MUSUPERUHEIMU

MUSUPERUHEIMU

第七話

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―――正午―――横浜チャイナタウン―――

僕は左腕を意識しながら街中を歩いていた

 「フレイア、そんなに気にしなくても平気よ」

横を歩いていた諸悪の根源の叔母が
無責任にそんな事を言ってくる

 「…あのねシルヴィおねーさん街中でこんな物つけてるのが
  バレたら間違いなく連行されますよ?」

僕はそう言って左腕の小手を押さえる
そこには目には見えないが確かに金属の感触があった

 「だから解りゃしないってば」

そう言ってシルヴィおねーさんはけらけらと笑う

 「それは軍のマヌケどもにあっさり解るような技術じゃないさ」

…そう…叔母が勝手に僕の腕に取り付けたこの篭手は
皮肉な事に装着した事によって僕にもその凄さが理解できた
僕が目覚めた時に装着されてた事に気付かなかったのは
重量感…そう重さだった

装着感はちゃんと有るのだが
重さがまったく感じられなかった
叔母が言うには重力を遮断している為らしい

 (…まるで腕に何も着けてないみたいだなぁ)

 「フレイア何ぼっ~としてるの?店に入るよ」

 「あっはい」

目的の店に着いた事に気付かなかった僕は
叔母の声で思考が覚醒する
軍に出頭する前に食事をしようと叔母が言ったので
僕ら有名な中華料理店、秋子飯店に来ていた

 「さっ行くよ」

・・・・シュゥィーン・・・・・・

入口に立ち自動扉が開く

・・・・ワイワイ・・・・ワイワイワイ・・・・・

昼時という事もあって店内はお客さんで一杯だった

 「…おねーさんコレ…空いてるとこ有るんですか?」

 「だいじょーぶ予約しといたから」

 「よっ予約!?」

いつの間に…

 「あら?シルヴィスさんいらっしゃい」

 「こんちわ秋子さん御馳走になりに来たよ」

 「はい、お席用意してありますよ」

席を案内され店の奥へ通り向ける時

・・・・・カタ・・・・・

 「?」

小さな音が…本当に小さな音だったのに
なぜか僕には、はっきりと聞こえてきた

・・・・カタ・・・カタカタカタ・・・・

音のする方を見るとそこには

 「………」

着流し風の服に長い黒髪で隻眼の女侍が座っていた
その人の横に刀が立てかけてあり

・・・カタカタカタ・・・

音は刀から聞こえてきていた

 (…鍔鳴りしている…?)

・・・ヴォォォォ・・・

 (…!?)

突然、僕の左腕が共鳴するように震えだす

 (…まさかあの刀と共鳴を?)

刀の鍔鳴りに気付いたのかそれとも僕の視線を感じたのか
侍の女性は僕の方へ視線を向けた

 (あちゃ!…まずいかな?)

僕と女性の視線が重なりそうになったその時…

 「やっぱ店で食うと出来たてで美味いな」

 「だろ~?夕飯はラー博行こうぜ」

彼女と一緒のテーブルに座っていた
レイマーとハニュエールのそんな会話が聞こえてくると

・・・・ガタン!

侍の女性は椅子からずり落ちそうになる

 「…貴様等…」

彼女は口の端を引きつけさせながら立ち上がり

 「あたし達は何をしにこのエリア来たと思っている…?」

 「何をしにってそりゃぁ…」

女侍の問いにレイマーがそう答えると続くようにハニュエールが

 「……ヨコスカベースにカレーを食いに?」

そう答えると…

・・・・ぶちっ・・・・・・!!

僕にもそんな音が聞こえてきそうな彼女の感情が伝わってきた

 「こ、こ、こ、この馬鹿者ども……!」

店に気を使ってか彼女は押し殺した声量で怒りを示す

 (…ほっ助かった…今のうちに…)

注意が逸れた事で僕はそそくさと店の奥に進む

 「何やってたのフレイア?」

既に席に座っていた叔母が遅れてきた僕にそう言う

 「いや…ちょっとね」

 「ふぅん?」

そして僕も席に付いた

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俺は店の裏口をくぐり厨房に入り辺りを見渡した
そして目的の女性を見つけ手が空いている事を確認すると

