也の視点からなる章があるのです。 これは何故か。最後にはわかります。 さて、物語の出来としては、前作と比べると格段に落ちます。 前作が、運命に弄ばれる無垢な少年・少女の悲劇(悲恋)であるのに対し、今回は主人公が成人である上、そのエゴが丸出しになってしまっていて、自分のツボである、善意の積み重ねの結果起きてしまった悲劇みたいなところからかけ離れてしまっているからですね。 前作の、長期間足掻いた結果、結局最初のボタンの掛け違いによってすべてが瓦解するみたいなやりきれなさがなく、美冬がすべてにおいて万能すぎ、未来から来たんじゃないかってくらい、未来の流行やら運命に精通しすぎているのが気になります。(現在にいる作者が過去にさかのぼって物語を創り出しているんだから好きにやりすぎると単なる妄想になってしまいます。) 美冬の"正体"についても最後は確定的な決着は残しませんでしたし、雅也の結末もあり得なくはないものの、不自然でした。 連載もの、ということで最後は時間切れでやっつけ仕事で終えてしまった感がぬぐえません。 「白夜行」で期待してしまっただけに、少し残念でした。 [採点] 人物描写 ★★★☆☆ 物語 ★★★☆☆ 技術 ★★★★☆ インパクト ★★★☆☆ 総合 ★★★☆☆ [ツッコミ] ・加藤刑事が美冬、雅也を追う際、雅也は途中で美冬と袂を分かつが、そのあたりの事情を知らないはずの加藤が、なぜか雅也の叛意のタイミングと同時に、雅也と美冬が敵対していることを前提に捜査を始める。
最終更新日
2007年10月20日 22時38分12秒
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