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カテゴリ:癌告知
昨年6月に出会った、30代のある男性患者さんは、私の目を見て
「自分は余命を含めた全てを知りたいのです」 と、言い切った数少ない方だった。 どうも、周りの皆が何かを隠しているような気がしてならない。 さすがに親に聞くのは可哀想だから、嫁を怒鳴りつけて本当の話を聞いてきました・・・ と言っていた。 自営業を営んでいる方で、ご家族で会社を経営されている。 名目上は父親が社長だけど、実質的な社長を務めておられるようだった。 余命を含めた全てを聞いてきました・・と淡々と話した後、 「ほら、自分が死んで親戚とかが遺品整理で自宅にやってきて、隠しているエロ本が見つかったら格好悪いでしょう。自分はもう死んでいるのだから構わないけど、嫁が恥をかきますからねぇ・・ははは・・・」 そんな風に茶化した後、 「何でこんな病気になったのかなぁ~ やはり病気ってストレスが原因ですかねぇ・・? そんなストレスなんて感じていないんだけどなぁ~、やっぱり接待がストレスだったのかなぁ・・」 お酒が全く飲めないのにお客さんから誘われると無理に一口飲んで、あとは飲めない分、場を盛り上げるのに苦労していたようだった。 「あれがストレスと言えば、ストレスだったから自分が死ねば弟が同じ仕事をするはず。 弟まで同じ病気になっては大変だから、自分の給料を減らして人を雇うかなぁ・・・ 結婚したばかりでまだ子供はいないから、嫁はいずれ再婚できるだろうし・・・」 等と、家族の心配ばかりをされていた。 そして、 「今の病院に不満がある訳じゃないけど、自分はがんセンターに世話になる訳にはいかないんですよ。 がんセンターに入院なんてしたら、癌だって皆にバレるでしょう。 折角、自分に付いてきてくれているお客さんが離れてしまう。 今の病院なら、ちょっと酷い胃潰瘍で通せますから。」 とも、言っていた。 決して長いとは言えない余命を知りながら、その上で家族とその行く末ばかりを気にかけていた。 事実上、社長ともなれば自分の事は二の次にならざるを得ない。 病気以外にも重いものを背負っている患者さんだ。 「今の家業を継ぐまでは、決して人に自慢出来るような人生じゃなかった。 逆に人に言えるような仕事をしてこなかった。」 と、前置きをしながら今の仕事にかける自負を語っていた。 仕事の話の時は目が輝いていたな・・・ 2~3時間くらいだったかな・・・お互い声を出して時に笑い合い、こんなおしゃべりをした。 「でも、自分は全く死ぬ気がしていないし、絶対に治ると思ってますから。 誰にでも言える話じゃないから、聞いてくれてありがとうございました。」 と、言って元気に帰って行かれた。 あれから、1年が経過。 その後、連絡を頂いていないので、化学療法が奏効して多分お元気なのだと信じている。 お元気な時には、大抵皆さんご無沙汰してしまうから、元気な証拠だと思っています。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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