 「…久しいな店長…」

と俺は声を掛けた

 「あらスルトさんじゃないですか?突然どうなさったんですか」

その女性は俺の声に気付きこちらに振り向いた
俺が店長と呼んだ女性は此処、秋子飯店の
店長であり料理長でありそして俺の料理の師でもある

 「…近所に来たので挨拶をな…」

 「それはありがとうございます、あっそうだわ」

彼女はぽんと手を叩くと

 「スルトさん少々御時間、頂けます?」

 「…構わないが…?」

 「良かった♪丁度新作料理を作ったんです
  食べてみて是非感想聞かせてください」

 「…それは…」

俺には確かにある事情で食事のできる機能が付いているが…

 「…アンドロイドの俺より他の者に頼んだ方が…」

 「お願いしますね♪」

彼女はまるで有無を言わさないように微笑みのまま俺を見つめる

 「………馳走になる…」

俺はその微笑みに抗えず承諾した

 「それじゃ席を用意しますので此方へ」

彼女に導かれ俺は店内へ向かうと
フロアには客が満杯に入っていた

 「…繁盛してるようだな…」

 「ええ御陰さまで」

彼女はそう答えつつ一つのテーブルに向かう

 「ごめんなさいシルヴィスさん相席頼んでもいいかしら?」

 「あたしは構わないよ?フレイアもいいよね?」

 「あっはい僕はOKですよ」

そのテーブルには碧色の髪のフォニュエールの女性と
同じ色の髪のハニュエールの少女が食事をしていた

 (…姉妹だろうか…?)

俺は彼女達を見てそう思いつつ

 「…すまん…邪魔をする…」

席をひとつ貰う

 「いえいえ気にしないで下さい」

緑の髪のハニュエールの少女はそう答えてくれた

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あたしはリチャードとアミに軽く説教したあと店の中を見渡してみる

 (…さっき刀が何かを感じたのが…)

横の二人のすっとこ発言の所為で見失ってしまった

 「…まったくこの漫才コンビ共め」

 「誰が漫才コンビだ誰が」

あたしの呟きにリチャードが文句を言うが

 「御前等以外に誰が居る!?」

一喝し黙らせる

 「ん?あれは…」

そんな時ふと奥のテーブルに見覚えのある後姿の男が居た

 (…あの白髪(はくはつ)の男…もしかして…)

あたしは確かめようと席から立ち上がり
刀を腰に差し奥のテーブルへと近づいた
だがあたしがその男に声を掛ける前に

 「あら…キミも此処で食事?」

・・・・ピキ・・・・・

一瞬あたしの世界が止まる

 (…こっ…この声は!!)

声のする方をみればそこには想像通りの人物が居た

 「…スゥか…」

白髪の男は話し掛けてきた赤毛のハニュエールにそう答えた

 (…スゥと知り合いと言う事は…)

やはりあの研究所で去りゆく異形に
飛び乗ったのはこの男の可能性が高いな

 「おや?もう一人意外な人物がいたわね」

スゥがあたしの存在に気付く

 「軍の縄張りで保安部が何をしてるのかしら?」

 「それはこっちの台詞だ、組織の者が何をしている…それに…」

あたしは視線をスゥから白髪の男にずらす

 「こちらの御仁との関係も知りたいとこだな」

 「彼との関係?そうね…」

スゥはちらっと男の方へと視線を向けると小さく微笑み

 「…あたしのステディってとこかしら?」

・・・・・・・・・シーン・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

一瞬辺りを静寂が支配する

 「…違「「なにぃぃぃぃぃぃぃ!?」」

周りの席から数人の男が叫びながら立ち上がり
白髪の男の言いかけた言葉を潰す

 「あっあっあねさん!ひでぇッスよ!俺らというものがありながら!」

 「そうッスよ!」

こっ…こいつら…スゥの子分共か…(汗)
この前のジェロニモって男とあのレイマーは見かけないようだけど…

 「へぇ~?あれがスゥの彼氏かよ」

いつのまにか横に来ていたアミが桃饅を齧りながら呟き

 「先越されたな?ミフネ」

ぽんっと後からあたしの肩を叩きながらリチャードがにこやかに言う

 「…涅槃に送られたいかリチャード…(怒)」

男達の泣き言と相棒の感嘆と上司の阿呆な言動に囲まれ
あたしは怒りの衝動を覚えた…そして白髪の男は


誤解
 『…違う…』


 「…違う…」

と、寂しく呟くがあたしを含め騒いでる連中の耳には届いてなかった…


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