「県庁おもてなし課」 有川 浩
[登場人物]掛水 史貴 県庁おもてなし課職員。主人公明神 多紀 県庁おもてなし課アルバイト。吉門 喬介 土佐出身のベストセラー作家清遠 和政 かつて高知県職員。パンダ招致論提唱者清遠 佐和 和政の娘[物 語]高知ではかつて観光行政の起爆剤として高知県立動物園と高知市立動物園の統廃合を機に西日本初のパンダ招致を企んだ男がいたしかし、当時の行政にはそのアイデアを受け止めるだけの度量がなく、パンダ招致論提唱者は県庁を追われたそれから20年後県庁に観光を総合的に取り扱う「おもてなし課」ができ、主人公掛水史貴は、そこへ配属される右も左もわからぬまま、他県の取り組みを参考に観光大使を任命し、県庁なりに動いてみるが、観光大使のひとり吉門喬介から小馬鹿にしたクレームが入る曰く、民間感覚がない当初、吉門の対応に困惑したおもてなし課一同だったが、観光大使のプロジェクトは徐々に吉門の指摘したとおりトラブルを抱えていくどうやら吉門には、アプローチの仕方に難はあるものの、悪意がないことを察した掛水は、真摯に吉門に助けを求め、かつてのパンダ招致論提唱者のことを聞き出す同時に、民間感覚を取り込むため、県庁内でアルバイトをしていた明神を巻き込み、おもてなし課は動き出すかつてのパンダ招致論を提唱した男と吉門の関係やベタ甘ラブストーリーを得手とする作者が本領を発揮する掛水と多紀のやりとりなどが展開していく[観想的なもの]ベタ甘なラブストーリーと「図書館戦争」のようなシリアスなテーマをミックスする有川浩の作品あとがき的なものを読むと実話をモデルとしているらしい作品中でいうところの吉門が有川自身で、観光大使の依頼が来たが、行政の動きがのろい、不親切極まりない、どうにか故郷のために力になるためには、このやりとりを作品に生かせないか、とまんま小説のような展開ちなみにパンダ招致は作者の父が酔っぱらうとよく話していたことで、その辺からヒントを得たらしい行政が何に縛られているのかもわかり、結構面白いし、外から見た歯がゆさもわかる娯楽作品なので、最終的には解決策がみつかり、うまくいくようにはなっているんだけど、実際はわけのわからないローカルルールで足引っ張られてうまくいかないんだろうね行政に限らず、大きなプロジェクトが回るためには、決定権者まで全員が、そのプロジェクトにポジティブでなければ動かない中にトンチンカンな輩がいて企画の意図が分からないけど、わからないからこそ反対したり、仕事が増えるのを厭がって反対する輩もでてくるので、結局無難な形でしか決着しないそれでいてそんな無難な形なんて誰も求めてはいないわけだ作中の県全体をアミューズメントパークにしてしまうってのは結構面白いかもしれない天然の観光資源が点在しているから肝心なのは交通網かなと思うけど、作中では、不便を楽しむのも観光だってことで優先順位は食事・トイレ・情報提供のほうが上だったけど予土線とか半端なく大変な路線だけど、それを楽しむ不便ってのがちょいと・・・全体的にはラブストーリーあり、掛水の成長ありで、文章もよかったし、やっぱり有川浩すげーって感じです。